第2話(3) 愚かで無能なオークを追放しませんか?

  ローグとさくらはクエスト受付のカウンターへ向かった。この広大なホールはクエストやミッションを受けるための主要エリアで、数千人の冒険者を収容でき、100のカウンターが円滑な業務処理を支えていた。新人冒険者がここで迷うのは珍しくない。


  (私は最新のクエスト情報をチェックする。君は周りに危険な人物がいないかを警戒して、例えばさっきの遊び人ジャスティスのような連中。)


  (かしこりました。)


  先ほどの遊び人ジャスティスと対峙の経験により,ローグは【生存本能リーコン】​​​​の限界を感じた。危険を察知するのに長けているが、相手が殺気を放っていない場合、人混みの中での危険性の感知は難しくなる。そういう状況では、客観的に危険性を判断できるさくらに任せる方が良い。


  ローグはソファに座り、ガラステーブルに置かれた本をめくり始めた。これらの本は毎日更新され、最新の魔物情報や 自由フリー冒険者向けのクエストが記載されている。


  ローグは魔物の情報を一つ一つ注意深くチェックしていった。


  (マスター、先ほど見落とした行にサキュバスの情報があります。)


  「うわっ!」ローグは驚いて本を落ちた。


  (どうして私の考えを知っているんですか?)


  (マスターの欲望が強すぎて、【支配従属テイム】​​を通じて伝わってきました。気にしないでください、それは男性として普通の反応です。)


  ローグは恥ずかしそうに笑った。青春期の男性冒険者にとって、もしスキルやターゲットを自由じゆうに選べなら、【支配従属テイム】でセクシーなサキュバスを​​手懐けるのは、まさに最優先の選択肢だ。


  このため、冒険者ギルドは特定の性別の冒険者を誘惑または姦淫する魔物に対して性別制限を設けている。例えばサキュバスの討伐クエストでは、不必要な損失を避けるために男性冒険者の参加が禁止されている。しかし、ギルドから離れたローグにとってもはやこれらの厄介な規則を守る必要はない。


  ローグは再び本に目を通し始めた。そして本を手に取った時の異変に気づいた。


  (魔物の移動量が多過ぎ……!)


  ローグが本を手に取った時から、その本が普段よりも厚いことに気づいていた。詳しく見ると、過去1週間で大陸全体にわたる魔物の動き山ほどある、それらの偵察や緊急討伐のクエスト沢山あります。まるで、全ての魔物が冒険者にわざと迷惑をかけるように動いているようだ。


  (そして、全てがこの1週間のうちに起きている……さくらと出会った後からだ!)


  大陸全体に変化が起きている。その起因が自分とさくらの出会いだとローグは推測した。


  「おい!これは一体どういうことだ!」ローグは近くのカウンターで冒険者が怒鳴る声を聞いた。よく見ると、それは姫騎士のファラだった。彼女の後ろには彼女の3人の仲間がいる。彼女はカウンターの受付嬢に怒鳴っている。


  「私たちパーティは全員女性なのに、なぜオークの緊急討伐のミッションを受けなければならないの!」


  女性冒険者は、女性を襲うオークの討伐を禁止されているはずだ。


  「申し訳ありませんが、現在の職業ギルド冒険者は他のミッションで手がいっぱいなんです。そのため、一部のミッションは冒険者の能力に応じた適切な分配ができなくなっています」と受付嬢はきちんとしたスーツの制服を着て、礼儀的な口調で皮肉を込めて答えた。「それとも、こんな忙しい時にお姫様は王城でぐっすり休みたいのですか?」


  ファラは受付嬢をじっと見つめた。


  「それに、お姫様のようなメス豚は、オス豚の大きなものが好きでしょう?問題ないと思いますけど」と受付嬢は笑顔を崩さずに下品な言葉を吐き、周りの受付嬢たちは抑えきれずに笑った。ファラの後ろの盗賊は怒りに満ちた目で小刀を抜き、すぐに主教に止められた。


  「わかった。すぐに出発する」ファラは怒りを抑えて低い声で言い、カウンターの資料を持って行った。


  ローグは【生存本能リーコン】の視力でファラの資料の一部を読み取り、手元の本と照らし合わせて彼女が受けたミッションの出所を特定した。


  「あ、言い忘れたけど」と受付嬢が言い、立ち去ろうとするファラを止めた。「もし中絶手術が必要になったら、ギルドが全額サポートするわよ」


  この一言で周囲の受付嬢たちは大笑いし、ファラとその仲間たちは怒りを抑えたまま、無言で去って行った。さくらもこの一部始終を見ていた。同時に、ローグはファラたちが受けたミッションの詳細を見つけた。


  (これは何だ!?)ローグは心の中で叫んだ。


  推定100匹のオーク構成の魔物部族が、ギルドの近くを移動している。こんなに急いで死にに来るオークがいるのか?


