第18話 まだ子ども

18.まだ子ども

「それは分からぬ。魅了魔法には不可解な事柄が多過ぎるのだ。王家に資料が残っておらぬ。コーエン侯爵家に赴き、調べさせてもらう」


「どうしてコーエン侯爵家には資料が残っていたのですか? あの家は騎士の家系でしょう?」


「元々我が家は平民でした。先祖が宮廷魔術師になり爵位を賜ったのです。その為、魔法に関する記録はとても大事にしています。魔法に関する記録はどんな些細なものでも残すと決まっており、メモすら全て保管されます。時が経ち、武術に力を入れ騎士を多く輩出するようになりいつの間にか騎士の家系と呼ばれるようになりましたが、魔法の訓練は幼い頃から行います。魔法の本や記録も家にたくさんあります。魅了魔法の記録は極秘中の極秘だったようですね。厳重に隠されていました。王家に一切魅了魔法の記録がないのなら、意図的に隠されていた可能性がありますね。魅了魔法を持つ者が人々を操り記録を消したのでは? 我が家の当主は必ず自白魔法を習得しますので魅了魔法が効かないのです」


「なんだと?」


「魅了魔法を知る者がいなくなれば、どんなに異常な事が起きても疑われません。好き放題できます。私が魅了魔法を持っているなら、皆を操り魅了魔法の記録を消しますね」


「クライブがそんな事をするとは思えんが、確かにその通りだ。あり得るな」


「兄上はずいぶんクライブを信頼しているのですね」


「そうだな。魅了魔法に囚われたクリストファーはかなり失礼な態度だったが、彼は一度も嫌な顔をしなかった。中身が大人であっても理性的な人物だと思う。それにな、クリストファーは自分の魔力を全て失うと分かっていて魔法を使うか?」


「使いませんね。魔力がなくなるなんて考えられません」


「私もだ。クライブはリーリアに何も説明しなかったそうだ。魔力がないまま子どもに戻ればどうなるか……きっと相当な葛藤があったに違いない。コーエン侯爵はクライブを離れに隠して育てていたが、普通の貴族なら捨てられるだろう。下手したら殺される可能性だってある」


「そうですね。あり得ないとは言えません。魔力が少ないだけで、似たような事例をたくさん聞くのですから。流石に殺されはしないでしょうが……」


「甘いな。魔力が少ない者と魔力がない者。その差は大きいぞ」


「王家はそのような貴族を保護しておる。魔力が少ないだけで殺されかけた者も少なからずおるな。法を変えたいが、反対派も多くてのぉ」


「むやみやたらと王命を出すわけにもいかないからね。まずは我々が魔力量の有無で差別しない姿勢を見せないといけないんだ。ん? どうしたのクライブ。君の知ってる王族の姿とずいぶん違うかな?」


「……は、いや。そんな事はないのですが……」


「はは、リーリアの言ってた通りだ。大人の記憶があっても、心はまだ成長しきっていないんだね。その顔は年相応で良い。君達はまだ子どもだ。ゆっくり大きくなりなさい。すぐに家族を呼ぶから、失われた時間を取り戻してくれ。この部屋の会話は外に漏れないようにしてある。安心して過ごしてほしい」


王太子、カシム・フォン・ドゥーラント。多くの街や村を滅ぼした暴君だった王太子は、優しく民を思いやる名君の素質を持っていた。


彼がおかしくなったのは、リーリアは出来損ないだと悪口を言っていた貴族達を、ありもしない罪で処刑してからだった。


どんどんリーリアの魅了魔法に囚われていき、死ぬ間際まで必死で妹を守り続けた。民の事など考えず、妹の幸せだけを考えて生きていた。


しかし、今はあり得ない未来だ。


カシムは二度と魅了魔法に囚われる事はない。最愛の妹の為であっても、民を犠牲にする事は許さない。

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