17.卑怯者賛歌〈下〉
跳躍機動装置の鋼線を巻き上げ、電子噴流を吹き出しながら俺は宙を舞う。
「──総員、体制を整えろ! 相手は空中から攻撃してくるぞ!」
眼下では、ようやく着地したマクシミリアン達、ユリフィスの特務隊が集結しつつあった。
──ふむ。ここからどうしようかな。
彼らは俺が頭上から攻性術式を落とすことを警戒しているようだが、あいにく俺にそれはできない……俺は、魔法で人を攻撃できないからだ。
──魔法が関係ない単なる殴り合いならばともかく、狙撃魔法で敵を攻撃はできないが……マクシミリアン達はそうじゃないしなあ。
と、俺が思った時だった。
「全員! 狙撃術式用意!」
号令と共に眼下で展開していたマクシミリアン達が魔法の発動体勢に入る。
腕を突き上げ、胸元で盛大に刻印機を駆動させながら、術式を練った彼らから放たれるのは【
「チッ」
舌打ちを一つして、俺は跳躍機動装置から電子噴流を噴射して【一般攻撃術式】の回避に専念。迫る幾筋もの光条を何とか潜り抜けた。
「追い詰めろ! それと次いでに柱も壊すんだ!」
「おいおい、遠慮なさすぎだろ!」
魔法で俺が跳躍機動装置を使うための柱を次々と壊していくマクシミリアン達。
それによって俺の機動力を削ごうとする考えは正しい。
こちらが魔法で攻撃できないのだから、なおさらに。
「さあて、どうするかねえ」
鋼線による跳躍機動で攻撃を避けつつ、この後の作戦を考えていた俺は──
「次はそこだ!」
「あ、やべ」
俺が機動に使おうとした柱が先んじてマクシミリアンに壊された。
おかげで俺は次の機動先を失い、あえなく地面へ落下する。
「うおおおおおお」
「落ちてきたぞ! 総員、時期を見計らって狙い打て!」
落ちる俺へすかさず攻撃を行うマクシミリアン達、ユリフィス特務隊。その攻撃の精確性、全員の攻撃を連動させる練度──さすがユリフィス直轄の魔導師達だ。
「これは手加減できそうにないな!」
叫びながら俺は体内で魔力を熾した。
刻印機で演算するのは、霧の術式。
大気中の水分へ干渉し、瞬時に膨大な量の霧を発生させた。
それによって視界をふせぎつつ、さらに【防壁】を展開することでマクシミリアン達の攻撃を防御。その状態で、俺は地面へと着地する。
「………ッ」
「霧に臆するな! 【探知術式】で〝敵〟を感知して、攻撃するんだ!」
マクシミリアンが部下へ指示を下す。
それに呼応してユリフィス特務隊の戦闘魔導師達が【探査術式】を使いながら俺へと向かってまっすぐと突っ込んできた。
連携を取ってこちらを四方八方から包囲する特務隊の隊員達。
彼らの動きも連携も見事だ。
さすが十二騎士候ユリフィス家直轄の戦闘魔導師と言えよう。彼らの練度は帝国軍の魔導師部隊にも匹敵するか、それを凌駕する。
そこまで見て問って俺は──
「はは」
笑った。
迫りくる魔導師達。包囲された状態。これ以上ない絶体絶命の状況だ。
それを理解して、否、それだからこそ俺は笑う。
「計画どおりだ」
ユリフィスの魔導師達がいっせいに攻撃を行う。
全員が共通した術式。光条を放つ【一般攻撃術式】──戦闘魔導師ならば誰もが習得しているそれが、俺の隠れる霧を貫通して俺へと迫り──
「な」
「は?」
──それを突き抜けてユリフィスの魔導師達に直撃する。
「がっ⁉」
「なぜだ⁉ 確かに【探査術式】で魔力の反応を──」
自分達へ直撃した魔法の一撃に驚愕する特務隊の隊員達。
彼らに何が起こったのか──それは簡単に説明がつく。
「まさか、自分達の【探査術式】を惑わされるなんて、そうは思いもしないよなッ!」
──【探査術式】への介入。
霧の中に展開した別の術式によって【探査術式】に介入し、それによってユリフィスの戦闘魔導師達に俺の魔力反応を誤認させた。
ついでとばかりに、その誤認した魔力位置に味方の反応をかぶせればいっちょあがり。
