第26話 嫉妬の源

「にしても」


 残っていたココアを一気飲みした七奈は、


「なんでこんなに嫉妬の塊になってもたんやろ。最初は仲良かったはずやろ」


 デビューから追っかけとるからか、悲しそうに言うた。


 せやんな。


 絵梨担とはいえグルの不仲は辛いよな。


「これもまた元マネさんからの情報……あ、他の人からのタレコミも合わせてなんだけど」


 浮上した疑問に対するAnswer。


「簡潔に言っていくね。ちーちゃんの家は貧乏、樹那様の家は裕福。ちーちゃんは家で虐待、学校ではイジメの標的。対して樹那様は学校の人気者で、生徒会長をしとった」


 おんなじようにココアを飲み干した探偵さんが持っとった。


 そっから彼女は、かき集めた情報を組み合わせてちーちゃんが嫉妬するようになった原因を喋り続けた。


 最初は七奈の言う通り仲が良かった。


 でも、一緒に活動していくうちに自分と樹那様との実力差を感じるようになった。


 家庭環境や学校生活のことだけじゃなく、これまで歩んできた人生と樹那様が持っているもの全てに劣等感を抱くようになった。


 抱いてしまった劣等感は、恨みや呪い……自分では隠しきれないほど黒い感情へと変化して。


 マネに彼氏と別れるように言われたことで、マスゴミにデマを流そうと決心させてしまった。


「これが私が突き止めた事実。プラス、個人的な想像ね」


 何故だかずっと握っていたマグカップを置きながら、瑠璃さんはそう締めくくった。


「ホンマ」


 私のココアはまだまだ残っとるから、一口飲んで、


「よう調べはりましたね。凄いわ」


「ははっ。これでも一応探偵だもん」


 乾いた笑い。


 全然嬉しそうやない。


 うん。


 こんな事実、知らん方が幸せやったかもしれん。


 それでも調べ上げた。


 樹那様のために。


 今日から足向けて寝られへんわ。


 頭が下がります。


「どんだけ羨んだところで、ちーちゃんはちーちゃんでしかないのに」


 黙って話を聞いとった七奈は小さな声で言うた。


 元気を搾り取られたみたいや。


 わからんでもない。


 ちょっと情報量多すぎたもん。


「嫉妬のエネルギーを自分を高めるための材料にすればよかったのにね。なんて、今更だし手遅れだけど」


 一気に喋って疲れたんか、瑠璃さんも小さい声やった。


「そうやね……ちーちゃんは結局、自分でアイドル人生終わらせてしもうた」


 羨んでいた他人の才能。


 彼女がどんなアイドル像を思い描いとったんかはわからん。


 ただ一つ言えることは、二度とその姿に手が届くことはないってことや。

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