第19話 不穏な影
クライブが城に保護されて、家族と再会し、リーリアと楽しく過ごしていた頃。
ひとりの男が記憶を取り戻した。
「くそっ! あと少し……あと少しだったのに……! なんで小さくなってるんだ……! まだあいつは生きてる……! これじゃ自白魔法が使えないじゃないかっ!」
アラン・ マクドナルド ・フィグ。
ドゥーラント王家を乗っ取ろうとした男は、10歳の少年に戻っていた。
「アラン、何を騒いでいる。剣術の授業が始まる。さっさと来い」
「は、はい。兄上」
優秀な兄には、何をやっても敵わない。
みんな、兄ばかり褒める。
自分は単なるスペアだ。
コンプレックスを拗らせたアランは、野心の塊のような男になった。ドゥーラント王家が圧政を敷いていると各国で問題になり、アランが兄の名代で調査に赴く事になった時も、自分の役割を理解せず兄の名代という肩書に不満を募らせていた。
調査に赴く直前、アランに自白魔法を教えた教師が病で他界した。
自白魔法を自由に使えるのではないかと考えたアランは、城のメイドに自白魔法をかけた。
以前面白半分で自白魔法を使った時は大問題になり、1ヶ月の謹慎処分になった。
謹慎処分になっても構うものか。兄の名代なんてごめんだ。
やけくそ半分、興味本位半分で自白魔法を使ったアランを咎める者は誰もいなかった。
その瞬間、アランの心に燻っていた野心の炎が燃え上がった。
アランは密かに、ドゥーラント王国を乗っ取る計画を立てた。自白魔法を駆使して人々をコントロールし、ひとりで王族に会う事に成功した。
まずは、国王に自白魔法をかけた。しかし、自白魔法は本人の望みに反する命令はできない。国王と王妃、2人の王子に順番に魔法をかけて国を譲れと命じてもダメだった。
最後に全員が守っている王女に魔法をかけると、びっくりするくらいなにも考えていないと分かった。
自白魔法を使って国を合法的に乗っ取るのは無理か。アランは彼等を殺して国を乗っ取ると決めた。アランが隙を窺っていると、自白魔法をかけた王族達が順番に正気に戻り始めた。
彼等は、アランへの攻撃的な態度を改めて優しく話し始めた。
民の事などなにも考えない暴君だと聞いていた国王は、父のように立派な考えをしていた。
多くの村や街を滅ぼした残酷な王太子は、兄のように民を思いやる優しい男だった。
もうひとりの王子も、自分と違い兄を尊敬している立派な王子。
アランのコンプレックスが刺激され、敵意に変わるまでに時間はかからなかった。
にこやかに笑い握手を求めた第二王子、慌てて倒れた弟に駆け寄った王太子、娘を守る母、最後に国王に手をかけた。
国王は憎らしいくらい冷静で、アランの意図を見抜き、自身の死期を悟り、娘だけは守ろうと椅子に封印を施した。
仕方なくリーリアを懐柔しようと自白魔法をかけたが、目の前で家族を殺した男に心を開いてはくれなかった。
そこで、アランはリーリアが気に入りそうな男を探した。
国中を探しても見つからず、古参のメイドに聞いてようやくクライブを存在を知った。
クライブに自白魔法をかけて本心を確かめて、リーリアと会わせた。半年も待ったのに、最後の最後で失敗した。
アランは再びドゥーラント王国を手に入れる為、密かに動き始めた。
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