唐揚げ弁当と冬支度
「ファイヤー・アロー!」
広場の端っこで練習してるのはルギア。
紫の髪のツインテールが可愛い女の子。
詠唱に伴って火矢が形作られ、合図と共に飛んでいく。地面に突き刺さったそれは、しばらくして消えた。
カッスィーはまた広場にいた。
明るいうちはお外で遊んできなさい、とのことだったので、広場に来ていた。
正直いって、ルギアみたいな戦闘系スキルを手に入れていたら、父さんと一緒に村の見回りをするときに、役に立っただろう。そう思ってしまう。
今日は、唐揚げ弁当だ。
ミラノさんいわく、これは研究のしがいがあります、だそうだ。
毎日通って貰ってるテッサも大興奮で、本当に美味しそうに頬張ってた。
これも必要そうな材料をたんまりと出してきた。
でも、金貨1枚で余裕がある程度だったから、安くてうまいならと、これも食堂で出しても良いかも、とまた大人たちは忙しそうにしていた。
カッスィーは村長夫婦に恩がある。本当の父さんと母さんにかわってカッスィーを育ててくれた。
スキルは商人向きだし、村の自警団で役立つより、食堂に米やカレーを卸すような取引で役に立とう。そう考えるようになっていた。
ザクッとした歯ごたえと、口の中いっぱいに広がる肉汁。噛む度に甘い油の味がする。付け合わせのキャベツを噛みしめ、スッキリしたあと、また唐揚げを頬張る。最高においしい。
ミラノさんも大変だけど、みんな食べたいものって一緒だから頑張って欲しい。
今日も銅貨を差し出してくるルギアに唐揚げ弁当を渡しながら、手を振るガイに、今行くと合図して見せた。
食堂に行くとお客さんでいっぱいで、裏に通される。
ここティティー村では現在アマイモの出荷時期であり、人足が毎日やってくるのだ。
出荷が終わると冬支度が始まるわけだが、まだもう少し時間がある。
食堂でも書き入れ時である為に、おじさんとおばさんはお店の方で忙しそうにしていた。
「ガイ、唐揚げ弁当3つで良い?」
「ああ。ルビアがめっちゃうまそうに食ってる。これは買いだと思うわけだよ」
「ガイはお店の事考えてて偉いね」
「褒めても何も出ねぇよ。っていうかうまい! 鳥の脂が甘くって肉がジューシーだし、米と合う!」
ガイは大興奮で唐揚げ弁当を食べている。
「ガイ、カッスィー君、ルビアちゃんが食べてたのはこの弁当だね」
「なんだか美味しそうで、お店でもちょっと噂になっていたの。頂くわね」
「う、うまい! 外側がカリッと揚がっていて中はジューシーで柔らかい」
「キャベツと合いますねぇ。これはうちで扱うべきかもしれないわ」
ニネさん夫婦も大絶賛だ。
「今朝ミラノさんに渡したんですけど、研究のし甲斐があるって言ってました。仕入れ値は安いそうです。だから食堂で出したらどうだって、大人達でなんだか話し合っていましたよ」
「それはいい! 今夜相談しに行くから、お父さんに伝えて置いて貰えるかい?」
「まかせて!」
僕は元気よく請け負った。
冬支度が本格化する前に、ティティー村には行商人が訪れる。
今日は、丁度行商人が来る日だったみたいだ。
広場に店を広げて、綺麗な布、水差し、綺麗な石や装飾品等、色んなものを売っていた。
「おじさん、このリボンください」
「ああ、2枚で銀貨1枚だよ」
「はい、どうぞ」
「毎度あり。包装はするかい?」
「要らないです。このリボンに使ってる刺繍糸はありませんか?」
「あるよ。おまけでつけてげよう」
「やったぁ。ありがとう、おじさん」
ルビアは行商人に何かを言って、刺繍の入ったリボンと糸の束を受け取っていた。
若草色で、春によさそうな色合いだ。ルビアの紫色の髪色に似合う。
「ルビア」
「カッスィーもお店を見に来たの?」
「うん。綺麗な色のリボンだね。ルビアに似合うよ」
「ありがとう」
「わぁ。僕これがいい。オルゴール付きの小物入れ」
「『サイラスの夕べ』かぁ。大人っぽい選曲だね」
「大人になっても長く使えるといいな。これください」
「銀貨2枚だよ」
「はい」
「毎度あり。また来ておくれ」
カッスィーは手に入れたオルゴールをぎゅっと抱きしめた。
「あっ、ガイが来た。ガイは何か買うの?」
「俺は木剣の新しいやつが欲しいんだけど、ある?」
「ああ、あるよ。坊主ぐらいの背丈なら、これでどうだ?」
「いいね。これください」
「銀貨1枚だよ」
「はい」
「毎度あり」
ガイは新しい木剣で素振りをするんだと言って帰っていった。
「カッスィー、何か新しいデザート、ある?」
「じゃあ、板チョコはどう? チョコレートっていうお菓子なんだ。 これだよ」
赤いパッケージを開き、銀紙を剥がすと、いい匂いがした。
ぱくりとひとかけら食べてみると、壮絶な甘さが口いっぱいに広がった。
「ん~~っ! 甘くてすっごく美味しい!」
「銅貨3枚だよ」
「2枚食べたいけどいい? 銅貨6枚ね」
「いいよ。そんなに気に入った?」
「だってすっごく美味しいもん! 私チョコレート大好き!」
「気に入って貰えて良かった」
他にも色んな種類のチョコレート菓子がスキル【ネットスーパー】にはある。
行商人のように、ルビアを喜ばせる事が出来るスキルを授かって、カッスィーはちょっと誇らしかった。
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ここまで読んで頂きありがとうございました。
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