第14話 父の願い
「目の前に執事がいるのに、我々に気が付かない。リーリア様の魔法は見事ですな」
「ありがとう。クライブが教えてくれたの」
「そうか……クライブが……」
「父上、いちいち泣かないで下さい。隠し部屋に着きましたよ。話の続きを」
「クライブは照れているのよ」
「リーリア様?! 余計な事を言わないで下さいっ!」
「う、ごめんなさい……」
「あ、あの。怒ってはおりませんから……」
「そうなの? なら良かったわ」
「父上、早く続きを!」
(リーリアめ。クライブをからかっているな。いつも真面目なあの子も、あんな顔をするのだな。きっと2人は親しい間柄だったのだろう。リーリアはずっと無理してきたんだろうな。私もリーリアと同じ訓練をしていたが、一日中ずっと魔力酔いのまま過ごすのは無理だった。私は毎日時間を決めて少しずつ進めて、先日ようやく修行が終わったばかり。リーリアは生まれてから今までずっと……それほど、怖かったんだろう。もう苦しませたりしない。あの子の笑顔を、必ず守ってみせる。まずは、クライブから話を聞かないと。私や父上が圧政を敷いて国を滅ぼす……か。怖いな。もっと学んで、攻められても防げるように訓練が必要だ。父上とも相談しないと。……いかん。恐怖でおかしくなりそうだ。リーリアはずっと、こんな苦しみを抱えていたんだな。可愛い可愛い、私の妹。今度こそ、幸せになってほしい)
「お兄様、どうなさったの?」
「なんでもないよ。リーリアが楽しそうで良かったと思ってね」
「ええ、わたくし今が一番楽しいわっ!」
「そうか。これからもっともっと楽しい事がある。リーリアは、もっと幸せになるんだ」
「そうですよ。リーリア様は世界一幸せになるべきです」
「もう! クライブまで! 大丈夫よ。あなたのおかげでとっても幸せだから」
「うおっほん」
リーリアに釘付けの息子と王太子に呆れたコーエン侯爵は小さな咳払いをした。
「それは良かった。さ、父上。話の続きと参りましょう」
「クライブよ。ワシの存在を忘れておっただろう」
「いやいやそんな。偉大なる父上を存在を忘れるなんてとんでもない」
「……ふん。そういう事にしておいてやろう。王太子殿下。この記録をお見せする前にふたつお願いが」
「む、なんだろうか?」
「まず、我が家は王家に逆らった事などありません。様々な魔法を覚えてはおりますが、間違った使い方をした事はありません。当主がきちんと監視しています。我々を危険視しないで頂きたいのです」
「分かった。君達がどんな魔法を使えても、咎めないし疑ったりしない。ひとつめの願いは受け入れよう。あとひとつは何かな?」
「クライブを連れて行くのは構いません。リーリア様の魔法を駆使すれば、誰にも知られずクライブは城に入れるでしょう。しかし……クライブは私の大切な息子です。閉じ込めていても、大切な息子なんです。どうか……また会えるように取り計らって頂けませんか?」
「もちろんだ。クライブが望むなら侯爵だけでなく、侯爵の家族とも会えるよう取り計らう。それに、ずっとクライブを隠すつもりはない。落ち着いたら身分を用意するよ。実子とは言えまいが、クライブをコーエン侯爵家の養子にすれば良い。ご家族には真実を伝えてはどうだ? 夫人は死んだと思っていた息子が生きていれば嬉しかろう」
「しかし! 私は魔力がありません! 貴族になどなれるわけが……!」
「知ってるし、見れば分かるよ。リーリアも分かるかい?」
「う……ごめんなさいお兄様。わたくしには分かりませんわ」
「そうか。目に魔力を集めれば良いんだ。あとで教えてあげるよ。魔力がないと分かれば奇異の目に晒されるが、核はあるのだから魔力が極端に少ない人物を演じる事はできるだろう。クライブは騎士だったのだろう? 剣の腕があれば魔法を使わずとも地位を高める事ができる。うちの騎士団には、魔力が極端に少ない者もいる。とても優秀な隊長だ。騎士でなくとも良い。王家の持つ権力、財力、人脈の全てを使いクライブを保護し、隠れなくても生きられる道を必ず見つける。クライブは妹の為に全てを投げうってくれた忠臣なのだから」
「王太子殿下……!」
コーエン侯爵は、静かに涙を流した。
「さ、話の続きといこうか。心当たりがあると言ったね。魅了魔法が存在するのかい?」
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