第9話 メンバーの想い

「まず最初に言わせてください。樹那に関する記事は全て嘘です。真実は一つもありません」


 会場はざわつくことなく、静かにリーダーの言葉を聞いとる。


 ここにおるみんなはわかってんねんな。


 樹那様になーんにもやましいことがないってことを。


「それなのに、いろんな人から沢山の誹謗中傷を受けて。まるで犯罪者のような扱いを受けています。だけど樹那は元気です。毎日電話をして……」


 言葉を詰まらせた。


 よく見たら、目に涙を浮かべとる。


 当然やんな。


 同い年で、苦楽を共にしてきた仲やもん。


 他のメンバーよりも樹那様に対する思い入れは強いはずや。


 だからと言って、他メンが仏頂面で突っ立ってるわけやない。


「ファンのみなさんには申し訳ありませんが、今日、樹那抜きでライブをすることに異を唱えましたが、結果はご覧の通りです。大切なメンバーが傷つけられているのになにもできない……本当に無力です」


 泣くまいと我慢しながら、真っすぐに前を見つめている。


「樹那は誰よりも努力家。ファンのみなさんが一番よくわかってくれていると思います。あんな信憑性の薄い、くだらない記事に踊らされて、樹那が貶められるのが悔しいです。無期限の謹慎処分に関しても、私たちはなにもできなかった」


 一人を除いて。


 悲しそうに笑ったリーダーは、


「みんな、樹那を信じてください。お願いします。みなさんの想いはきっと樹那に届きます」


 リーダーが頭を下げ、続いて他メンも頭を下げた。


 一瞬静寂に包まれた会場やったけど、誰かが手を叩き始めたのをきっかけに、みんな拍手でリーダーの言葉に答えた。


 中には、


「絵梨たーん! 樹那様のこと信じてるよっ」


「大丈夫、俺たちは味方だから」


 拍手に負けない大きな声で想いを叫んでいるファンもおった。


 私もその中の一人。


 おっきな声で声援を送り続けた。


 そうして、しっとりとした空気で始まったライブ。


 今回も大成功やった。


 みんな樹那様の分まで頑張ろうっていう気合が伝わってきたし。


 涙目の絵梨たんの肩を抱くいずみん。


 ええな、メンバーの絆って。


 ただ。


 ただ、や。


 最初から最後までずーっと様子が気になったのは、ちーちゃん。


 なにがおかしかったっていうのは言われへん。


 雰囲気がなぁ……他メンと違うかってん。


 我関せずって感じ?


 表面上は樹那様のことを心配しているように取り繕っとったよ。


 でも、バッチリ見えとったで。


 涙を拭うふりして、実は泣いてなかったん。


 なぁ、ちーちゃん。


 私らファンの中で……まぁ、一部なんやけど。


 アンタが樹那様のこと嫌ってること、知ってるんやで。

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