第10話 初仕事


目的地に着けば私は小さく息を吐き耳につけてあるインカムの電源を入れ「全員、配置に付いてますか?」と問いかけた。耳元からは「いつでもいける」や「配置つきました」と聞こえてきた。


これがマフィアに入ってからの初仕事。ちゃんとやらなきゃ……確実に成功させないと。そう考えているといつの間にか耳元から怒号が聞こえてきた。


「彗羽!聞こえるな!売人が逃げた追い込める場所を教えろ!」


「あっ……分かりました!今の位置からそのまま真っ直ぐ、200メートル先を右に回って下さい。そのまま真っ直ぐ行くと近くに少し開けた場所が有ります!」


地図と照らし合わせながら私は青宮さんに指示を出し他の部下の人達にも指示を出し私も急いでその場に向かった。


「見つけた……!」

私がそう呟いた時にはもう青宮さんが売人を捕らえ地面に押さえ付けていた。


「離せ!俺はクスリを売ってただけだ!」


「だからそのクスリがここだと禁止だって言ってんだよ。首領もご立腹だ」


「ここの奴らが薬漬けになろうが壊れようがてめぇには関係ねぇだろ!」


薬の売人が告げたその言葉に私は目を見開いた。確かにここスラムでは中毒者なんてざらにいる。それでも……それでもその言葉だけは許せない。


「……ふざけないで。貴方が売っていた薬のせいでどれだけの人が壊れてしまったの……ここに住んでる人だって同じ人間なの。そんな風に言われる筋合いなんて無い!」


「彗羽……!?お前なんでここに……お前は離れた所で待機だと言ってたはずだ!」


「……ごめんなさい。心配になったので来てみたんです……」


私は小さく笑みを浮かべながら青宮さんに告げそして薬の売人に視線を向けた。


「……もうあの薬を摂取し続けた人達はもう戻らない。どうしてあんな事が言えるの。どうして人の人生を壊せるの……!」


「はっ!スラムに住んでる奴らなんてろくでもねぇ奴らばっかだろ!そんな奴らに夢を見せてやったんだよ。」


「夢……?」


「あぁそうだよ!夢奏薬むそうやくって薬だ!それを飲めばどんな奴でも夢見心地だ」


その言葉を聞いて私は唇を噛み締めた。こんな奴のせいでここの人達は壊れていくんだろう。


「お前もう黙っとけ。とりあえず本部に来てもらう。彗羽、お前は首領に連絡しろ」


「……分かりました」


私は少し離れたところに移動して首領に「売人を青宮さんが捕らえました。これから本部へ連れ帰ります」と連絡を入れ私と青宮さん、そして部下の人達と一緒に本部へと戻った。





ほんの少しの体温が上がった感覚に気づかないフリをして。

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