36.さいかい
「……うそ、だろ……」
愕然と声を漏らすジュリアン。
監視装置越しに映っている光景を前にジュリアンはただただ信じられないという顔をした。
そこでは、あろうことかユリフィス特務隊の、その中でも最精鋭とされる者達が倒れ伏していた。誰も彼もが気を失い地面に横たわるその光景。
しかし、その中でただ一人、たたずむ人物がいた。
毛先のみが黒い金髪の下に、魔力で光り輝く黄金の瞳を持つ少年。
マグヌス・レインフォード。
あるいはハル・アリエルと言う名を持つその少年だけが、その場にたった一人の勝者として居座るその光景を前にして、ジュリアンの顔が引きつる。
「仮にもユリフィス特務隊の精鋭だぞ……? それが、こんなあっさり……」
これが〝本物の〟黄金の世代なのか、とジュリアンは言葉を失う。
同じ15歳とは思えない圧倒的魔法力。
いっそ暴力的なまでに才能の差を見せつけられて、ジュリアンは立ち尽くす。
一方その横では、ユキナがそんなハルを見て、安堵の息を吐いていた。
「ハルくん……」
めじりに涙が浮かぶ。
ユキナにとって、その姿があまりにも眩しい。
そんなハルの姿に胸の前で両手を握りしめるユキナ。
だが、ユキナのその姿を睨む者がいた。
「……おい」
ジュリアンが、ユキナに声をかける。
唐突にかけられた声にユキナが振り向いた先で、そこにはこちらを射殺さんばかりに睨みつける二つの眼があった。
「………ッ」
「なんだよ、その顔。イラつくなあ。そんなに嬉しいか? ユリフィスの精鋭をハル・アリエルが打ち破ったことが……⁉」
がりがりと髪を掻きむしってユキナを睨むジュリアン。
血走ったその眼にユキナは一瞬臆しそうになる。
だが、あと一歩でユキナは踏みとどまった。
彼女は一度息を吸い込んだ後、意を決した眼差しでジュリアンを見返す。
「ええ、嬉しいですよ」
「───」
目を見開くジュリアン。
対するユキナは一歩も引かずジュリアンを真正面から捉える。
「私は、ハル・アリエルが勝って嬉しいです。なぜならば、私はハル・アリエルの婚約者。将来の夫なる方の勝利を嬉しく思って悪いとでもいうつもりですか?」
「この……‼」
怒りのままユキナへと手を伸ばすジュリアン。
そのままユキナの髪を掴もうとした──その、直前。
──ドガガガァァァアアアアアアンンンッッッ‼‼‼
轟音。
それと同時に、ジュリアン達がいる中央管理室の分厚い扉が外側からはじけ飛ぶ。
「!!??!?! なんだ⁉」
突然の事態に振り向くジュリアン。
そうして見やった視線の先でジュリアンは──黄金の化物を見る。
「よう、ジュリアン・ヴァン・ユリフィス」
立ち上がり、そう声を発したのは金色に光る両目を持つ少年──ハル・アリエルだ。
彼は、突然現れた自分を前に立ちすくむジュリアンを見やって、その唇を獰猛に歪めた。
「俺の婚約者を返しに来てもらったぜ」
☆
俺は、攻性術式を使って内側から扉を吹き飛ばした。
そうして、部屋へ侵入した俺を迎えたのは、ジュリアンの愕然とした眼差しだ。
「ハル・アリエル……‼」
絶叫を上げるジュリアン。
だが、俺はそれを無視して視線を周囲へ向ける──はたして、探し人はすぐに見つかった。
「ユキナ!」
「ハルくん!」
銀色の長髪が、爆風吹き荒れる室内の中で揺れる。
こちらへ駆け寄ってくる少女を俺は手を広げて迎え入れた。
抱擁。
しっかりと少女の体を受け止めて、俺は少女をしっかりと抱きとめる。
「すまん、遅れた」
「いいえ。十分早く来てくれましたよ」
俺の謝罪に首を横へ振ってそう告げてくれるユキナ。
その姿がすごく愛おしく思えて、俺は無意識のうちに少女へ手を伸ばしていた。
「帰ろう、ユキナ。俺達の家に」
「はい、ハルくん」
俺の言葉にユキナがコクリと頷く。
そのまま俺はユキナを連れて、その場を去ろうとした。
だが、それが許せない人物がいたようだ。
「──おい、待てよ」
ジュリアンが俺達の前に立ちふさがる。
ユキナとよく似た銀髪を持つその少年がこちらを睨みつけ俺達の前に立つ。
そのまま彼は苛立ちのままに自分の髪を掻きむしりながら俺を睨んできた。
「なに僕を無視して、勝手に行こうとしてんだよ……‼」
「知るか。止めんじゃねえよ、横恋慕野郎」
俺は、ジュリアンの言葉を切って捨てる。
そんな俺の言葉に、ジュリアンは頬を震わせる。
俺はそんな少年を見て、呆れ混じりに嘆息を漏らした。
「いいか、俺の役割はユキナの救出だ。強制執行令状もそれを理由に取ったし、それ以上のことをするつもりはない」
きっぱりと、俺は自分の目的と、法的要件によって決まった使命を語る。
その上で、俺はジュリアンを見やり、その身の内に纏う魔力の熱量を上げた。
「それでも、俺を止めるということは、お前自身も排除対象になるということだが、わかっているのか?」
「………っ」
俺の身から漏れ出す魔力を受けて顔を強張らせるジュリアン。
彼もまたユリフィスの人間として十分以上に優れた魔導師であるが、悲しいかな、猟兵として実戦をいくつも潜り抜けた俺の前では彼もまた十代の子供にすぎなかった。
自分では敵わない魔力の暴力に怯えて固まるジュリアンを俺は冷めた眼差しで見つめる。
「命を賭ける気もないのなら去れ。見逃すぐらいはしてやる」
圧倒的な実力差を思い知らされたからだろう。ジュリアンがその場から動けなくなるのを見やって、俺はユキナと共に過ぎ去ろうとした。
「じゃあな、ユリフィスの魔導師」
過ぎ去りざま、ジュリアンにそれだけを告げて俺はユキナと共に部屋を出る──
──それが起こったのは、まさにその時だった。
「あら、もう帰ってしまうのかしら?」
暴力的な魔力の奔流。
声と共に到来したそれは、冷気の形をとって俺とユキナに襲い掛かった。
「───⁉」
とっさに防性術式を展開して俺は自分自身とユキナを守る。
それによる防御が間に合わなければ恐らく全身を氷漬けにされていただろう。
それほどまでに強烈な冷気で空間を満たしてのけたその魔導師は、カツンカツン、と足音を立ててこちらへと近づいてくる。
長い銀髪をまとめもせずに背中に流すその姿。
見た目は十代半ばごろの少女にも見えるのに、見の内からあふれ出る膨大な魔力と、超然とした雰囲気が一目でそのような年齢にとどまらないことを悟らせる。
その姿を認めた瞬間、俺はたまらず叫んでいた。
「シエラ・ユリフィス……!」
俺の叫び声に果たして向こうも微笑みをもって応える。
「ええ、ごきげんよう。マグヌス・レインフォード」
シエラ・ユリフィス。
ユリフィス家の最長老でもあり、推定で300年以上の時を生きる魔女がそこにいた。
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