第2話

「さて、腹ごしらえも済んだし……はぁ、素材集め行きますか」


一花はパンパンと服を払うと、持ってきた水筒を開けて水を飲んだ。

そしてスマホがぶるると震えたのに気づいたが、迷惑メールかなと帰ってから見ようとポケットをぽんと叩いた


:いや、一花ちゃん素材棄てたやん?あれ売れば良かったのに

:ほんそれ。多分30万以上にはなるしなんなら食べたキノコで100万超えてるぞ

:おーい、ここ見ろー答え書いてあるぞー


そんなコメントを見るというやり方すら知らない一花はぽそっと呟く

額に付けたカメラのマイクはその小さな声を拾い配信にのせる


「うう……今月のお家賃払えるかなぁ…」


もはや、呪詛に近い言葉だ

それ程に追い詰められている。現代日本でお金というものは必要不可欠なものゆえに


:どんなとこ住んでんだ…さっきのが、はした金だから棄てた?

:うーん?今んとこ情報としては「一花・ichikaの配信1回目」と、サムネは配信前にスマホで撮るやつだからこんだけか

:あとは高ランクらしいと言うことくらいか


:でもあのサムネやばいよなぁ…

:パッと見不安になるレベルで、髪型も服装もボロボロ。写真じゃ装備とか見えないけど、あの短剣も使い込まれてたなー

:うわ、すげっ!めちゃくちゃ移動速ええよ!


:めーがーまーわーるー!

:これ配信してんの絶対忘れて…るよなぁぁああ

:はっや、これ階層戻ってる!もう4階まで!?

:脚力バケモンで草ぁ


視聴者の事など一切を置き去りに走り4階層まで戻る。ここは草原のエリアとなっていて、初心者が主に狩りをする場だ


「えっと、たしかこの辺に」


見つけたのはゴブリン4匹である

気付かれないよう、足音を立てずに後ろに回ると


フシュッ


1匹目!

後ろから走りより、首を後ろから飛ばす

そのまま2匹目も同様に斬る


3匹目!

返す刀で、同じく首を狙い飛ばす

さすがに4匹目は気づかれてこちらを向くが、懐まで既に入っている

右手を突き出して首に短剣を突き刺し、そのままバックステップをして距離をとる


ずしゃりと4体のゴブリンが崩れ落ちる……


「ふう、これで2000円…」


そう言いながら討伐証明になる耳と指を切り落とし、専用の皮袋に詰めた


ゴブリンは素材として活用が難しい

ちなみにゴブリンの死体はダンジョンへ呑まれていくので、それ迄に証明を切り落とす必要がある


これで2000円と言ったのは、1匹あたり500円の報奨金が出るからだ

ゴブリンは際限なくダンジョンから生み出されるため、見つけたら倒すのが通例として探索者に教えられている

一花はソレを守っているのだ


:に、2000円?

:その前に鮮やかすぎんだろ!?いくら弱いって言ってもそれなりにはやるぞあいつら!

:アサシンみたいでした…カッコイイ…

:あの短剣…あんな斬れ味いいのか?音しなかったぞ


:ゴブリンは倒して討伐証明を持ち帰ると、1匹500円になる。これは管理局に提出すると、ランクポイントと報酬が貰える仕組み


:それな、おれランク3まで上げて辞めたけどゴブリンはランク3になる時の討伐証明に使われてるそこそこの強敵。それよりなんで今更ゴブリンを?一花ちゃん高ランクだよな?


:もしかしてさ…この人、なんも知らないって事ないよね?

