第30話 自白魔法の副作用

「アラン様はもう大丈夫そうね」


「だな。しかしまぁ、ひでえことしやがるぜ。確かにあの人、性格悪かったし過去の恨みがすべて消えたわけじゃねぇけど……今回は誰もあの人のせいで死んでないのに、なんで大量殺人者になってんだ」


「アラン様のせいにして政敵を葬るなんて怖いことするわよね。実は前回もアラン様は操られただけだったのかしら」


「そうかもなー。リーリアの我儘のせいで町が滅びたってのも、大げさに広がってたのかもしれねぇ。今となってはもう分らねぇ。もしかしたら、俺は……リーリアに厳しくしすぎたのかもしれねぇな」


「あの頃のわたくしはわがままだったからね。あれくらいでないと怠けたままだったかもしれないわ。過去は変えられない。けど、未来は変えられるわ」


「いいな、その顔。あん時と同じだ」


「あの時?」


「俺とリーリアが初めて会った時」


「コーエン侯爵の家でクライブに会った時の事かしら」


「いや、違う。子どもの頃、虹を見て魔力の訓練をするって張り切ってたリーリアだ」


「……結局、クライブがいないとやる気が出なくて、訓練はあんまりしなかったのよ」


「子どもだったしなー。甘やかされりゃそうなるさ。あん時、俺はリーリアに惚れたんだ」


「あれだけ評判が悪かったのに、帰って来てくれたのはそういうこと?」


「あの頃はこんな未来が来るなんて思ってなかったけどな」


「そうね。ようやくあの日と同じ年齢になったわ。ねぇ、今のわたくしはちゃんと王女をやれている?」


「ああ。優しい、立派な王女様だ」


「優しいだけじゃ、駄目よね」


「……だな。アラン様のところに行くぞ。今のあの人なら大丈夫だ」


リーリアとクライブは、アランと再会した。

宿屋の主人が心配して側を離れなかったので、彼にもリーリア達の秘密を話した。


アランは憑き物が落ちたように温厚になり、リーリアとクライブに謝罪した。


実は、アランが住んでいる街は過去では滅んでいる。クライブの魔法は、宿屋の主人も救っていたのだ。


「はぁ……なんかすげぇスケールの大きな話でついていけねぇんだけど……とにかく、アランは人殺しなんてしてねぇって事ですね!」


「そうです」


「とても言いにくいのだが……私はリーリア王女の家族もクライブ様の家族も殺しているのですよ」


「わたくしのせいで多くの民を苦しめたわ。あなたの比じゃないくらい、わたくしのせいで人が死んでる」


「いや、今のリーリア様は何もしていないじゃないですか! クライブ様を陥れようとした私と兄が悪いのです」


「んじゃ、今のアランも何もしてねぇって事になるよな。それより、やっぱ俺を陥れようとしたのか?」


「うっ……」


クライブの圧に怯えるアランを、主人がかばった。


「アランは王子だったのかもしれませんけど、今は単なる平民です! どうか、許してやってください!」


「いい人に雇ってもらえたみたいっすねぇ。アラン王子様」


「……私はもう王子じゃありません。その節は、大変申し訳ないことをしました」


「リーリア」


「ええ、アラン様の謝罪を受け取ります。貴方を責めるつもりはありません。我々の魔法に巻き込んでしまい、記憶が戻って混乱してしまった事でしょう。けど、あの時の事を詫びるつもりはありません。わたくしは、どうしても家族を取り戻したかった。もう使えないけど、その手段を持っているクライブに……縋ってしまったの」


「当然だと思います。クライブ様が時を戻して下さったおかげで、私はここにたどり着けた。両親や兄と過ごした日々よりも、今の方が幸せなんです。なんであんなに兄にコンプレックスを抱いていたのか、今となっては分かりません。兄はあっさりと私を切り捨てました。あんなに認めてもらいたかったのに、その為に、リーリア様の家族に手をかけたのに……あの時の私は怖いだけで、幸せではありませんでした。今はとても幸せです。きっと私は……王族に向いていなかったのですよ」


「やたら自白魔法を使ってたのも、怖かったのかもな。そういや、自白魔法が禁止されてる理由の1つに、乱用すると疑り深くなって人を信じられなくなるってのもあったな」


「そうなの? なら、あの頃の貴方の性格は魔法に振り回された結果なのかもね。もうなくなったから言っちゃうけど、わたくしは生まれつき魅了魔法を持っていたんですって。だからわがままが通りやすくて、あんな最低最悪の王女様になっちゃったって訳」


「そうなのですか?! では……私が聞いていた噂も嘘だったのですね」


「噂?」

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