  しかも、彼らの移動方向が明らかで、数日後にはローグとさくらが出会った魔王城に到着する。


  (え?おかしい……)とローグは先ほど見た情報を思い出し、その魔物たちの移動方向を考えた。


  (魔王城に向かっている?魔物たちはみんな魔王城に向かって移動している!)


  多くの情報が不明確で魔物の目的を推測することはできなかったが、仮に全てが魔王城に向かっているとすると、彼らの動向が理解できる。


  (さくら、何か知ってる?)


  (申し訳ありませんが、この時代の魔物についてはまだ理解が足りず、適切な推測はできません)


  (そうか……とにかく、魔物に接触してさらなる情報を得よう……)


  ローグは先ほど読んだ情報を頭の中で整理した。


  (ファラたちが討伐するオークは、現在私達に最も近い人型魔物だ。情報を得るためには、彼女らの後を追う)


  (かしこりました、マスター)


  ファラのパーティが馬車に乗り込むと、魔導馬が車輪を動かし始め、馬車を引っ張って前進した。


  魔導馬は、生身の馬を代わりのために開発された四頭分の馬力を持ちの魔導具。そしてファラの馬車も魔導馬が故障した際には生身の馬に切り替えて使用できるよう設計されていた。


  ローグの​​【生存本能リーコン】は追跡技も含まれており、ファラたちの盗賊に気付かれることなく距離を保ちつつ追跡できた。さくらも魔導馬の速度についていくことができ、二人は徒歩で馬車を追いかけることに成功した。


  (マスター、先ほど冒険者ギルドの人々が王女のファラに対してとった態度が理解できません。この時代の冒険者が王族をどのように見ているのか、説明してもらえますか)


  (ああ、分かった。かつてこの大陸は「王国」と呼ばれる組織によって統治されていた。しかし今では、形式上の統治者のみが残り、実権はすべて冒険者ギルドに握られている)


  (そして、冒険者ギルドは冒険者に不利なすべてのことを王国の統治、いわゆる貴族の陰謀として押し付けている)


  (たとえば、ギルドが税金を引き上げるときには、それを王国が調整したと発表し、徴収担当するギルドとは無関係であるとする。私たち職業ギルド冒険者の中には実情を知る者もいるが、ほとんどの冒険者は事実を知らず、そのために貴族を深く憎んでいる)


  (だから、さっき見たように、ファラは王国の名声を取り戻すために職業ギルド冒険者として活動しているが、誰も王国の公主である彼女を尊敬する人はいない、彼女とパーティを組もうとはしない。実際、彼女のそばにいる三人の自由フリー冒険者は、代々皇族を守る護衛だけ)


  (王族への礼儀はもはや形式的なものに過ぎず、王城外の人々が彼女を王女として尊重することは、彼女をからかう意図しかない)


  (つまり、この時代に王族に対して敬語を使うことは、奇妙な行動と見なされる)


  (そう、あの時あなたがなぜ半跪きをしたのかはわからないけど、そのセリフは彼女をからかっているように聞こえた。幸い彼女は気にしていなかったね)


  目的地の森に到着し、馬車はこれ以上進めなくなった。ファラたちは馬車を降り、ローグは彼女たちがオークとの戦いに必要最低限の装備だけを身につけていることに気づいた。


  (もし突発事態が起きたら、その装備は全く対応できない。​​【無限容器アイテム】を持たない冒険者パーティは戦術的に非常に制限されるんだな)ローグはうっかり以前所属していた勇者パーティと彼女たちを比較してしまう。


  「ミーリ、​​【生存本能リーコン】頼む」ファラは盗賊の女性に命じた。彼女はうなずき、技能を発動させた。


  (指示を待ってから技能を使うなんて、もしその前に罠にかかだらどうするの?少なくとも冒険者ギルドを離れる時から使い始めるべきだ)ローグは心の中で思う。


  (マスターはスキルを体の一部のように自在に使いこなしていますが、自由フリー冒険者にはそのレベルに達するのは難しいでしょう)とさくらが応える。


  ローグは自分が自由フリー冒険者だった時、技能を使う感覚がまるで外部の物を使うようで、体に馴染まない不快感があったことを思い出す。それを考慮すると、使わなくて済むなら使わない方が普通な人間の反応かもしれない。


