16.卑怯者賛歌〈中〉
──決闘をするにあたり、俺は悪友であるアルス・アルカディア殿下に通信を入れた。
「──つーわけで、ちょっと決闘裁判をする裁判所をアンネールにある帝室所有の闘技場にしてほしいのと、それとそこの機構を俺の操作で起動できるようにしてほしんですけど、それってできます、殿下?」
開口一番にそう告げた俺に、殿下はなんとも言えない沈黙を返事として返してきた。
『……ハル。俺としてはいろいろと言いたいことがある。まず、なