オムライスと魔具職人 【テッサside】

「あー、美味しかった。唐揚げ付きのオムライスなんて美味しいに決まってるじゃないか。唐揚げは揚げたてでアッツアツ。外側がカリッとしていて、中は肉汁が溢れてくるほどジューシーだった。オムライスはバターの香りが芳醇で、中のチキンライスととろとろの卵を口に入れるとたまらない美味さだった。もう最高!」


今まで揚げ物はあっても素揚げが主で、衣を付けることはなかった。


そう、衣をつけるように言ったのはテッサだけれど、あっという間に唐揚げをマスターしたミラノさんは本当にすごかった。


スキル【ネットスーパー】で買ったケチャップを再現すべくトマトを煮詰めていたが、スパイスの選び方といい、さすがスキル【料理人】だと思った。



テッサは本来ならば鍛冶屋の子供で、そこまで物知りなほうではない。


ならばなぜかというと、テッサは転生者である。前世の記憶を持っているため、カッスィーにあれほど的確に頼みごとができるのだ。


いつ死んだのかは覚えていないが、前世では大学生だったのを覚えている。


気が付いたのは、スキル授与の儀でスキル【鑑定】を授かった時だった。


初めは物凄く興奮した。これがラノベで良く見る異世界転生だって。


でもすぐにトーンダウンしてしまった。


家族に不満があるわけじゃない。問題は食事だ。


米が食べたかった。出汁の味たっぶりの親子丼が食べたい。蕎麦をすすりたい。餅に齧りつきたい。


しかし、問題はすぐに解決するかと思われた。


スキル授与の儀でカッスィーが授かったスキル【ネットスーパー】。これってひょっとして〇友みたいなスーパーなんじゃないだろうか。


テッサは前世でネットスーパーを利用して食材を購入していた。


どうなっているかと見に来てみれば、ちょうど米が使途不明品として部屋の隅に追いやられている。


喜びすぎてちょっと踊りそうだったけれど、転生について話すつもりはないので、冷静なふりをした。出来ていたかはわからない。



ちゃっかり夕飯もご馳走になってしまったが、求めていた米をたっぷり味わえてテッサは満足だった。


これからの異世界生活に光明の光が見えた瞬間だった。



北東にある厳めしい門構えの鍛冶屋。


ここがテッサの家である。


「ただいまー」


「テッサ! てめぇ母ちゃんの手伝いもしねぇでどこほっつき歩いていやがった」


「カッスィーの手伝いをしてたんだ。鑑定で、明日から少し給金を出してくれるって」


「カッスィーか……。村長の息子ならしゃあねぇや。まあいい。明日はこんなに遅くなるなよ」


「はい、ごめんなさい」


テッサは思い付きのようにカッスィーの名前を出したけれど、貶める意図はなかった。


しかし、大人達の間ではかなりスキル【ネットスーパー】が不遇な扱いであることが見て取れた。


テッサのスキル【鑑定】は大当たりだ。


料理の簡単なレシピまで読み込んでくれるこのスキルは、きっとただの鑑定よりも良いものだ。


転生者の知識を誤魔化すにも持って来いと言えよう。


「母さん、何か手伝うことある?」


「あら、おかえり。もうだいたい終わっちまってるよ。後は階段拭いとくれ」


「はーい」


階段を拭きながら2階へ行くと、兄のイクトが通りがかった。


兄は母と同じ金髪で、ターコイズブルーの瞳をしている。


「テッサ、ちょっと来てくれ」


「うん」


兄は展示用の部屋に入っていき、下の方の小さな儀礼用の剣を手に取った。


「これは俺が打った剣なんだ。子ども用だけれど本気で打った。父さんはまだまだだっていうけど、品質の方はどうだ?」


「見てみるね。ええと、品質はCだね……」


「そうか。まだまだ先は長いな……」


兄さんってちょっとストイックなところがあるからな。父さんも思い詰め過ぎないようにって気を付けてるとこあるし。


自室に戻って、読むのは魔具雑誌だ。


今日はカッスィーも言っていたけれど、魔導コンロのように、魔石をはめて使う道具を開発するのが魔具職人。前世で言う電気製品に少し似てる。


無論のこと、アイディアはある。


なにがなくて何が求められているのかも知りたいし、アイディアを形にするためにも師匠が欲しい。


家族を嫌いになったわけじゃないけど、魔具職人になるためには、師匠を見つけ、師事する必要がある。


スキル【魔具職人】が欲しかったけど、【鑑定】なら応用もきくし、今は良かったと思っている。


ただ、現代人としてはスキル【ネットスーパー】がとても有用なものだと思ってしまう。


今日カッスィーの家で料理に使える、という話にはなったけれど、他にもたくさん用途があると思うと少し羨ましい。


出てくるものが前代未聞なら、テッサが鑑定すればいい。


明日からの鑑定生活を思い浮かべ、テッサは楽しげに目を閉じた。


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