第29話 リーリアの蒔いた希望
「良いんですか?」
「アランがいてくれなきゃ困るんだ。うちの大事な従業員で……あーまぁ……2人目のでけえ息子みたいに思ってんだよ。だからさ、いつまでも過去にとらわれんなよ。お前は王子じゃない。働き者のただのアランだよ」
「……魔力、無しです」
「んなもん、無くてもどうにかなるって。実際、1年うちで働いてどうよ? 魔力なくてもどうにかなってんだろ?」
「……はい。みなさんに助けられて……なんとか……」
「その分アランは他の事でみんなを助けてる。卑屈になるなよ。クライブ様だってなぁ、俺らを助けてくれた時は魔法なんて一切使わなかったんだぜ! もう死ぬ、そう思ってたらあの人が颯爽と助けてくれたんだ」
「……魔法を……使わずに……?」
「おう。すっげえかっこよかったぜ。俺さ、なんとなーく魔力が見えんだよ。あんまりはっきりわかんねぇんだけど、アランは会った瞬間すぐ魔力無しだって分かった。クライブ様も、最初会った時はアランと似たような感じだったぜ。なんか違うんだけど、2人とも魔力はなかったと思う。けど、1年前お会いしたクライブ様は身体中から溢れそうなくらい魔力があった。もしかしたらさ、アランもクライブ様みてえにいつか魔力が……」
「いえ、私は無理です。今の話を聞いて分かりました。クライブ……様はきっと魔力の核が傷ついていただけ。核は残っていたのでしょう。私は核が砕け散ってしまいました。一生魔法が使えません」
「魔力の核かー。なんかそんな話ばあちゃんがしてたなぁ。ま、どっちでも良いだろ。魔法なんて使えなくても生きていける。アランは立派に生きてんじゃねぇか」
「……そうですね。魔力の核を壊したのは私自身なんですから」
「あんま触れねえようにしてたんだけどさ、辛いなら話くらい聞くぜ。人間生きてりゃ失敗もするだろ。アランの起こした事故の話はこっちにも回って来たけどな、俺は全部本当だとは思ってねぇんだ。街の奴らもそうだ。やたらアランの悪評が広まってるけどよ、嘘もいっぱいあるんじゃねぇの?」
「私の悪評……ここにも広がっていたんですか……」
「あー……この街の奴らはみんなクライブ様に命を救われたんだ。だから、あの人が関係する話は広がりやすいし忘れねぇ」
「それなのに、みんな私に優しくしてくれて……なんで……」
「アランが噂通りの傲慢な男なら誰も助けなかったと思うぜ。けど、アランは怯えてビクビクするだけでなんも悪い事してなかったじゃん。それにさ、魔力の有無で差別しないってのは、リーリア様の願いでもあるんだ」
「リーリア……様の?」
「リーリア様はアランがここに来る少し前に結婚式を挙げたんだ。転移魔法で全ての街や村に来てくれてな。もちろんうちにも来てくれて話をしてくれた。俺はあんま知らなかったんだけどさ、魔力が多いか少ないかで扱いが変わる事も多かったんだと」
「……そんなの……当たり前で……」
「リーリア様は、そんなくだらない理由で差別するなんてやめてほしいって訴えたんだ。貴族様って大変だよなー。魔力が少ないだけで廃嫡されちまうんだと」
「そんなの……よくありました」
「今、うちの国でそれやったら取り潰しだ。元々国王陛下は駄目だって言ってたらしいんだけどな、こっそり廃嫡する奴らがあとをたたなかったんだと。追い出された貴族は王家が保護してたらしいぜ。中には得意魔法が違っただけで魔力がすげえある人も混ざってたらしい。そんなのおかしいって言ってな、リーリア様が中心になってキッチリ法を整えたんだ。平民は関係ねぇけど、やっぱり魔力が多いと偉いみてぇなのはあった。それが全部法で禁止されたんだ」
「信じられない……そんな事……」
「他の街は少しずつ差別をなくしてるみてぇだけど、うちの街は命の恩人のクライブ様が頭を下げて頼んできたから一斉に差別がなくなった。すぐに意識は変わらなくても、互いに注意しあってるから他の街よりだいぶマシだぜ。そんな時、アランが来たんだ」
「じゃあ……私が魔力無しだから……アランだから……助けてくれたんですか?」
「いや、単に困ってそうだったから声をかけただけ。お前がアランでもアレンでもカレンでも変わんねぇよ。人手が足りてなくて困ってたのも本当だしな。働き者の良い男を雇えて俺はラッキーだぜ。辞めるなんて言わないでくれよ?」
「……言いませんよ……私は他に行くところがないんですから……」
「そうか! 良かったぜ! いやーいつまでも黙ってるのも悪いしよぉ、けど言ったらアランがいなくなっちまいそうでなぁ」
豪快に笑う主人の目の前にいるのは、ただのアランだった。王になるよりも、ここにいる優しい主人の元で暮らしたい。
アランは生まれて初めて、心から幸せだと思えた。
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