  「あっちだ」とミーリは遠くの足音を聞き取り、目標のオーク部族を断定した。目標に向かってしばらく追跡すると、ついに目標のオーク部族を発見した。


  「二百、三百……当初の推定より多い、ここには三百匹以上のオークいる」ファラたちは樹陰に隠れ、オークの状況を観察した。


  オークは汎用人型魔物で、人間の大柄な男性に似ているが、最大の特徴はイノシシのような鼻と牙だ。性格は荒々しく好色で、ある程度の知能と文化を持っており、一部のオークは木の幹で作った武器や簡易な皮の衣服を持っている。


  彼らは移動中の休憩をしているようで、オークたちがキャンプファイアを作り、いくつかは木にもたれて眠っているのが見えた。


  「お姫様、あそこをご覧ください」とミーリは遠くを指差し、そこには皮袋に縛られた人の姿が見えた。彼女の長い髪が袋から外に出ており、女性冒険者であると推測される。


  もう冒険者が犠牲になっているのか?


  オークが女性冒険者にとって恐ろしい存在である理由は、その繁殖方法にある。この種族には女性がおらず、他の人形種族の女性を捕らえて繁殖する。彼らは母体を大切にする概念がなく、捕らわれた女性は残酷な終わりなき凌辱にさらされる。


  ファラは深く考え込む。通常の状況では、パーティの能力と討伐対象の規模が大きすぎるため、ここでは撤退し、ギルドに正確な規模と被害状況を報告して支援を求めるのが唯一の選択肢だ。


  しかし、ファラには撤退の選択肢がない。


  王女としての彼女のイメージは既に悪く、成果のない任務は周囲の冷たい言葉を招き、目の前に助けを必要とする人がいる場合、撤退するだけで王国の名誉に大きな傷をつけるだけだ。


  「ソフィア、奇襲の準備を」ファラは悩んだ末に任務を決行することを決め、魔法使いであるソフィアが【元素掌握マジック】の準備を始める。


  空中には火の球が出現し、そして徐々に大きくなり、3メートルの巨大な火球に成長する。


  (森の中でオークに広範囲の火系魔法を使うなんて……危険だ)ローグは考える。


  オークたちは頭上の異変に気づき、好奇心から空中の火球を観察する。一部のオークがそれが冒険者の攻撃だと気づき叫ぶの時既に遅く、巨大な火球が地面に落下する。


  炎はオークたちの体を包み、彼らは苦痛の声を上げる。同時に火の火球から周囲の木々や草地に広がり、森全体を焼き尽くす。


  ソフィアは杖を振り、火系魔法の使用を終える。その瞬間、物理的現象とは異なる力が世界から消失し、火球の高熱とそれによる化学反応もすべて消え去り、焼けたオークの死体と焦げた木の結果のみが残った。


  (あの火系魔法は詠唱に時間がかかり、賢い魔物なら逃げることも可能だ。今回はオークたちがその魔法を見たことがなかったため、うまく命中しただけだ。)


  (マスターはもっと洗練された魔法で魔物を一掃することができると考えているんですね。しかし、自由フリー冒険者がそんな広範囲の攻撃魔法を使いこなすだけでも十分立派ですよ。)


  (そうかもしれないな。)


  ソフィアは火球を連続してオークに放ち、数回の攻撃後にオークは樹陰で隠れている冒険者たちに気づいた。数匹のオークが武器を振り上げ、ファラたちに向かってかかってくる。この時点で、既に3割のオークは火球よって倒されていた。


  「【王者号令(ステータス)】​​!ソフィア、攻撃を続けて!ミーリとエリナ、待機!」ファラが指示を出し、自分の身長の約2倍ある多数の人形魔物に立ち向かう。不意打ちで敵の数を減らすのはこれで限界、これからは正面から一匹ずつ倒すしかない!


  「【光神守護バリア】!​​」ファラは自身に打撃耐性を施し、オークが振り下ろした木棒の衝撃を気にせず、軽々と受け流すできる!


  パーティの後ろから一匹のオークがソフィアに向かって木棒を振り下ろす!


