第18話 事務所ちゃうんかい

 我が家から徒歩20分。


 七奈に道案内され、立ち止まったのは三階建てのビルの前。


「こんな近くに興信所あったんか。知らんかったわ」


「真優っち、推し活以外は外出しないもんねぇ」


 苦笑された。


 うん、私は基本引きこもりやからな。


 こっちに引っ越してきて結構経つけど、家の周りにコンビニとスーパーがあることしか知らん。


 オシャレな店?


 知らんがな。


「んじゃあ、行きますか」


「おう」


「あっ、待った」


「ん?」


 一歩踏み出した私の腕を七奈が引っ張った。


「確かに事務所はここにあるんよ。でも、今回のことは彼女がプライベートで調べていることやからな、事務所で話ができへんねん」


 事務所で話ができひん?


 プライベート?


 もしかして、


「他の探偵さんには内緒で調べとるんか」


「そうやねん。せやからな、バレたらちょっとヤバイ」


「おーん……危ない橋渡ってんなぁ」


 なにがヤバイんかはようわからんけど、普通の会社やったら、勝手に単独行動しとったら怒られるか。


 知らんけど。


「んじゃあどこで会うん。ここまで来たのに」


 シンプルな疑問。


「あっ、それはな」


 彼女が指を差したのは、


「あの路地の先に彼女の家があんねん。そこ」


 道路を挟んだ事務所の向かい側。


「いきなり家かい」


 初対面やぞ。


 ハードル高いって。


「どっかカフェとかご飯屋さんとかやったらアカンの」


「アカン。彼女の同僚と鉢合わせる可能性があるから」


「あーね」


 それは仕方ない。


 せやけどな、


「忘れとる? 私、人見知りやで」


 ここまで来て言うことちゃうやろ、って意見はごもっとも。


 今回は樹那様のために勇気を振り絞って来たねん。


 事務所で話すと思って。


「ごめんごめん。忘れてないで。今日は我慢して」


 お願いっ、と両手を合わせて頭を下げられた。


 そんなんされたら文句言えへんやん。


 わざわざ関西から来てくれとるし。


 探偵さんと会う約束とりつけてくれとるし。


「おん。わかったわ、ここまで来たんや。行きます行きます」


「あざっす!」


 ホッと息を吐きながら頭を上げた。


 お礼を言うのはこっちセリフやで、七奈。


「んじゃっ、今度こそ行きますかー」


「おう」


 近くの横断歩道がちょうど青信号。


 私らは探偵さんの家に向かって歩き出した。

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