ホットケーキはミラノさんの味
今夜のメニューはカレーライスだ。
食堂の席に着き、配膳されるのを待つ。
今日は父さんと母さんに加えて、食堂のニネさん夫婦が来ていた。
暫くして、白いご飯に茶色い液体がかかった料理が運ばれてきた。
見た目は良くない。でもそれを吹き飛ばすほどいい匂いがしていた。
僕の分は甘口だ。
ニネさん夫婦は中辛。お店で出す味を確かめたいんだって。
父さんと母さんは辛口で、もっと濃い茶褐色の液体がご飯にかかっていてとても辛そうだ。
スプーンでぱくりと口に入れると、甘いけれどピリッとした味わいが口の中に広がった。おなかのすくいい匂いが鼻を抜けていく。
ミラノさんは約束通り海鮮カレーにしてくれていたので、好物のイカを口の中で味わった。
「すっごく美味しい。甘口だけとピリッとする」
「辛くて美味しいわ」
「これはうまいな。とにかくいい匂いだ」
辛そうなカレーを、父さんと母さんが水を飲みながら完食していく。
僕も甘口カレーを完食し、水をごくごくと飲んだ。
「すっごくいい匂いだし、食堂にあったら売れそうだね。ニネさんはどうでしたか?」
「勿論、メニュー入りさせて貰うよ。これは美味しい上に匂いが強い。客引きが期待出来るね」
「初めは中辛から、お客様の反応を見て、甘口や辛口も出したいわね」
「ああ、そうだな」
ニネさん夫婦はもうカレーライスをメニュー入りさせる事を考えている。
デザートはミルクレープだった。
何重にも重ねられたクレープと果物の断面が美しい。
「クリームが甘くって美味しい」
「クレープが何重にもなったケーキなのね。とても美しいわ」
「うまい。果物がアクセントになっている」
「実にうまい。見た目も良いな」
「本当に美味しいわ。素敵なスイーツね。作ると手がかかりそうね」
ニネさん夫婦はどこまでもお店のことを考えている様子だった。
さすが食堂の料理人と女将さんだよね。
そして後日、さっそくカレー作りの修練を終えてカレーライスを販売した所、うますぎると話題になり、お客様が殺到する騒ぎとなった。
村人は勿論、特に荷運びの仕事で来ている人足達に好評で、辛口・中辛・甘口を選べるようにしたのもまた反応が良かったらしい。
カレーライスの勢いは止まらず、ティティー村を飛び越えて領主様の耳にも届いたそうだ。
人足達の口コミもあって、物珍しく美味しい料理を出す村ということで目に止まり、領主様のハイド男爵家へカレーライスを献上する騒ぎとなった。
勿論、カッスィーのスキル【ネットスーパー】ありきでの事である。
ミラノさんはカレールゥがなくても作れるかもしれないが、香辛料が高くつきすぎる事を理由に、カレールゥで作るカレーライスを献上したんだって。カレールゥとお米を金貨10枚分も持って行ったんだから、これでもう十分だと思っていたら、なんと10倍欲しいそうで、カッスィー本人もハイド男爵家へ両親とテッサ、ミラノさんと一緒にお邪魔した。
いつものことだけど、大人たちは難しい話で忙しい。カッスィーがすることは、渡された金貨のぶん、カレールゥを出すだけ。
「中辛と辛口しかないけど、甘口は?」
「甘口はいらないっていわれたんだ。もう献上したぶんで足りるんだって」
「でもまた卸しに来るだろう? カレールゥの再現って難しいだろうし」
「それは大人たちで決めるって言ってたよ」
カレールゥの箱を積み上げながら、ふたりで数を数え、やっと納品が終わった。
カレールゥとお米とホットケーキミックス。
ホットケーキミックスは献上する際に、テッサのアドバイスで一緒に持って行くことになった。
牛乳と卵を混ぜて焼けばホットケーキというスイーツになる。バターとメイプルシロップで仕上げをして食べると、手軽でおいしいおやつになる。
食堂でも採用されるだろうとのことで、カレーと一緒に献上されたのだ。やっぱり手軽なのがいいのかな?
「よし、ホットケーキミックスもおわり。あとなんかあったっけ?」
「これで終わりだよ。でも何か頼まれたらテッサも手伝ってね」
「おう。まかせとけ!」
応接室に通されて、父さん母さんと一緒にお茶をいただく。
おやつに出て来たのはホットケーキだった。
ふっくらと焼きあがったホットケーキにメイプルシロップがかけられており、バターが中央に鎮座している。ナイフで切り分け、フォークでパクっといただいた。ミラノさんの味だ。ほっとするし、すごく美味しい。
食後のお茶をいただきながら、今後の話をする。
「今後、ひとつきに一度、今回と同じ量を卸すことになったわ」
「なぜひとつきに一度かというと、作り方を研究中のレシピも買い取りたいとおっしゃって下さってね」
「あとは後進の為ね。カッスィーもテッサも勉強になるでしょう?」
「はい」
確かに、商人はこんなかんじなのかな、とカッスィーも考えていた。
「テッサはどう?」
「はい。勉強になるし、楽しいです」
「じゃあ、また来月もよろしくね」
「はい!」
「……父さん、僕のスキル【ネットスーパー】は、役に立ってますか?」
「勿論だよ。大口の契約をいくつも交わすことができたし、大満足さ」
「良かったぁー」
父さんの笑顔が眩しくて、僕も嬉しかった。
その後家に帰り、自分の部屋に帰ると、気が抜けてしまった。
やっぱり気を張っていたんだろう。
これからは毎月、僕が交易に来ることになるのだ。
お弁当を出す以外、テッサの補助がないといまいち何を出せるのか、何があるのかもわからなくて、不安でいっぱいだった。
しかしこれからは、明確に交易という場で役に立てる。
スキル【ネットスーパー】は、はずれスキルだと思っていた。
しかし、カレーライスはとっても美味しかった。
こんな料理との出会いをくれたこのスキル【ネットスーパー】は、悪いものじゃないと思えるのだ。
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