第18話
ランドセルとはその名の通り、サイレンが背負っているカバンのことだ。
分厚い牛の皮で作られ、必要な装備品が収められている。装備品ついては僕も一通り知識を持っていたが、納得できなかった。
「狙撃銃なんて、どうして持ってるんだい?」
「死んだトーマスは、もともとは狙撃の訓練生でした」
リリーの背に移動し、金具を外してランドセルを開いたのはいいが正直な話、いざその狙撃銃が顔を出しても、何をどうしたらいいのか、僕には見当もつかなかった。
いい機嫌とはとても呼べない声で、コバルトが口を開いた。
「リリー、トルクを手伝ってやってくれ。銃器については、こいつは全くの初心者だ」
「まさか、銃を撃った経験が一度もないと?」
「そのまさかさ。これまでは沿海の軽い任務しかしてこなかった。今日は私とあんたで、チェリーボーイに初体験をさせようというのさ」
「冗談ではないよ」
「私はいつだってまじめさ、リリー」
「☆〇!」
ここでリリーは何かを言った。ごく短い単語だが、僕の知らない、もちろん訓練校でも習わない言葉だった。きっとサイレン語の辞書にも載っていない卑語だろう。
それでもコバルトの表情は変わらない。
「おやおや、皇女ともあろうお方が、そんな言葉を使うとはな」
ストロベリーの狙撃銃とはどういったものか、残念ながら実物を見て嬉しくなることはない。
旧式の対戦車小銃を陸軍からもらい受け、海水に耐えるように各部をメッキ加工してある。
全長が長いことは長い。僕の身長とあまり変わらないサイズのある銃だ。
リリーに言われるまま、僕はそれを見よう見マネで組み立てなくてはならなかった。
「違います。それは安全装置。薬室を開くレバーはこちら」
いかにも肉食動物らしく極限までツメの尖った指で、リリーは説明してくれた。
でも、その説明が役に立つのか立たないのか、僕はまだ取扱説明書を読んでいるレベルだったんだ。
「『サイレンの体に一点を決め、そこに銃床を押し当てて安定させろ』と書いてあるよ。基準点にするんだってさ。コバルトのどこを基準点にしよう?」
と僕はリリーに相談した。
「分かりやすい場所がいいですね。うまい具合に後頭部の毛が少し抜けているではないですか。あそこを基準点にすればよろしい」
「人の毛の話ばかりしやがって。お前たち、いつか覚えていろよ」
とコバルトの声は、腹の減った猫のように機嫌が悪い。
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