第31話 最後の仕事

「ええ、兄が言ってました。リーリア王女は罪のない民を捕らえ、拷問するのが趣味だと」


「そんな事してないわよっ!」


「……俺が聞いてた噂よりひでぇな。もしかして……リーリアの悪評には嘘もだいぶ混じってたんじゃねぇか?」


「兄なら、やりかねませんね。いつも言ってました。全て嘘を吐くのではなく、真実に嘘を混ぜろと」


「今回も同じような事してるもんな。アランが魔法を暴走させたのは本当だけど、誰も死んでない。怪我人だって、城ならすぐ魔法で癒せたはずだ。けど、みんなアランが罪のない使用人や貴族を皆殺しにしたと思ってる」


「記憶がないので、何とも言えませんが……人に向かって魔法はしていませんよ。でも、頭に血が上っていましたのでいろんなものを破壊した記憶はあります。そのせいで死んだ人がいたかもしれません」


「待ってください! こいつ、よく周りを見てますよ! そんなひでぇ事する奴じゃないです!」


「分かってる。話が聞けて良かった。アラン王子。あなたは王族に戻りたいですか?」


「絶対に嫌です。ここが私の居場所なんです」


「分かりました。ですが、最後に王子としてご協力をお願いできませんか? 嘘を広げる王族をこのままにしておく訳にはいきません。リーリアの夢を叶えるためにも、世界中の人々の為にも。だけど、我々だけではうまくいきません」


「内政干渉になりますからね。私なら、兄を糾弾できます。分かりました。ご協力します。ただし、何度も言いますが私の居場所はここです」


「分かっていますわ。事が終われば必ずアラン様をこちらにお連れします。まずはアラン様に付いてる監視魔法を偽造しますわね。今は結界の中なので監視魔法は無効化されています。ご安心下さい」


「監視?!」


「ええ、アラン様から監視魔法の気配がします。おそらく、持ち物のどれかに付いていると思いますわ。今はよくても、今までは会話が聞かれていたかもしれません。思い当たる物はありますか?」


「もしかして、これでしょうか? 兄が最後にくれたんです。防護魔法がかかっているから、大事にしろって……最後の……優しさだと思ったのに……」


アランの出した美しい包みを一目見て、リーリアは顔をしかめた。


「残念ですけど、これですわね。クライブ、分かる?」


「すまん。なんとなく魔力を感じるが……監視魔法の気配は分からねぇ」


「あ、あの、リーリア様は魔法が苦手だったのでは……」


「今のリーリアはカシム様と張るくらい凄腕の魔法使いだ。俺なんか目じゃねえくらいすげぇよ」


「わたくしはクライブみたいに剣を扱えないわ。それに、あんな状態で過去に戻ったら修行くらいするわよ。きっとクライブの教え方が良かったのね。アラン様、これをお預かりしてもいいかしら?」


「も、もちろんです! 監視されてるなんて気持ち悪い! 差し上げます!」


「ありがとう。ご主人、一芝居うって頂ける?」


「なるほどねぇ。アランの兄上がここに来ないように、ですかい」


「そうよ。彼を追い出す演技をして欲しいの。もちろん、貴方の評判が悪くならないように魔法で隠すわ。アラン様、ご協力下さい。あなたのお兄様が我々の予想通りの人ならば、きっと近いうちにうちの城に来て下さるわ。あなたの故郷、今大変みたいよ」


「そうなんですか? 私のせいですね」


「アランのせいじゃ……あー、まぁ魔法暴走させたのは悪いけど……アランの過失は半分ってとこだな」


「あら、3割程度じゃなくて?」


「リーリアは意外と甘いよなぁ。やっぱ、前の旦那だからか?」


「クライブでも嫉妬するのね。わたくし、すぐに幽閉されてアラン様と触れ合った事もないわよ」


「そうなのか?!」


「……その、無理やり結婚はしたのだが……リーリア王女は私を親の仇のように睨んで……会話にならなくてですね……」


「実際、親の仇だもんな」


「申し訳ない!」


「わたくしも悪かったんだし、クライブのおかげで無かったことになってるんだから良いわよ」


「今でも悪夢を見る癖によく言うぜ」


「そんなの平気よ。目が覚めればクライブがいるもの。それに、家族もわたくしの事情を知ってて助けてくれる。クライブのおかげでやり直せても、わたくしの罪は消えないわ。一生背負って生きていくの。時を戻った意味があるようにね」


「アラン、これがリーリアだ。見習えとは言わねぇが、今後生きてく上でちょっとは参考にしてくれ。前はもっと自信満々だったろ? 良い人に雇われたみたいだしさ、ビクビクすんのは終わりにしようぜ。過去を知ってんのは俺ら3人だけなんだし、人目がない時は上下関係なしでいこうぜ」


「自分の何が間違っていたのか、少しだけ分かった気がするよ。クライブ……時を戻してくれてありがとう」


「まさかお礼を言われるとはな」


苦笑いするクライブに笑顔を返し、アランはリーリアに頭を下げた。


「リーリア王女、私は貴女の想いに賛同します。この国の人達は優しく温かい。クライブ様は心から民を案じ、命懸けで民を救ってくれる。外面だけ取り繕う兄とは大違いです。もう王子ではありませんが……故郷の民も同じように幸せになって欲しいと思います。私は少しなら兄のやり方が分かります。存分に使って下さい。確かもうすぐカシム様が即位しますよね? 儀式にうちの国は呼んでおられませんよね?」


「まだ国交を断絶したまんまだからな」


「兄はきっと、私を監視しているでしょう。それを利用すれば、兄をおびき寄せられます。既に国の信頼は失墜している。私のせいにしてなんとか逃れようとしているみたいですが、そんなの許されません。私は、自分のやっていない罪を被るつもりはない」


「良い顔になってきたじゃねぇか。敵じゃなきゃ頼もしいもんだな」


「私は貴方達の味方だよ。私の居場所はここだ。絶対に守り抜いてやる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る