第49話


 あまりにひどい経験に、そのまま座り込んでいると、僕の姿を見つけて、中隊長が近寄ってきた。

「おいトルク、サイレンたちはどうした? 1匹もいないじゃないか」

「はあ」

「いや、そこにいるのはリリーか? 他の連中はどうした?」

「ストライキだそうですよ。もっとうまいものを食わせろと言ってます」

「ストライキ? サイレンどもが? 人間ですらないくせに」

 僕は事情を説明した。

「サイレンたちはストライキ中で、要求が通らない限り、ここには戻らないそうです。沖の沈没船を臨時の本拠地にするとか。労働組合みたいなもんですかね」

「じゃあなぜ、リリーだけはここにいる?」

「リリーだけは、ストライキに参加しなかったんです。バカバカしいと言って」

 いかにも呆れた顔で、中隊長は鼻を鳴らした。

「まともな神経をしているのは、リリーだけということか…。じゃあいい、お前とリリーで行って来い。ゾーン12で、正体不明の潜水艦が目撃された。ガセかもしれんが、万が一、本当に敵潜だったら困る」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る