  「【鉄壁鋼砦ガーディアン】​​!」ファラは防御スキルを発動し、彼女の姿が瞬時にソフィアの近くに移動して、盾でオークの攻撃を受け止めた。これはローグの弓矢からフェンリルを守る際に使った「かぼう」という防御技だ。守りたいの対象のそばへ瞬間移動し、最適な姿勢で攻撃を防ぐことができる!仲間を守り専門のスキル​​【鉄壁鋼砦ガーディアン】の代表的な防御技。


  ファラが瞬間移動して仲間を守る半秒後、ミーリが遠いのオークの頭に投げナイフを投げつける。


  「​​【鉄壁鋼砦ガーディアン】!」ファラの「かぼう」が再び発動した!今度はミーリが攻撃するのオークを保護対象と見なし、仲間のそばからオークいるの前線へ瞬間移動した!


  しかし「かぼう」の効果により、ファラは敵を刺しできるの投げナイフを盾で受け止めざるおえない。その後、空中で足を回転させて中継点となったオークを蹴り倒し、再び立ち上がってオークたちと対峙する。


  (あの主教は下手だな……)ローグは主教であるエリナをじっと見つめていた。彼女は杖を持ち、仲間たちの状態を観察している。


  (姫騎士ファラは仲間が傷つくのをほとんど防いでいる、ここは状況を観察し続けるしかないのですか?)さくらが尋ねる。


  (いや、回復の間前線の仲間に対して支援魔法をかけ続きができないなら、ただ前衛のお荷物。まあ、彼女は回復魔法を正確なタイミングでかけることだけでも全力なのだろう)ローグは以前の勇者パーティにいたクレアという主教の事を思い出した、彼女はミッションを完璧にサポートしていたが、それでも中下のレベルだった。


  ファラのパーティは姫騎士の強力な防御力を中心に、安全な距離から強力な攻撃魔法を放つ魔法使いを守り、近接戦に不向きな主教と盗賊が魔法使いの近くで警戒を行いながら、魔物を一掃する火球魔法を放って続け。これは完璧な防御陣形を形成している。


  ファラがオークを一匹倒し、額から汗を流し、大きく息を吸いながら呼吸を整える。彼女はまだ無数のオークに立ち向かわなければならない。


  (戦術は悪くないが、問題は3人の自由フリー冒険者の能力が強くないこと。それにより、職業ギルド冒険者である姫騎士の負担が非常に大きい、結果このレベルのミッションでも相当に辛いになります)ローグは考える。


  (彼女が勇者パーティに加われば、こんなに苦労することはなかっただろう)ローグはそう判断する。


  戦闘は進行中で、ローグは戦況に微妙な変化が生じていることに気づいた。


  オークは特に知恵がある種族ではなく、普段はただ力任せに相手に突撃するだけだ。冒険者たちが最初にオークを奇襲した時、彼らは混乱に陥り、木の棒で無秩序に反撃していた。


  しかし、今のオークたちは、もはや無鉄砲にファラを攻撃することなく、慎重に戦線を保ちつつ、前線の仲間が戦っている間に他のオークが魔法を使うソフィアへの偷襲を試みていた。明らかに彼らは魔法使いを倒せば、この冒険者グループは脅威ではなくなると理解しているようだった!


  (まさか……彼らには指揮する知恵個体がいるのか?)ローグは考えた。


  冒険者が多数の魔物を打ち負かすのは、主に種族間の知能差。優れた戦術とスキルを持つ冒険者は、本能だけで戦う魔物の群れに勝つことができる。そのため、ファラは数百のオークに対しても勝利できると判断していた。


  しかし、相手にも優れた指揮者がいれば、話は変わった。魔物たちは、ほぼ人間と同等の知恵を活かすれば、数の力で冒険者たちを圧倒することができる!


  (よく考えてみれば、すべての魔物が魔王城に向かっているのも、知恵個体の存在があってこそだ。最初からこのオーク部族を襲擊すべきではなかった!)


  しかし、戦闘中のファラはこの危機に気づけず、目の前のオークとの戦いに全力を注いでいた。彼女は魔王城の異変のことを知らず、ローグのように傍観者の視点で戦局を俯瞰して判断することはできなかった。


  (マスター、冒険者を助けに行きましょうか?)


