第21話 本題の前に

 せやな。


 こっちもさっさと本題に入ってくれた方がありがたい。


 探偵さんがどこまで情報を掴んどるんか知りたいもん。


「今私が入手した情報なんだけど、あのね、もう黒幕わかってるのよ」


「え?」


「さっすが瑠璃っち」


 困惑する私とは対照的に、七奈は『当然』とでも言うような態度。


 なんでお前が誇らしげやねん。


「あの、松井さ――」


「あっ、下の名前でいいよ。ため口でOK」


 おっふ。


 初対面でいきなりか。


 いやいやいや、同士やし。


 樹那様を崇める信者やし。


 壁をつくる理由はないか。


「了解。んじゃあ……瑠璃さん」


「ちょっと距離感じるけど、まぁ今日が初対面だもんね」


 苦笑されてしまった。


 これでも精一杯勇気を振り絞った方ですが。


「黒幕が誰か聞く前に質問ええ?」


「うん、勿論」


 ずっと気になっとったことがあるねん。


「いつの間に調べたん? 普通に興信所の仕事あるやんな」


 七奈から、瑠璃さんが既に調査を始めていると聞いてから不思議に思っとったこと。


 両立難しくね?


「心配してくれてありがとうねー。その点は大丈夫、今は休職中」


「成程」


 それやったら、いくらでも調べる時間あるわな。


「樹那様のデマが流れてから、即行で長期休暇取ったわ。不倫の調査とか身辺調査とかやってられるかっての」


 腕を組み、眉間に皺を寄せた瑠璃さん。


「その気持ちわかります」


 推しの一大事。


 仕事が手につかんくなるのはよーわかる。


 自分で黒幕を調べようとは思いつかんけど。


「で、黒幕って誰なん?」


 あっ、七奈ごめん。


 私が話をそらしたのに軌道修正させてもうた。


「うん。真優っちの疑問が解消されたしね。本題に入ります」


「はい」


 心を落ち着かせて頷く。


 大丈夫。


 誰が犯人でも受け入れられる準備はとうにできとる。


 さぁ、聞かせてもらおうやないか。


 樹那様を苦しめた大悪人の正体を。

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