:あ。

:あ。

:あ。

:ありうる……ここのコメも見てないし、さっき高額素材棄ててたしな

:それでお金無いって事……あるの?そういえばカメラもなんか画質わるいよね?ドローンカメラも使ってないし…


コメント欄で一花の境遇がなんとなく把握されつつあるところで、一花はそのままダンジョンを出てしまった


ダンジョンから離れると、3分の猶予を持って配信はストップする仕組みになっており、一花は何も分からないまま、視聴者とコミュニケーションを取らないままに初めての配信を終えたのだった



本日の一花チャンネルの視聴者ー9名。

この9名はそう遠くないうちに、パーティ組む事となる


太陽一花を助けるために



太陽一花は大きな一歩を踏み出したことに、本人は気付いていない






ダンジョン探索者の配信の今


一花がダンジョン探索者になったのはもう10年も前の事だった。その時の装備のままに配信をするとどうなるかーそれは



「佐藤くん!ほんとなの!?装備更新してない探索者がいるって!」


慌ただしいダンジョン管理局のここは配信管理室


ダンジョンにおける配信は現在、ほぼ義務となっている。もちろん非公開でも構わない

なぜならそれはセーフティネットでもあるから


ソロ探索行為、または強敵と出会った場合など負傷者が出た場合にいち早くそこにたどり着き、救援を行うためだ


そしてその装備と言うのは任意ではなく義務とされ、更新されているハズだったのだ


「はい、かなり旧式ですよこれ…だれかのお古かと思いましたが本人の物のようです」


「はぁ…、名前は?ランクはわかる?」


佐藤がキーボードをカタカタと鳴らす


「太陽一花さん、ええと、33歳の女性です。ランクは…5ですね」


「それで、今どんな状況?」


「カメラ装備には階層判別モジュールが組み込まれる前のものですので、映像から判断するにダンジョンの15階層活火山エリアですね。あ、第2ダンジョンでソロ活動中のようです」


「ランク5が何だってそんな所にソロで…とりあえず救援まわして」


「もう回してます。一番近くにいたのはソロの皇 双葉探索者ですが、20階層からですので多少時間は掛かるかと」


さすが佐藤と、姫川はホッとする

それにしてもランク5がどうやって活火山エリアをソロ活動できているの…いいえ、そもそもどうやって行けたのかー


「ウィザードなの?」


姫川のポロりと漏れた言葉を佐藤は拾い


「分かりませんね、太陽さんの納品履歴見るとほぼゴブリンしか討伐されてませんし…ランクも経年探索で上昇しているに過ぎません」


「そう…、とりあえずまだ無事なのは良かったわ。状況教えて」


「はい、皇双葉は現在18階層まで戻りましたが接敵、ヘルエイプ15匹と交戦中。足止めを食っています…あ!太陽一花がファイアリザードと接敵しそうです!」


ファイアリザードは強敵だ。ランク5程度の実力では倒せるはずも無い。

最低でも4.5人であたる敵だ、姫川がまずいと思った瞬間だった


「はぇ?、あ、は?」


佐藤らしくない、間の抜けた声に姫川は一体なにがおきたのかわからない


「ファイアリザード……討伐完了」


「は?何言ってるのアンタ。ランク5じゃないの?」


「ええと、確かにランク5なんですけど……あ、肉焼いて食べ始めました…」



佐藤が何を言っているのか訳が分からなくなり、無理やり佐藤を椅子から押しのけてモニターを見るとそこには確かにファイアリザードの肉を焼いて美味しそうに食べている一花の姿があった



ーーーーーーーーーーーーー

ダンジョン管理局の配信管理室


日本各地にスカイツリークラスの電波塔を7つ建築し、無線によるネットワークを構築している。

ダンジョン内は何故か携帯の電波がめっちゃ飛ぶので如何に深層に潜ろうとも配信ができる

各地に配信管理室があり、そこで探索者の安否を確認している。

佐藤と姫川はそこの職員で、姫川が主任


佐藤くんは真面目な性格で、元々アナウンサーを目指してた男性

姫川さんは30歳になったばかりの彼氏ナシ歴30年、一花は33歳彼氏ナシなので多分先輩になりますね!


皇双葉、ランク外探索者で、第2ダンジョンを主に活動している人。ちなみに25歳女性で探索者歴3年にも関わらずアホみたいに強いし正義感の強さはピカイチなので基本的に救援を良くしてくれるダンジョン管理局からすると凄く役立つ探索者


第2ダンジョンは認可されているダンジョンの2番目と言う意味








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穴ぐらのシンデレラ ちょせ @chose

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