  (いや、姫騎士には申し訳ないが、冒険者ギルドを離れた僕たちの目的は魔物の情報を得ることだ。彼女たちが敗れて撤退した後、オークの知恵個体に接触しよう)


  (わかりました。どのオークが知恵個体か見分けてみます)


  (お願いします)


  戦いが始まって20分が経ち、オークたちは火球が現れたら逃げることを学んだ。そのため、一つ火球は遅いオーク数匹しか倒せず。今は約半数のオークが残っている、冒険者たちの危機はまだ解消されていない。


  戦場を駆けるファラは疲れの色を隠せない。エリナは仲間の危機に気付き、疲労回復の治療魔法を施す。その瞬間、草むらからオークが飛び出し、魔法を放ったばかりのソフィアに襲い掛かる。


  「​​【鉄壁鋼砦ガーディアン】!」ファラは本能的にソフィアの前に移動し、盾でオークの攻撃を弾き飛ばす。しかし!


  「一匹だけじゃない!」ファラは驚愕した。この奇襲は一匹のオークだけではなく、他に二匹のオークがエリナとミーリに向かっていた。この二匹のオークの出現タイミングは最初のオークの後半秒で、ファラには他の二人を救う暇がない。これは明らかに敵がファラの​​【鉄壁鋼砦ガーディアン】の限界を見抜いて仕掛けた攻撃だった!


​​  【生存本能リーコン】を持つミーリは敏捷にオークの手をかわすが……


  「いやあああ!」エリナの悲鳴が響く。彼女は巨大なオークに抱えられ、ファラが救援に向かう間、前線のオークが木棒を振り上げ、冒険者たちの陣形を完全に崩壊させる。


  (何を叫んでいるんだ!訓練されていない一般人か!)ローグは心の中で憤る。残酷な魔物に捕らわれるのは恐ろしいが、このような時に弱音を吐くのは仲間の士気を下げ、すでに劣勢な状況をさらに悪化させるだけだ。


  しかし、エリナが悲鳴を上げるのも無理はない。彼女を掴んだオークは、戦闘中に彼女の体を押さえつけ、服を引き裂き始め、上半身を露出させる。オークの口からは猥褻な涎が流れ、これからの運命を思うと、エリナは恐怖で正常な思考ができず、泣き叫ぶしかなかった。


  「もう我慢できない!美女がオークに襲われるのをただ見ている男がいない!彼女を救いに行く!」【生存本能リーコン】​​は素早くナイフを抜いて戦場に飛び込みたいが、さくらが手を伸ばして彼を止めた。


  (マスター、今のあなたの行動はスキルの副作用の影響です。前マスターが定めた方針によれば、ファラたちを放っておくべきです。)


  (ああ、ありがとう……)ローグは大きく息をつき、手に持った小刀を消し去る。


  オークは女性冒険者を姦淫する残酷な魔物だが、逆に言えば、彼らはすぐにエリナを殺すことはない。オークの情報を得てから彼女を救うのも遅くはない。


  「落ち着け!」ファラは指示を続けるが、エリナの悲鳴を聞いた冒険者たちは冷静さを保つことに全力を尽くしている。陣形は崩壊のせいで、数匹のオークがその隙に冒険者たちの背後を回り込み、包囲するの様子が見える。


  (包囲されたら終わりだ。だから姫騎士は主教を見捨てて撤退するはずだ。さくら、彼女たちが撤退したら、我々がオークと接触する準備を……)


  「陣形を保て!ミーリ、エリナを救出するチャンスを探せ。ソフィアはサポートに回れ!」ファラは冒険者たちを指揮し続け、魔の手に落ちた仲間を救出しようとする。


  (そんなバカな!)ローグは驚く。


  冒険者のリーダーとして最も重要なのは、損害の判断能力。ローグは何度もクロロの精密な判断を目の当たりにしてきた。彼は常に最小の犠牲でパーティ全体の安全を確保していた。


  しかし、目の前の戦況はもはや戦い続ける状態ではない。今は仲間を見捨てる以外に選択肢はないはずだ!


  「エリナ、落ち着け!すぐに助けに行くから!」ファラはオークの体を振り払いながら長剣を振るい、仲間の士気を鼓舞する。彼女は恐れることなく魔物の群れの中に突入する。


  でも、今のファラは主教のサポートがないため、一撃一撃に大きな負担を感じる。しかし、彼女は最後の力を振り絞り、目の前のオークを次々に斬り倒す。


  一匹のオーク倒れの直後、もう一匹のオークがファラに飛びかかり、彼女を抱きしめる。​​【鉄壁鋼砦ガーディアン】のおかげでファラは無傷だが、オークの蛮力により動けなくなる。ファラは歯を食いしばり、オークを押しのけようとするが、他のオークも次々と襲いかかってくる。


  (観察を続ける。ファラたちがオークの手に落ちても、後で救い出せば……)


  ミーリはソフィアを守るためにナイフでオークと戦っていたが彼女にはファラのような防禦技がない、一匹のオークが彼女が攻撃に集中している隙に、ソフィアを抱きしめた!


