第10話 疑惑

「今日のライブも最高やったね。樹那ちゃんおらんかったけど、メンバーの絆が見られてよかった」


「せやなぁ」


 いつもやったらライブ会場の前で七奈とは解散する。


 SNSやら電話で語り合えるし、彼女は関西に戻らなあかんし。


 明日も仕事やから。


 でも、今日はすぐに話したいことがあったから駅まで歩きながら話しとる。


「樹那様のメンカラをさ、アクセサリーとか衣装とかにつけとんのが……見つけたとき泣きそうになったわ」


「うんうん」


 樹那様のメンカラはピンク。


 メンバーたちはそれぞれネックレスやら指輪、髪飾りやらにその色を散りばめとった。


 ホンマにこのグルは仲がいいんやなって思った。


 思ったよ。


 一人だけピンクか赤かようわからん色を身に着けとるメンバーがおったけどな。


「あのさぁ、楽しいライブの後にこんな話するのもなんなんやけど」


「うん」


 ライブの感想はここまで。


「ちーちゃんの様子おかしくなかった?」


「私もそれ思ったわ」


「やっぱりそうやんな」


 意見の一致。


 おんなじこと思っとった。


 せやったら話が早い。


「ちーちゃんの演技バレバレよな。ウソ泣きなんかして」


「あれはホンマに不愉快」


 七奈が眉間に皺を寄せた。


 うん、激しく同意。


「メンバーの中で樹那様を嫌っとるんって、ちーちゃんだけよな」


「うん、そうやと思う」


 今日はよう意見が合うわ。


 え、なんで嫌ってるってわかるかって?


 そりゃ雰囲気でわかるんよ。


 本人は隠しとるつもりやろうけど、普段のSNSでのライブとか、定期ライブとか。


 いろんなとこで垣間見えんねん。


 視線、行動でな。


「なぁなぁ」


「ん?」


 七奈が足を止め、


「思ったんやけど、もしかして、もしかしてやで。樹那ちゃんのデマを流したんって」


 その先の言葉は容易に察することができた。


「おん、ちーちゃんかもしれん」


 彼女に頷きながら言った。


 憶測でしかない。


 確証はない。


 せやけど、今までのちーちゃんの樹那様に対する態度。


 積もり積もったもんは疑惑に大変身。


 樹那様が愛しとるメンバーを疑いとうないって気持ちは、ちょっとある。


 まぁ、私は樹那様単推しやし、七奈は七奈で絵梨たん単推し同担拒否やし。


 私らの間で疑いの目を向けるのは無問題。


「はぁ……ややこしいことになりそうやな」


「うん。でも、当分は様子見やね。私らができるんは樹那ちゃんを応援し続けることだけやわ」


 再び七奈に頷いて、私らは駅に向かって歩き出した。

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