双子、大変よくできま死た!!!

 翌日、寮の部屋でなく実家の家ではなく──大昔、サトルと一緒に育った名和屋郷の家でもない。昼間には見慣れているが起き抜けには見たことは今までなかった遭禍学園の天井を見ながらカナエはぼうっと考えていた。

 あの後、カナエとサトルは正体不明の七億不思議から逃げるため、ほぼ一晩じゅう絶都を歩き回って──明け方に学園に入り、空き教室で寝たのだった。すぐ横にすうすうと寝息を立てているサトルがいるのがその証拠だ。

 名和屋家に伝わる縁起の夢を見ていた気がする。桃太郎だとか、かぐや姫だとかそういった昔話のように教わったカナエの先祖である名和屋ナニガシとその妹の物語。

 いや、物語と言うには消化不良で、いったい彼らに何が起こったか何を思って七億不思議に斃されたのか。七億不思議は何を思って名和屋家に来たのかそのあとに続いた生贄供儀の犠牲者たちと彼らを捧げた名和屋家の、カナエのご先祖様はなにを思って儀式を続けたか。それが全く分からなくって、カナエは昔、寝物語をした親に文句をつけたことがある。


「いやぁ、まぁ……リアリティがなくていいのがリアルのよさって言いますか……なんでも説明されるばかりじゃないってところが、本当にあった伝承ぽいって言いますか。そういうものって受け取ることが大事な物語だって言いますかァ……」

 苦虫を噛み潰した様子の母親に代わって、父親がカナエの前に正座した。母親はいつも、子供であるカナエやサトルの質問への回答を面倒くさがり父親に頼るのが癖だった。丁寧に説明するのは父親のほうが得意だったのかもしれない。

「名和屋ナニガシの物語は名和屋家の縁起──つまりこの家の人が一体何をしたのか、どうして名和屋家の人間がナワヤノムスメに祟られているのか。それを覚えておくためにお話しされてる物語なんスよ。もし、カナエちゃんがモヤモヤして、気持ち悪いな忘れられないなって思ったら、それだけでもうこの話をした甲斐があるッス」

「……どうして」

 口を尖らせたカナエに対して、父親はにっこり微笑んだ。

 そして、父親と横にいた母親の声がそろってカナエの耳に届いた。

「「忘れられるのは、悲しいから」」

「……」

 それだけはカナエにも理解できた。カナエがまだまだ小さくて、小学校に入学するまで、両親は全国を飛び回って名和屋郷にはなかなか帰ってこないという状況だったから。

 それでも、カナエは最後まで理解できなかった──

「どうして、わたしのご先祖さまって、呪われているのに名和屋郷から出なかったのかなぁ」

 呑み込めない様子の幼いカナエに、父親は布団をかぶせていく。

「それは、カナエちゃんがこれから大きくなるにつれて考えて、答えを出していいんスよ」

「そうかなぁ……」そう思ってその時の、幼いカナエは眠りについた。

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