第14話 誠実

「私に彼氏はいません。あれは、ドラマの打ち上げで……私の報道された俳優さんの他にも沢山人はいました」


「やっぱりな」


「うん」


 七奈の相槌を聞きながら推しをじっと見つめる。


 唇震えとるやん。


 緊張してるんやろうな。


 私には想像もできんぐらい。


 頑張れ、樹那様。


 私は、私たち信者は樹那様の味方やで。


「次に」


 続けて樹那様は途切れることなく、報道について否定し、事実を語ってった。


 途中から涙目になって声が震えても止まらんかった。


 一つひとつ丁寧に説明していく姿。


 誠実。


 その二文字が頭に浮かぶ。


「私が言いたかったことは全て話せました。聞いてくださったみなさん、ありがとうございます」


 樹那様が頭を下げると、他のメンバーも一緒に頭を下げた。


「私たちはこれからも樹那を守っていきます」


 頭を上げた絵梨たんは真剣な眼差しで力強く言い、


「それでは、今日は本当に――」


「絵梨」


 締めくくろうとした彼女の言葉を樹那様が遮った。


 じっと見つめてくる樹那様に、絵梨たんは黙って頷いた。


「私を信じてくれているファンのみなさん」


 画面の向こうの視聴者に向けて樹那様は、この日初めて微笑んだ。


「大好きです。どうか、これからも私を、RAINbowを信じてください。お願いします」


「樹那様……」


 名前を呟くことしかできんかった。


 誹謗中傷を受けて苦しいはずやのに。


 最後の最後に笑顔を見せてくれた。


 もう胸がいっぱいや。


「それでは」


 再び絵梨たんが口を開く。


「今日は本当に……本当にありがとうございました。またお会いしましょう。以上」


「「「「「「RAINbowでした」」」」」」


 今度こそ締めくくられ、SNSライブは幕を閉じた。


 そこで漸く気がつく。


 私、いつの間にか泣いとったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る