  (もう冒険者ギルドの束縛はない……他人を守る必要もない……)「そんなわけない!どうして冒険者が仲間が辱められるのを見ていられるんだ!」​​【百步穿葉アーチャー】はさくらの手を振り払い、戦場に飛び込んだ。


  「汚い手を離せ、このクソオーク!」​​【百步穿葉アーチャー】は長弓を取り出し、ファラを抱えるオークの頭を一撃で射抜いた。オークは頭から血を吹き出し倒れた。


  「遅れてすみません。」ミーリは元々ソフィアを抱えていたオークが手を離しているのを見た。よく見ると、そのオークの首は戦闘メイド姿のさくらの鉄刃の腕によって切断されていたことが分かる。戦闘メイドGenerative AIのさくらは、自分の手を様々な武器に変えることができ、一般の自由フリー冒険者と同等の戦闘能力を発揮する。


  (申し訳ありません、マスターに無断で支援しました。)さくらは自分の主人に謝罪した。さっきの攻撃は彼女は戦闘メイドGenerative AIの事を暴露してしまった。


  「気にするな、お前はよくやった。」【百步穿葉アーチャー】​​の大雑把な性格から、彼はさくらの件を戦闘終了後に延ばすことに決めた。


  「あなたは前に……!」ファラは相手を認識した。性格は前に会った時と少し違うが、彼の射撃能力ステータスは間違いなく覚えていた。


  「話は後で。とりあえず、あの嬢を救おう!」【百步穿葉アーチャー】​​は再び弓を引き、エリナの上で夢中になって彼女の胸を揉んでいるオークを狙った。相手が人質を盾にしない限り、彼の矢は必ず敵に当たる!


  「シュッ!」​​【百步穿葉アーチャー】が矢を放つ。


  だが、一匹の黒い肌のオークががその矢を掴んだ!


  いや、違う。その黒いオークは矢を手で掴んだわけではない。それは右手のひらで直接矢を受け止め、矢はその手のひらを突き抜け、骨に達し、最終オークの体内に留まった。この黒いオークは、先天の耐力で​​【百步穿葉アーチャー】の矢を受け止めた!


  一見は無謀な行動だが、これを行うには大きな勇気が必要だ。その黒いオーク明らかに人質を捕えた仲間を守るために行動した!


  「知恵個体だ……」ファラは気づく。その黒いオークは戦いの始まりからオークの群れの中に混じりでオークを指揮して、彼女たちを苦戦させていた。


  周囲のオークは攻撃を止め、数匹だけが武器を握ったまま待機している。


  「まことに……」黒いオークが口を開く。​​【百步穿葉アーチャー】​​が長弓を構えて狙いを定める。


  次の瞬間。


  「誠に申し訳ございませんでした。どうか、お許しを賜りますようお願い申し上げます!」黒いオークは地面に伏せ、頭を地面に叩きつける。


  (長すぎる!どうやって覚えたんだ!)​【百步穿葉アーチャー】心で​​​​叫ぶ。人間である彼ですら、そのような言葉遣いを覚えていなかった。


  知恵個体である黒いオークは人間と同等の知力を持ち、人間の言語を特別に学んでいるのも不思議ではない。多くの高い知能を持つ魔物も人間の言葉を話すため、現場の冒険者たちは黒いオークが話すことに特に驚いていない。


  意外な援軍の登場により、オークたちは二人の職業ギルド冒険者と戦わなければならなくなった。冒険者側には姫騎士の防御スキルと追放者の攻撃スキルがあるため、オークを殲滅するのは時間の問題だ。そのため、黒いオークが即座に降伏を選ぶのは賢明な決断だった。ファラは嫌な魔物だと思いながらも、彼の決断力を認めざるを得なかった。


  「場の空気を読むのはいいけど、仲間を放してくれる?」【百步穿葉アーチャー】はオークが人間の言葉を理解していると見て、交渉を試みた。


  「大変申し訳ありません。私の使命は部族の命を守ることです。その代わり私の部族を助けていただけますか?」黒いオークはひざまずいたまま答えた。


  「まずは彼女を解放しろ、それは後で考える」​​【百步穿葉アーチャー】は冷酷に応じた。彼は女性を姦淫する魔物に容赦しない。


  「承知しました」黒いオークは振り返り、エリナを弄ぶオークに向かって怒鳴った。しかし、女体に夢中になっているオークはリーダーの声に反応しなかった。黒いオークは彼に近づき、顔面に一発殴りつけた。その時、エリナを捕らえのオークはようやく慌ててエリナを放した。


