穴ぐらのシンデレラ
ちょせ
第1話
お金がないというのは、お金を稼ぐ才能がないという事でもある
働かないというのはまた違って、働いてもお金が貯まらない
さして使っているわけでもないのに貧乏なのは仕方がない
だけれど、一歩前に進むため、いつもと違う…そう、今はスマホが一台あれば配信だって可能なのだから!
ダンジョン探索者専用アプリと言うものがある
ダンジョンに潜る者には専用のカメラとそのスマホにインストールしたアプリを連携させてリアルタイム配信ができるようになる
それを利用して配信し、広告収入、投げ銭を稼ぐ事が可能になる
太陽一花(たいよういちか)はそれを利用した事はなかった。
なにせ配信するという事は顔を出さないといけないし、しゃべらないといけないからだ
それが嫌で一切配信をしていなかったのだが、この度そうも言ってられなくなった
メイン収入であるバイトをクビになったのだ
「うう…お家賃が4万円、光熱費1万円で…最後の貯金が3万円…全然足りないよぉ…」
元々のバイト収入は10万円ほどあったのでそれでなんとか暮らしていけていた
だが、クビになった結果そうも言えなくなった
頑張って貯めていたお金を切り崩していたのだが、それももう限界である
「はぁ…仕方ないか…うう…怖いよぉ」
そう言いながら重い足取りでダンジョンに入っていくのだった
「ええっと、これでいいのかな?見えてますかー?」
「って、誰も見てないよね」
新人配信者なのだ、それは仕方のない事である
「ええっと、今日はいつもの様にご飯採取に来てます」
:いっちばーん!ってご飯採取ってなんだ?
:にばん!あれじゃね、ダンジョンのみで取れる美味いキノコあるって聞いた
:知ってる、超高級キノコなんだよねー上司におごってもらった!
:なんかボロボロの女の子のサムネなんで気になって見に来た
:あ、俺も俺も!なんか元はそんな悪くなさそうなのに髪の毛とか服装とかボロボロで気になった
「今日は何食べようかなぁ。ダンジョン食材ってあまり日持ちしないんですよね…」
:キノコって日持ちしないの?
:いや、あれ結構持つって聞いたぞ?
:美味しかったなー自分でお金払ってまで食べようとは思わない値段だったけど
:調べた、そのキノコなら多分このダンジョンの8階層で採れるらしい
:8階層か、最低でも中級以上じゃないとキツイとこだな
:うはー取引価格で1本2万もするっぽい。これ調理してとかだとホントにえぐいな
:すげえ良い松茸みたいなもんか
「んー、久々にスイーツキノコ食べようかなー結構取りに行くのめんどくさいんですけど美味しいので」
:スイーツキノコ?それの事かな?
:わからんな…食った事ないしってまて、ここ8階層じゃないぞ?あそこは森林だったはずだ
:そういえば周り、岩場じゃね?
:ね、ねえ散歩するように歩いてるけどこの人、あれファイアリザードじゃないの!?
:ちょ、危ない!逃げろ!あれ初心者が勝てるような奴じゃねえぞ!
:だめだこいつ、配信初心者らしくコメ読んでねえぞ!おいだれか管理局に通報しろ!
「あ、火トカゲだ。お肉はコレでいいかなー」
一花に気づいたファイアリザードがその鈍重そうな見た目とは裏腹にものすごい勢いで駆けてくる
体長1.5m、体重250㎏ほどもある巨体だ
牙をむき、飛び掛かってくる瞬間一花は腰から抜いた短剣を二振りほどする
半身になるとその横をファイアリザードが跳び抜けていく
ズゥン…
着地は失敗し
大きな音を立てて巨躯は崩れ落ちる
前後ろ、全ての足が斬りとられ大きな頭すらズルリと斬られて落ちた
一瞬で行われたそれにコメント欄が一瞬止まるが
:は?
:は?
:はえ?
:はああああ!?
画面の向こう側では一花がいそいそと手慣れた手つきでファイアリザードの皮を剥いで、肉を切り分けていっている
:ちょ、ちょっとまて勝ったの?
:勝ったっていうか瞬殺?何も見えなかったけど
:あああ、ここ15階層!活火山エリア!そもそもここで活動できるのランク20以上の探索者だけ!
:初心者じゃなかった!?ランク20以上って確かまだ日本に数人だろ!?
:いや、それは配信者と公表されている人だけだ。そのランク帯の人はそもそも配信しなくても素材の売却で食っていける収入があるから配信なんてしないんだ
:えええ!?じゃあ一花ちゃんは!?
:プライバシーだからなぁ。公開サイトにもランクは載ってないし
画面の向こうでは切り分けられた肉を、マグマ熱で熱くなった溶岩石をフライパン代わりに焼いている一花が見える
塩コショウを振りかけて、焼き上がったものを順番に食べていく
「ふああ。おいっし…3日ぶりのちゃんとした食事だよぉ」
ここ3日は職探しをしていたためダンジョンには来ることが出来なかった
その間はインスタントラーメンでしのいでいたのだが
配信のことなど忘れてもくもくと食事を勧める一花の裏側で、太陽一花とは何者かと言う議論は荒れていた
もくもくと食べ終わった後、一花は満足したとファイアリザードの残った素材をマグマの中に放り込む
本人は残飯処理のつもりである
それを見た視聴者はというと
:ああああああああああああああああ!まってぇ!それ棄てないでぇぇ!!
:冗談だろ!?棄てるやつはいねえぞ!
:何?
:ファイアリザードの皮って高値で取引されてんの。ふつうは防具だとか冒険者が活用するのに使うんだけど、一般市場に流れることもあってその時はバッグとか財布とかにされるんだけど…
:あれだけあればバッグと財布とベルトとか何組作れるとぉぉぉ!!
:だいたい百万超えるのよ・・財布1個で。バックだと500万とかじゃなかったっけ
:それ一花ちゃん捨てちゃったか…そりゃ発狂するやつも出てくるか
「あ、すいーつキノコめっけ」
溶岩の隙間にあるそのキノコは真っ黒であるそれをいくつか取ると
「ふぁい(美味い)」
次々と口に放り込んでいく
:あれ…
:うん、この階層でしか採れないって言われているキノコで、主にファイアリザードのテリトリーにしか生えない彼らの主食
:市場価格はなんと驚きの1本10万円です。正確にはグラム1,000円ですね…
:あれ本来はすりおろしてケーキとかにふんわりと振りかけるやつだよね。そのまま食べるのとか見た事ないんですけど?
:店頭に出回るときは行列できるんだよ。誕生日ケーキに買ってもらった事ある
:それをあんなにぽんぽんと…
:もぐもぐね
そんな悲鳴がコメント欄にあふれているとは露知らず、太陽一花は久々の食事に舌鼓を打つのであった
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