双子、大変よくできま死た!!!?

「ふわぁ……あ」

 カナエが昔のことを思い出していると、横にいたサトルが目を覚ました。

「おはよ、サトル……喋れる?」

 カナエが質問して、サトルが口を開くとすぐに鋭い声が転がり落ちる。

「ぼくが! ぼくが!!」

 顔にはまだまだハンコの跡が残ってあり、七億不思議の影響下にまだある様子だ。 慌てて口を閉じたサトルの様子から見ても、言いたいことを言えないで、強迫観念に襲われたときじみた口調で喋る──いや鳴くしかできない様子の相罠、あるいは双子の片割れは大変そうだな、とカナエは思う。そしてアタシはそんな目に遭わなくって良かったなぁとも思った。

 どうしてカナエが無事なのかと言えば、それはもちろんサトルが守ってくれたからであり。どんなことがあってもサトルは自分を守ってくれる、だからカナエは両親に利用されているとしてもサトルの相罠を続けているのだ。

(こういうのを信頼って──言うんでしょ?)

 さて──親とはぐれて、七億不思議に襲われて。カナエやサトルにはなにがなんだか分かっていない。例えばこれがめちゃクソ強い敵性霊能者からの攻撃なのか、あるいは学園内に封印されていたばりクソ強い七億不思議が復活した結果なのか──例えば、学園長や非常勤講師、特待生といった学園内の霊能者が七億不思議に殺され、学園内で七億不思議が発生してパニック状態になった影響なのか。それを確かめる伝手も手段も名和屋の双子には何もなかった。

「ねぇサトル。これからどうしよう?」

「ぼくが!! ぼくが!!」

「うんうん、そうだねぇ」

 サトルの言葉を聞きながら──カナエは昨日の様子を思い出していた。

 夜通し歩き回った結果、遭禍学園が安全地帯ではないことには気づいていた。サトルがしたいことと言うのは不明だが、もしカナエと一緒に歩きたいというのが彼のしたいことならば、カナエはどこまでも付いていこうと思っていた。

 そして──どうせ歩いていくならば、危険な場所から安全地帯へ向かう方向へ。

「……じゃあ、サトル。絶都から出てどこに行こうか」

「???」

 不思議そうなサトルを置いて、カナエは考えを巡らせる。

「一番近い鉄道駅、どこだっけ。やっぱり歩きだけじゃ遠くまで行けないと思うし、アタシたち子供だし車も運転できないから電車が一番いいと思うんだ。あと、お父さんやお母さんは置いとくとして叔父さんにはたまに連絡したいから、まずは寮に行って荷物をまとめようよ。たぶん、今ならそれくらいは気づかれずにできるから──」

「……!!!」

 サトルの表情が怯えたように青ざめる。それを見てカナエはにこ、と笑った。

「だいじょうぶ、心配しないで──ねぇサトル。サトルが望んだことでしょう?」


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