​​  【百步穿葉アーチャー】は自分の全身が怒りに満ちていることを感じた。


  「おい!謝罪だけで済む話じゃない。お前が人間の言葉を理解するなら、これくらいもわかるだろう」【百步穿葉アーチャー】​​は黒いオークに言った。自分の言葉の一つ一つに殺気がこもっていることが感じられる。


  「わかりました。」黒いオークは膝まずいたまま言った。「このあなたの仲間を侮辱したオークは、今日から俺の部族から追放されます。彼の生死は我々とは無関係です、好きに処理してください」


  「このオークめ!同胞を切り捨てて自分だけを守るつもりか!これども冒険者なのか!」​​【百步穿葉アーチャー】は黒いオークの顔をつかみ、激しく非難した。当然、この黒いオークは冒険者ではないが、【百步穿葉アーチャー】​​はそんなことは気にしていない。


  「あいつもお前の仲間だろう!何とかして守ってみろよ!そう簡単に追放という言葉を口にするな!」【百步穿葉アーチャー】​​​​はスキルとして存在し、【百步穿葉アーチャー】​​はこの体の主人であるローグの記憶を思い出していた。


  些細な金のために仲間を裏切る遊び人ジャスティス


  冒険者でありながら、ギルドの命令に従ってスキルは冒険者を殺戮のために特化した道化師裁き者


  冒険者を支援する存在でありながら、ファラを嘲笑する受付嬢。


  迷わず仲間を斬るクロロ。


  そして……個人的な目的のために、他の冒険者を見殺しの自分。


  「試してみろよ!冒険者だろう!冒険者はみんなを守るのための存在だろう!」​​【百步穿葉アーチャー】ついに気づいた。自分はただ目の前の弱者に怒りをぶつけていただけだった。


  「もう試しました……」​​【百步穿葉アーチャー】は黒いオークの声が​​の指の間から聞こえてきた。


  「食事の時はフォークをちゃんと持ち、ウンコの時迷惑をかけないように、それだけ覚えさせるのに精一杯。彼に戦いの中で我慢する、女冒険者に手を出してはいけないと覚えさせるなんて不可能だ!」


  「彼の今の愚かな姿を見ましたか?彼はまだ自分何が悪かったのかもわかっていない。これが俺の部族。全く愚か、無能な奴ばかり」​​【百步穿葉アーチャー】は黒いオークの言葉に目を向けた。さっきエリナを捕らえていたオークは彼女を見つめ続けていた、どんやら彼はまだエリナの身体に夢中している。


  「そして、目の前に勝てない強者がいて、そして彼は俺にこの愚か者の罪を負わせようとする。追放以外にどうすればいい……何をすればいい!」


  黒いオークは【百步穿葉アーチャー】​​の手から逃れ、さらに激しく【百步穿葉アーチャー】​​の服の襟を掴んだ。


  「君は冒険者ね!仲間を決して見捨てない冒険者だろう!それなら追放以外の方法を教えてよ!教えてくれ!」


  黒いオークの体内にはまだ​​の矢が残っていて、動くだけで激痛が走るはずだが、でも今彼の悲鳴はその痛みを忘れた。


  「ごめん」ローグは冷静さを取り戻し、黒いオークに頭下げる。「私は言い過ぎた」


  ローグはファラが自分の肩に手を置いているのを感じ取り、後ろ見るとファラは自分を見ていた。さっきまで彼女の腕の中にいたエリナは後ろに下がり、さくらが彼女のために新しいローブを作り出していた。


  ファラは交渉を引き受けたいと望んでいた。ローグは自分の感情が不安定であることを認識していたため、引き下がることにした。


  「私、失敗した」とローグはさくらに言った。「感情が高ぶるとスキルの人格に左右されてしまう。いつも本来の目的を忘れがちだ」


  「構いません。マスター最初決めたの目的は覚えていますから、必要に応じてサポートします」とさくらが答えた。


  ローグは、かつて勇者のパーティにいた時自分の性格がスキルに左右されることを他人から嫌われていたことを思い出した、それも追放されの原因になります。今のさくらは彼の人格が混乱しても何とも思わずに支援してくれることに安心感を覚えた。


