第24話


 コバルトの食べっぷりは、お世辞にも上品とは言えなかったが、見ていて微笑ましく感じるところがないでもない。

 大きな肉をかじりもせず、両手でつかんで口の中に運び、水中に戻ったはいいが、あまりのうまさに身をよじらせているのだ。

 そのために水が泡立ち、

「あの激しさは、まるでシャチの断末魔みたいだな」

 と僕は不謹慎なことを思ったりした。

 このまま立っていても仕方がないから、僕は椅子を見つけて腰かけることにした。サイレンは、本当にうまそうに牛肉を食う。

 やっと食べ終わっても、まだコバルトは余韻にふけっている様子だ。水面に長く身を伸ばし、ぼんやりしている。

 僕は話しかけた。

「リリーにもこの肉をやらなくていいかな? いちおう協力してくれたわけだし」

 だが、それに対するコバルトの答えは非常に冷たかった。

「ほっとけ、ほっとけ。あいつの新しい相棒が決まったとついさっき発表があった。また食い殺してしまうだろうが、まあ関係ないな」

「そう思うかい?」

「思う? 確実さ。トーマスは自殺したんじゃない…。それよりも、明日からまた日本の潜水艦を探しにいこう。たくさん見つけて、お前をドンドン出世させてやる。だから今みたいな肉を寄こせ」

「僕は出世には興味ないんだがなあ」

「本物の戦争も始まったし、そうもいくまいよ。先日見た日本の潜水艦だが、あれは全くの新型だぞ。ただの潜水艦ではなく、潜水空母というやつだ」

「潜水空母って何だい?」

「文字通りの意味さ。あれを使って日本人が何をする気なのかも見当がつく。見当がつけば、待ち受けるのは簡単じゃないか」

「僕は…」

「まあいいってこと。お前は出世して提督閣下になり、私はうまい肉が食える。このことは報告書には書くな。お前と私で手柄を独占するんだ」

「でも…」

「さあこれは前祝い。派手にやろう」 

 話しながら、薄暗い水中で準備していたのだろう。しかも僕は腰かけていたのだから逃げようがない。

 あの大きな尾で水を跳ねかけられてしまうと、僕は頭のてっぺんからクツのつま先まで、今度こそびしょぬれにされてしまった。

 それに続く遠慮のない笑い声を聞きながら、思わないではいられなかった。僕とコバルトは、想像以上に長い付き合いになるのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る