第19話


「…それにお前たち、シャチだっていつまでも待ってはくれないぞ」

 とコバルトは機嫌の悪い声を続けた。

 多少口径が大きくても銃である限り、水中で役に立つわけがない。水の抵抗で、弾丸はすぐに減速してしまうのだ。

 だからコバルトは水面に背中を出し、シャチを引き付けるため、わずかに減速したのだ。僕は両手でギリギリ一杯、銃をかかえている。

 その瞬間、シャチがジャンプをした。僕は引き金を引いた。

「痛え」

 銃床を頭で支えるコバルトの悲鳴が聞こえる。

 しかし弾丸は銃口を離れるばかりで、シャチに命中するどころか何の成果も生まず、波のかなたへと飛び去ってしまった。

 次に声を上げたのはコバルトだが、そのくらいの権利は僕も認めてやっていい。

 なにしろ銃床がその後頭部、例の毛の抜けたあたりをイヤというほど直撃したのだ。

「お前、何を考えてやがる? 本当に痛いぞ。毛が生えなくなったらどうする?」

 コバルトの毛になど、僕はあまり関心もなかった。そもそもコバルトの金髪は本当に豊かで、抜けたと言っても、ただ本人が大げさに言っているだけだったのだ。

 それよりも僕にとっては、シャチのほうがよっぽど大きな問題だった。

 2頭のシャチがサイレンたちばかりでなく、僕までも胃の中に入れたがるとまでは考えなかったが、ここでサイレンたちを失えば、僕も死ぬことになるのは確実だ。

 それに比べれば、コバルトの髪の毛など、本当にどうでもいい問題でしかない。

「トルク、これまでは儀礼的な理由で口にしませんでしたが、あなたは本当にノロマなのですね」

 突然そんなことをリリーが言い出すので驚いたが、なんと賛同者もいた。

「その通りさリリー。こいつには血筋以外、何のとりえもありゃしない」

「例のナントカ提督の孫だというやつか? やれやれ」

「どうするね?」

「ここは私が何とかしようよ、コバルト。貸しだよ」

「わかったよ」

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