第28話 アランの生きる意味
「……兄上……父上……母上……」
「お前はもう家族じゃない。追放で済んで良かったな」
「なんで……兄上だって……」
「アランがクライブ殿を歓迎したいと言うから王族を集めたんだ。まさかあんなことを言い出すなんて……」
「ふざけるな! 兄上が!」
「いい加減にしろ。アラン、お前はもう私の息子ではない。二度と姿を現すな」
「父上まで……もういい……こんなところ、壊れてしまえっ」
アランは持てる全ての魔力を解放し、城を破壊した。死者は出なかったが、大勢の怪我人が出て、国の機能はストップした。
それでも、アランは止まらなかった。暴れるアランの魔力は暴走し、暴発した。
かろうじて生きていたアランが目覚めると、身体から魔力が感じられなくなっていた。
アランの魔力の核は、完全に砕け散った。
アランは傷を魔法で癒やされ、お金を与えられて放り出された。
城を破壊し、魔力を失った王子を助けてくれる国民は誰もいなかった。たくさん寄って来た令嬢達は蔑みの目を向け、媚びへつらっていた貴族達には罵倒された。
逃げるように国を出たが、アランの起こした事件は有名になっており、近隣諸国の者達はアランが魔力なしになったと知っていた。顔も知られていたアランはあらゆるところで差別された。
苦しくて、悔しくて、悲しかった。
どうして魔力がないだけでこんな目に遭うんだと何度も考えたが、答えは出なかった。
あちこちの国を放浪するうちに時が経ち、アランの事を知る人は少なくなった。アランは以前の傲慢さがなくなり、魔力が無いとバレないようオドオドと人の顔色を伺うようになった。しかし、暮らしていくにはどうしても魔力が必要だった。
貴族や王族なら人に世話をして貰えるが、平民は自分の世話を自分でしないといけない。使用人を雇う金など、アランにはなかった。
魔力が少ないと誤魔化しても、数週間もしないうちに周りにバレて白い目で見られてしまう。耐えられないアランはすぐに街や村を出て逃げる。そして、新しい暮らしを始め、また逃げる。
そうこうしているうちに大量にあった金銭は全て使い切ってしまった。
あちこちを転々としたアランは最後にドゥーラント王国に辿り着いた。ドゥーラント王国でも、アランの魔力が無いとすぐにバレてしまった。
だがもう引っ越すお金はない。
途方に暮れていたアランに、人々は優しかった。
「魔力が無いなら困るだろう」
かけられた事のない言葉にアランは戸惑った。アランの魔力が無いと知った人々は、次々とアランを助けてくれた。
今までは、罵倒されたり蔑まれたり無視されたりしたのに、ドゥーラント王国の人々は誰もそんな事をしなかった。
緊張の糸が切れたアランは、大声をあげて泣いた。
魔力が無い、お金もない、なにもないと泣き叫んでいると、小さな男の子が僕も魔法苦手でお小遣いも少ないんだ、お兄ちゃんとお揃いだねと慰めてくれた。
男の子の父親は、宿屋の主人だった。彼は良かったらうちで働かないかとアランに声をかけてきた。
恐る恐る魔力が無いと言えば、知ってると笑顔で返された。魔力が無くても出来る仕事はいっぱいあるし、人手が足りないから働いてくれたら助かると豪快に笑った。
アランはようやく、安心して暮らせる場所を手に入れた。
華やかなものは一切ない。だけど、暖かく優しい人々に囲まれた暮らしはアランの心を癒やしていった。
平民の暮らしに慣れたアランは、幸せに生きている。
1年後、アランはふと疑問に思いどうして自分を助けてくれたのかと主人に聞いた。
「俺はクライブ様に命を救われたんだ。前は俺らも魔力が多いとか少ないとか、くだらねえ事を言ってたんだ。けどな、リーリア王女の旦那様……クライブ様が魔力無しだと疑われる事件が起きてな」
主人の話を聞いて、アランの身体が強張った。
「アランがやったんだろ? 知ってるよ」
「……なんで知ってるのに……私を雇ってくれたんですか……?」
「だってアラン、金なかったろ? 放っておいたら死んじまうじゃねーか。タダで住まわせる訳にはいかねえんだ。働いてもらうしかねぇだろ」
「そうじゃ無くて! クライブに救われたのなら、私は敵のはずだ!」
「クライブ様だ。アランはもう平民だろ? あとな、敵じゃねぇよ。クライブ様やリーリア様はアランの事を敵だなんて思ってねぇ」
「なんでそんな事が分かるんですか?!」
「リーリア様やクライブ様はアランを探してたんだぜ」
「……探してた……? 私を殺す為に?」
主人はいつものように豪快に笑った。
「だったらアランは俺に会う前に死んでるよ。クライブ様もリーリア様も凄腕の魔法使いだ。多分、あの2人が本気になりゃアランを探すのなんて簡単さ。実際、アランがうちで働くようになってから1か月くらいしたらクライブ様がうちに来たからな。アランの様子を聞いて、安心しておられた。もしアランが街を出たら保護するから教えて欲しいって言われてたんだけどな。すっかり忘れてたぜ。いつまでも隠しておくのも柄じゃねぇしな。これからもうちで働いてくれよ」
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