第22話 想像の斜め上

 深呼吸をし、真剣な表情で瑠璃さんは口を開いた。


「落ち着いて聞いてね。樹那様のデマを流したのは、メンバーのちーちゃんなの」


「「あー……」」


「あれ?」


 思ってた反応とちゃうかったんやろな。


 首を傾げとる。


 そんな仕草したら、ますます幼く見えるで。


 とは言わんとく。


 流石に失礼すぎ――


「その仕草やめときぃや。更に幼く見えんで」


「おぉぉいっ」


 七奈、ドストレートに言いやがった。


 親しき中にも礼儀あり、っちゅう言葉を知らんのか。


「そう?」


「うん」


 って、ちゃうちゃう!


 軌道修正してくれた七奈が話を脱線させてどないすんねん。


「あのーもしかして、私らがもっと驚くと思っとった?」


「えっ? あ、うん」


 予想的中。


「それはなんというか……すんません。実はちーちゃんのこと、前から疑っとったねん」


「成程ねぇ。だからあんまり驚かなかったんだ」


「ですです」


 相槌を打った七奈に、


「それはどうして?」


 瑠璃さんは不思議そうに尋ねた。


「えっとな――」


 今までのちーちゃんの言動。


 定期ライブの帰り、二人で話し合ったこと。


 SNSライブに不在だったにも関わらず、メンバーからなにも説明がなかったことで、疑いを深めたこと。


 ぜーんぶわかりやすぅに説明してくれた。


 ナイス七奈。


「ふむふむ。やっぱりねえ」


「やっぱり?」


 今度はこっちが首を傾げる番やった。


 どういうこっちゃ。


「ちーちゃんが樹那様のことを嫌ってるのは、ファンならみーんなわかってるんやなって」


「あー成程」


 みんなにバレバレ。


 せやのに行動を改める気がない。


 ある意味大物やなぁ……ちーちゃんは。


 というか、


「事務所から注意されへんのやろか。あまりに露骨すぎるやん」


「そのことなんやけど」


 疑問に答えてくれたのは、


「あの子、彼氏がいるのよ」


 上がっとる口角とは対照的に、目は全く笑っとらん瑠璃さん。


「マジですか、え、嘘」


「嘘じゃないよーん」


「彼氏って」


 私も七奈も絶句。


 彼氏デマを流した本人に彼氏がおるって。


 なんじゃそれ。


「話はまだ終わってないよ」


 頭が混乱しとる私に、


「その彼氏、事務所のお偉いさんなんだよねぇ」


 表情を一切変えずとどめを刺してくれた。


「おっふ」


「……」


 ちょっと思考停止していいっすかね。


 パニックパニック。


「え、お偉いさんってことはかなりの年の差――」


「うん。本人にとってはパパ活みたいなもんだね。お相手は本気みたいだけど」


 そんなことまで調べたんかい。


 この探偵さん凄いわ。

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