第12話 再会
散々泣いたリーリアは、兄に全てを打ち明けた。自分がいかに酷い王女だったのか、そのせいで家族が死んだ事も洗いざらいぶちまけた。
全てを聞いたカシムは、すぐにリーリアを連れてコーエン侯爵家に行った。
突然現れた王族に、コーエン侯爵家は大騒ぎになった。
「突然すまないな。緊急の用事があるんだ。コーエン侯爵のご子息とお会いしたい」
「トマスは剣術の修行中でございます。すぐに呼んで参ります」
「ああ……僕の言い方が悪かった。会いたいのはトマスではないんだ」
「しかし我が家に息子はトマスしか……」
「クライブは?! クライブに会いたいの!」
「こらリーリア。今は口出ししないでくれ」
「……分かりました……ごめんなさいお兄様……」
クライブの名前を出した途端、コーエン侯爵の顔色が変わった。
「我が家にクライブという名の者はおりません。なにか勘違いなさっているのでは?」
「そうか。分かった。無礼を詫びよう。それとは別にもうひとつ話がある。コーエン侯爵、悪いが2人きりで話をしたい」
「はっ……応接室をご用意します。その、リーリア様は……」
「リーリア、馬車で侍女と待っていてくれ」
「い、嫌です! わたくしもご一緒します!」
兄の部屋にあった魔術書には、自分も知っている術式があった。そのページを開いた途端、真っ黒に染まり読めなくなったが一瞬でも分かった。リーリアがクライブに最初に教わった魔法だ。
魔法の効果を知っているリーリアは、兄の苦しそうな顔を見て兄が何をしようとしているか理解していた。
「リーリア様もご一緒で構いませんよ」
一方コーエン侯爵は、突然現れた王太子を警戒していた。リーリアがいれば、王太子が変な事をしてこないだろう。そう考えた。
「……しかし……」
「お願い、お兄様!」
「分かったよ。リーリア」
3人で応接室に入って数分後。コーエン侯爵はクライブを閉じ込めた別棟に王族達を案内した。
クライブは何重にも鍵がかけられた部屋で、ひっそりと暮らしていた。
リーリアはクライブの顔を見た途端泣き出し、クライブに抱きついた。
「クライブ……会いたかった……!」
「はっ! なぜここに?! クライブ! 勝手に部屋から……あ、あれ。私は何故ここに王太子殿下を……!」
コーエン侯爵の瞳の色が、赤から緑に変わった。
「ふぅ……もう一回か……仕方ない。侯爵、私の目を見ろ」
カシムは自白魔法を使い、侯爵の本心を聞き出した。自白魔法は、相手の本心を引き出すだけではない。本人の望みに沿ったものであれば、命令に従わせる事ができる。
アランはそれを利用して、リーリアとクライブを操ろうとした。カシムも、同じ事をした。侯爵の本心を探り、望みを聞き出し、自分達の都合の良いように操った。
自白魔法は禁忌とされており、使った事が明るみに出れば王族や貴族の地位を失う。だが、自白魔法は使われる前後数分の記憶が飛ぶ。
今なら、侯爵を騙せる。
カシムは再び自白魔法をかけようと魔力を練り始めた。
「お兄様、やめて。これ以上は危険よ。コーエン侯爵が取り乱しておられたからお兄様が精神を安定させる魔法を使って下さったの。リラックスして記憶が飛んでしまわれたのね。ここに連れて来てくれたのはあなたよ。今から、とっても大事な話をするわ。誰にも漏らさないで。良いわね?」
侯爵家の恥だと存在を隠されていたクライブだが、侯爵はクライブを愛していた。
魔力なしの息子の存在を明らかにする事は出来ない。それだけで、政敵に狙われて家を潰されてしまう。その為、クライブは存在を抹消されていた。兄や妹も、母ですら死産と伝えられておりクライブの存在を知らない。
産まれたてのクライブを抱いた父は、息子の魔力の核が砕けているとすぐに理解した。父はクライブを死産と偽り、使われていない別棟に隠した。クライブの存在を知るのは父と、信頼されている使用人だけだ。クライブは一度も外に出る事なく暮らしていた。
「は……いやしかし……!」
「父上、リーリア様のご命令に従って下さい。王太子殿下もご存知なのですね?」
「ああ。だが知ったのは今日だ。リーリアは誰にも伝えず、今日まで秘密を抱えて生きていた」
「リーリア様……それはさぞかし苦しかったでしょう」
「大した事ないわ。わたくし、とっても強くなったのよ。クライブが時を戻してくれたおかげでね」
リーリアの一言で、コーエン侯爵はどうして息子の魔力がないのか理解した。
「クライブ……お前まさか……!」
「隠し部屋の魔導書を読んでしまいまして。私とリーリア様は、15年後の未来から参りました」
「……だから……核が砕けていたのか……!」
「そういう事だ。侯爵、クライブを城に連れて行きたい。望むならコーエン侯爵との繋がりを抹消する。クライブの存在を明らかにしたいのなら、王家の為に全てを投げうった忠臣として公にしても構わない」
「それはいけません。王太子殿下、私の存在を秘匿して下さい。私は、父と僅かな使用人しか知られていない存在ですから問題ないはずです。時を戻ったと公に知られてはまずい。敵に情報を与えたくありません。あの魔法は、失われた術式のままでないといけません」
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