第4話 小学生ボクサー

  こんな夢を見た。

  ある初夏の夕暮れ時、自転車でブラブラ散歩をしていると、(幅10メートルくらいの)川の土手部分に10台以上の車が列をなして駐車している。人は乗っていない。

葬式でもあったのかと周りを見回すと、2階建てアパートの1階のボクシングジムに人が集まっている。

人越しに中を覗くと、タイツに短パン・長袖のトレーニングシャツ姿でグローブを着用した小学生(6年生位?)の女の子が、リングでのスパーリングを前に、トレーナー相手にパンチを打っています。そして、それが終わった瞬間、たまたま私とバッチリ目が合いました。

この超真剣な気迫のこもった目が、かつて私自身が必死になって殴り合いをしたときの、大学日本拳法を彷彿とさせてくれたのです。


① 私は3歳から3年間、東京都八丈島、家の前に広がるジャングル(温度機能のないビニール・ハウスでバナナが生育する)で、毎日幼稚園にも行かずに一人で遊んでいました(父は都庁勤務、家には母と赤ん坊の妹)。

私が初めてジャングルへ入った日、いきなり遭遇した巨大なマムシと、やはり目が合ったのです。


② また、20年前、南米旅行中に出遭った、ナイフ使いの少年(16~18歳?)のことも思い出しました。この少年、数メートル離れて見た時は、米映画「ウエストサイド物語」(1961年)のジョージ・チャキリス似の二枚目というか、可愛らしい少年の顔をしていたのですが、面と向かって対峙する(顔と顔で50センチの距離)と、顔面がナイフの切り傷だらけ。


歌舞伎の河竹黙阿弥作「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」:

お富さんとの不倫の咎で顔面47ヶ所を切られた「与三郎」とは、正にこんな顔かと驚く程、凄みのある顔(と雰囲気)。


中高時代、あちこちで遭遇した「ニワトリの鶏冠(とさか)みたいな頭の不良学生」や、学校をサボって遊びに行った歌舞伎町で見た「その筋の方々」、また、大学日本拳法時代、凶暴さでは日本一と言われた某日本大学の面々にも、あんな凄い顔はいませんでした。


大蛇(マムシ)とナイフ使い。そんな恐ろしい記憶を思い出させてくれた「可愛い少女」。

もちろん、かの小学生に切り傷なんてありません。2ラウンドのスパーリングを終え、緊張感が解けたその顔は、天使のようなかわいらしさでした。

しかし、試合(スパーリング)前、ヘッドギアを装着していない時の彼女の顔は、八丈島で見た2メートルもある真っ赤な大マムシの神がかり的な迫力、南米のナイフ使いの、死を恐れない男の根源的な凄みに匹敵する「本物感」があったのです。

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「プロフェッショナル」とは専門(家)のことです。

その学説と見識、そしてその行動力は、永遠不滅・不動・普遍。

まさに「金剛経」のいわれである「①金属のなかで最も硬いもの。ダイヤモンド。転じて、極めて堅固でどんなものにもこわされない(広辞苑)」、本物の価値をプロフェッショナルと呼ぶのです(現在、巷に氾濫するのは、偽物のプロフェッショナルばかりですが。)

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私は、ある夏、この日この時(a season and a time)この女の子の、並々ならぬ迫力・凄みに、在来種日本人特有の「プロフェッショナル性=突き詰めた純粋な心」を見たのです。


「まことに良い夢を見させてもらいました。」

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