  「私は王国の第一皇女ファラです。お名前を伺ってもよろしいですか?」ファラは礼儀正しく黒いオークに尋ねた。


  「ガル」と名乗る黒いオークがファラに答えた。


  「大変申し訳ありません。以前私が遭遇したオークは野蛮でコミュニケーションが取れなかったので、あなた方を見つけたら直ちに攻撃してしまいました」ファラはガルに頭を下げた。ローグは彼女が魔物に謝ることができるのに感心した。


  「いえ、俺の部族の行いを考えれば。あなたが冒険者として行動したことは当然です」そしてガルは教養のある口調も驚かせた。


  ファラは少し躊躇していた。彼女がオークと初めて接触するので、完全に自然に振る舞うことはできなかった。


  「ガルさん、あなたの部族は女性冒険者を性奴隷として捕らえていますか?」ファラは尋ねた。


  ガルは深く息を吸い、真剣な表情で答えた。「いいえ、そんなことはしていません。俺の部族は非常に弱く、冒険者の標的にならないように目立たないようにしています」


  ローグの視線は、先程このオーク部族を観察していたときに気づいた皮の袋に移った。その袋の中の女性は、先程の戦いで全く動かなかった。明らかに大きな苦痛を受けていて、体を動かす力もなかった。


  「大変申し訳ありませんが、ガルさんに疑いをかけるわけではありませんが、オークは人間の女性を捕らえて繁殖する種族であり、あなたの部族は女性冒険者を捕らえているようですが、これについて説明していただけますか?」


  「わかりました、説明するより見せた方がいいでしょう。」ガルは近くのオークに向かって叫び、指示されたオークが皮袋をガルとファラの間に持ってきた。


  「まさか!」ファラは驚愕した。ガルが皮袋を開け、中の女性を解放する前に、ファラはすでに……


  強烈な屍の臭いを嗅いだ。


  袋の中に入っていた女性は、すでに亡くなって久しい女性冒険者だった。彼女の全身の筋肉は腐敗しており、顔と器官もはや元の人間の形を保っていない。下半身の筋肉は死後に無数のオークによる暴行を受けて酷く変形していた。


  「彼女は俺の元の住処で発見されました。おそらく他のクエストで亡くなったのでしょう。捨てようとしても、翌日には仲間がまた彼女を拾ってきて欲望を発散させていました。俺の部族は彼女が生きている間に加害していないのですが、それを証明する方法はありません」


  「なぜ、そんなことを?」とファラは思わず尋ねた。


  「呪い」とガルは答えた。「俺の部族は本能から来る欲望に抗うことができず、知恵個体の俺だけが何とか抑えることができます。彼らは終わりなく欲望を追求し続け、目の前に死があっても気にしない。それは俺の部族、無能で愚かなの集団です」


  外部から見れば、自己を抑制できず、他種族の女性に容赦なく暴力を振るうオークは、許されない脅威です。ガルにとって、これはオークに対するの呪いを見える、オークが他の種族と平和的に共存することが絶対に不可能な根本的な呪いです。


  ファラは剣を抜き、鋭い響きが空気を切り裂いた。


  「ガル、私の民--冒険者を傷つけたことはありませんと、私の前で誓えますか?」


  「はい、俺は冒険者を傷つけたことはありません」


  ファラは剣を手の甲に当て、刃を滑らせた。防御技を使わず、真っ赤な血が傷口から地面に流れ落ちる。


  「あなたが私の民を傷つけない限り、私はあなたとあなたの部族を王国の民として見なし、オークが王国で生きる方法を模索します」


  「我が剣は姫様の共に!」ローグはエリナ、ソフィア、ミーリが胸の前で剣を振る姿を見て、彼らが冒険者ではなく、民を守る王族の事を気づいた。


  「申し訳ありません、冒険者を傷つけたことがないという件について訂正させてください」


  とガルは震えながら言った。


  「先ほど冒険者に手を出さなかったと言いましたが、それは単に部族に力がなくが原因です。もし俺の部族が強ければ、他のオーク部族のように冒険者を襲い、女性を奪って族人の欲望を満たすでしょう……私にはあなたの庇護を受ける資格はありません」


  「構わない。今のあなたは冒険者を傷つけていない、それで十分です」


  ガルの目から再び涙が流れた。彼は再びファラに向かって跪き、低く言った。


  「ありがとうございます」

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