第13話 父の愛

「クライブはあの本を読んだんだな」


「はい。以前の私は単独で城に出入りを許されるほど魔法が得意でした。もっと魔法を学びたくて、屋敷中の魔導書を魔法で探したのです」


「ははっ。無茶苦茶だな。そんな事されたら一撃だ」


父は息子の豪快さに笑った。


「隠し部屋に魔導書があったので、夜中にこっそり読みました」


「クライブは魔力を失うと分かっていてあの魔法を使ったんだな?」


「はい。全て分かっていました。覚悟の上です」


「あの魔導書は、すぐ破壊する。もっと早く処分していれば……私はお前を守れなかった……! クライブは歳の割にしっかりしている。こんなところに閉じ込めて、ろくに教育も受けさせていないのに大人びているなんておかしいと思うべきだった。すまない、すまない……!」


「魔力無しになれば、捨てられたり殺されたりするかもしれないと覚悟していました。でも、きっと父上なら命だけは助けて貰えると……そう信じていました。だから躊躇いはありませんでした。予想通り父上は食事も勉強する為の本も、剣も与えて下さった。いつも早朝や深夜にひっそり会いに来て下さっていた事も知っていましたよ。それに、あの魔導書があったからリーリア様は再び家族と会えた。私も父上が生きていてくれて嬉しいんです。今度こそ国を守れます。私が魔力を失うくらい、たいした事じゃない。かけがえのないものが、たくさん返ってきたのですから」


「クライブ、まさか……コーエン侯爵も……?」


リーリアはクライブの腕を掴み、問いただした。クライブは以前と変わらない笑顔を浮かべ、自身の過去を話した。


「リーリア様が全てを失ったあの日、私も父を失いました。私は国外に出ていましたので後から兄に聞いたのですが、父はあの男達を止めようとしたそうです。ですが、国に嫌気がさしていた同僚達に囲まれ……そのまま……」


「そんな事一言も言わなかったじゃない! わたくしのせいだわ……!」


「お優しいリーリア様がご自分を責めると思い、言えませんでした。もうなかったことです。父はこうして生きているのですから」


「なんでよ……わたくしは優しくなんてない……わがままで……酷い王女なのよ……わたくしのせいで……たくさんの街や村が滅んだのよ……」


「あまりご自分を責めないで下さい。リーリア様だけのせいではないのですから」


「リーリアの罪は、クライブが時を戻してくれた事で全て失われている。それに、クライブの言う通りリーリアせいだけではない。リーリアを止められなかった僕達の責任だ。しかし……話を聞けば聞くほどおかしいな。確かにリーリアは可愛い妹だ。だが、街や村を滅ぼす命令を我々が承認するなんて……父上……いや、私が朦朧したのか……? まるで魅了魔法のようではないか」


「魅了魔法は時戻りの魔法より更に過去の魔法で、情報もほとんどありません。それに、リーリア様は魔法が苦手だった。莫大な魔力を使う魅了魔法をお使いになれるとは思えません」


「……いや、王太子殿下が正しいかもしれません。我が家の隠し部屋にご案内します。なんとか人払いを……」


「ではリーリア様、魔法をお願いできますか? 王太子殿下はもう魔力が僅かですよね。王太子殿下と父は我々が時を戻ったと知っていますから、リーリア様の実力を隠す必要はありません」


「分かったわ。これからもクライブとお兄様とコーエン侯爵しかいないなら、思いっきり魔法を使っても良いのね」


「はい。隠し部屋はここになります。父上、リーリア様に屋敷を調べる許可を」


サラサラと屋敷の地図を描いたクライブは、リーリアに地図を渡した。侯爵がリーリアにセキュリティ魔法の権限を与えると、リーリアは地図に魔法をかけ、見事な結界魔法を構築した。


「クライブ、これで良い?」


あっさりとリーリアが放った魔法は、クライブが以前使った結界魔法の応用だ。屋敷全体を調査し、人のいないルートを探す。正確な地図と屋敷の所有者の許可があれば、初めて行った建物でも使用できる。結界魔法を張れば、誰にも見られず認識されず結界の中を移動できる。


「こんな広範囲に結界を張るなんて、僕でもギリギリだよ。ねぇリーリア、一体いつから修行していたの?」


「産まれた日からずっとです」


「あ、あの! リーリア様。まさか今も……!」


「ええ。ふわふわ魔力酔いの状態よ」


「今すぐおやめください! もう充分です! もう5年以上経っておりますよね?! 5年で良いんです! 5年以上は必要ないと分かっています!」


「ちょっとでも強くなれる可能性があるなら止めるのが怖くて」


「5年以上続けても意味はないと実証されています。だからどうか……!」


「分かったわ。あーこんなに楽なのね。ふふ、久しぶり過ぎて忘れてたわ。これならもっといっぱい魔法が使えそう」


「今は必要ありませんので、お控え下さい」


「はぁい。分かったわ」


ペロリと舌を出すリーリアは、年相応の子どもの顔をしていた。

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