味方を俺だと誤認した戦闘魔導師達による誤射によって、見方を撃ち抜き連携が混乱した特務隊の面々。そこへ俺は──
「ほら、追加で目くらましだ」
──【相転移の魔眼】
これによる熱量変換によって、さらに霧の範囲を拡張した俺により、マクシミリアンを初めとした特務隊達が霧の中に消えていく。
俺の発生させた真っ白な濃霧に消え去る特務隊の隊員達。
「クソッ。周りが見えない!」
「動くな! 先ほど見たいに誤射──……ッ⁉」
接近。霧に紛れて俺は特務隊の一人に肉薄し、その腹へ拳を見舞った。
「ぐぎゃ⁉」
「はい、まずは一人」
さらに加速し、すぐ近くにいたもう一人へと蹴りを叩き込む。
「ぎゃっ」
「なんだ、なにが起こっている⁉」
さらに一人沈んだのにたいして、少し離れた場所にいたマクシミリアンが絶叫を上げる。
「ぎゃっ」
「ぐあ⁉」
その間にも響く部下達の悲鳴。濃霧で覆われた視界の中で、混乱に陥るマクシミリアン。
「この霧の中で、なぜ正確に部下の位置がわかる⁉」
「ここが俺の領域だからだよ!」
言いながら俺はマクシミリアンへ肉薄する。
「おらよ!」
握りしめた拳を思いっきりマクシミリアンの横っ面に叩きつけた俺。
マクシミリアンはそれにたいしてギリギリでの防御に成功するが、そんな防御を俺は魔導師特有の膂力で強引に突破した。
「………ッ」
マクシミリアンがたたらを踏む。その上で彼はこちらを睨みつけてくるが、俺は濃霧に紛れることで、その視線から隠れる。
対するマクシミリアンは霧へ隠れた俺を探そうと【探査術式】を展開するが、それにマクシミリアンが霧の中で舌打ちを漏らした。
「……よくわかったぞ」
鋭い視線を霧の奥に隠れる俺へ向けるマクシミリアン。
「貴様……【領域干渉】を使っているな」
「はは」
俺は笑う。
マクシミリアンの言葉は正解だ。
「……周辺の空間を丸ごと覆う事象干渉の領域。それによって魔法で展開した霧を維持し、さらには感覚器としても活用したということか」
俺が霧の中で動き、自分の部下達を圧倒した理由を正確に察するマクシミリアンに対し、俺は拳撃をもって、答えとした。
「それが分かったところで、どうするっていうんだ⁉」
「……ッ! まだだ! まだ、私は部下がいる! たとえお前の領域であろうと、部下と連携すればいくらでも──」
「バカを言え」
俺はマクシミリアンの言葉を切って捨てる。
「もうお前ひとりしか残っていねえよ」
告げて、俺は【領域干渉】を停止する。それによって霧をとどめるものがなくなり、そうして露わとなった闘技場の中、そこには、倒れ伏す人影がいた。
特務隊だ。マクシミリアンの部下であるユリフィス特務隊の隊員達が、完全に戦闘不能となって、そこに倒れている。
「バカな⁉」
愕然と目を見開くマクシミリアン。彼は完全に気を失っている部下達を見て、わなわなと声を震わせながら叫ぶ。
「我がユリフィスの特務隊だぞ⁉ 仮にも戦闘魔導師として【情報強化】で守られているはずだ⁉ その守りを突破するには、相応以上の魔力が──」
と、そこでマクシミリアンがハッと目を見開いた。
その上で、彼の視線が迫る俺へと向けられる。
「まさか、貴様は我々を超える魔力を有しているとでも──⁉」
「そのまさかだよ」
殴りつけた。
彼の頬を強かに打ち据える俺の拳。膨大な魔力を纏ったそれにより、マクシミリアン自身が纏う【情報強化】の守りを突破し、彼へ盛大な一撃を加える。
吹っ飛ぶマクシミリアン。彼はそのまま地面に打ち据えられ、そして戦闘不能となった。
「ばけ、もの」
最後にそう言い残してマクシミリアンが気を失う。
『そこまで! 勝者、ハル・アリエル‼』
──こうして、俺は決闘裁判の勝者となった。
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