名和屋家の先祖、よくできま死た!

 むかしむかし、この国のどこにでもある山奥の、どこにでもあるような山村の一つである名和屋郷での話である。


「山菜を取りに山奥に行ったら、くそでかい塊が喋ったァ!?」

 名和屋郷の名主である、名和屋ナニガシが妹の報告に目を剥いた。

「そうよ、嘘じゃあないわふきのとうの生えてる沢の、手前にでんっと居座ってるのよ兄さん、あんたどうにか決めなさいよ」

 ぷんぷんと怒るナニガシの妹、名和屋ムスメが自分と同じくらいの背丈の兄に迫る。

「はぁー? そういう変なモノをやっつけることができるのお前だけやろ! 兄さんの手を煩わせるんやないわこのたぁけ」

「はぁー!? ドッ祓った後に報告してたらどうせ『勝手なことをするな』って怒るんじゃない! ちゃーんと報告してあげた妹に感謝してほしいわこの石頭!」

 名和屋ムスメは後世の遭禍学園では『非常勤講師』とか『特待生』に相当する、一般的には『霊能者』と呼ばれる才能を持っていた。それを兄であるナニガシが、一緒についていくことで制御していたという。

 化け物と呼ばれた七億不思議に対処できる唯一の戦力、あるいは人知の埒外にある力を持つ化け物じみた存在──郷の人間が、彼女にどんな目を向けたかは名和屋家の縁起には伝わっていないし、ナニガシが妹をどんなように扱っていたか、どう思っていたかも伝わっていない。縁起では、兄妹は沢まで七億不思議に相対しに行ったことが伝わっている。

 

 ──しかし、兄妹が帰ってくることがなく、代わりに名和屋郷に来たのはぶよぶよとした一人分の人型だった。

『山奥に生まれて、人のことばもなにをするかも学べずに難儀していたところやった。のこのこ来た奴がいて助かった』

『ナワヤのものだと言ってたわ。恩を返すために、この家に居座り住民を守ることにするわ』

 そう言って、ぶよぶよとした人型は──おそらくはナニガシムスメを犠牲にした七億不思議は名和屋の家に居座った。

 七億不思議それは、二十年に一度の生贄を求めたが、まぁそれは外部から調達すれば何とでもなる。

 人の生気を吸う化け物を従えたということで、名和屋の家に従わない家はなくなり、家はますます繁栄した、めでたしめでたし。


 名和屋家では、そんな話が伝わっている。

 

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