第15話 魅了

「こちらの記録をご覧下さい。今は騎士を多く輩出しておりますが、元々我が家は魔法の研究が認められ爵位を賜わりました。その為、魔法に関する記録はどんな些細なものでも残すと決まっているのです。私も全てを把握できておりませんが、魅了魔法についての記述は当主交代の際に確認します。ここにございます」


コーエン侯爵が取り出したのは、雑にまとめられた紙束。


「これは私も見ていませんでした。魔導書は全て読んだのですが」


「雑に置いてあるのはわざとなんだ。お前のように勝手に隠し部屋に入った者がいても、目に留めないように対策してあるのさ。それにこのメモをそのまま読んでもダメなんだ。大半は無駄な記述で、重要な情報はあちこちに散りばめてある。知らない者が見れば単なるメモや日記にか見えぬ。だが、決められた順につなぎ合わせ、端の文字を拾っていくと隠された魅了魔法の記録が読めるようになっている」


「これは見事だね。こうすれば漏洩のリスクは低くなる。うちでも採用しようかな」


「どうぞどうぞ。やり方は少し変えたほうがよろしいと思いますが。私でよければご提案しますよ」


「うむ。後で使者を送る。今はその記録を教えてくれ」


「はい。読みます。念のため防音の結界も重ねます」


コーエン侯爵は失われた魅了魔法の記録を読み進めていく。


「魅了魔法は、後天的に得られるものではない。生まれつき得ているものだ。特に、高位貴族や王族が得ることが多い。だが、安心して欲しい。魔力を高める訓練をすれば良い。そうすれば、魅了は使えなくなり自然と消える。魔法が使えない者はいない。貴族や王族は必ず訓練をする。だから、問題ない。ただし、魅了は術者を愛している者にはとてもよく効くので注意が必要だ。それ以外の者は、1年以上接しないと効かないのであまり警戒しなくとも良い。今は平民も幼い頃から魔力を高める訓練をするので問題にならないだろう。令嬢が王侯貴族を魅了し、贅沢三昧したせいで国が傾いた事もあるが、現在はありえない。しかし、念のため魅了魔法の対策を教えておく。魅了魔法を習得した者に自白魔法を使えば良い。そうすれば、魅了魔法は永久に使えなくなる。自白魔法は対象者の心の奥底を無理矢理覗くので、生まれつき持っている魅了魔法を破壊してしまうのだ。もし魅了を持つと思われる者がいれば、表沙汰にならないよう対策して自白魔法を使え。自白魔法を習得している者は魅了が効かない。よって、当家は必ず自白魔法を習得するようにせよ。魅了魔法をかけられ家を滅ぼされるわけにいかぬ」


「なんだこれは……! 王家の記録にこんなもの残っていないぞ」


「先代は魅了魔法はもう存在しないから念のため伝えているに過ぎないと言われました。代々伝える決まりだからと。とても軽い扱いだった事を覚えています。自白魔法を覚える時も、魅了魔法と関連付けたりしませんでしたね。自白魔法を防ぐ為に覚えておりました。我が家は自白魔法をかけられた時にかかった振りをする為、幻術魔法も早くから覚えます。もちろん、我が家の者は自白魔法を使った事はありません。ご安心ください」


「……まさか、さっきは……」


「ええ、王太子殿下の自白魔法は発動しておりません。王太子殿下に自白魔法を伝えた方がどなたかは存じませんが、本日のやり取りが明るみになる事はありませんのでご安心下さい」


「自白魔法は、人から人に伝えるしかありませんからね。使えば師匠にバレてしまいます。王太子殿下は、自らの地位を捨ててまで私を探そうとして下さったのですね」


「待って、意味が分からない! コーエン侯爵は自白魔法にかかっていないの?」


「私も自白魔法を使えますから、効きませんよ」


「ねぇクライブ」


「なんでしょうか? リーリア様」


「わたくしにも自白魔法を教えてくれたわよね?! 使うなとは聞いてたけど、使ったら使用がバレるなんて聞いてないわよっ! なんで説明しなかったのよっ!」


「教えたのは私ですから。リーリア様が自白魔法を使っても、私が黙っていれば問題ありません。それに、細かい説明をする時間がありませんでしたので。ややこしい説明をする時間があるなら、修行や勉強に充てて頂きたかったのです」


「もう! 効率主義もほどほどにしてちょうだい!」


「申し訳ありません。ところで王太子殿下、王家の方はみなさん自白魔法を覚えるのですか?」


「いや。禁忌とされてるから覚えない。私は魔法の修行で森に籠っている時、偶然師匠と出会って教えて頂けたんだ。父上にも内緒にしてある。使ったら国中にバラすと言われている。知らない方が安全だと思っていたが、今後はそういうわけにいかないな。せめて国王だけは使えるようにしておかないとまずいかもしれない」


「話を逸らさないでクライブ! わたくしは魅了魔法を持ってるのね?」

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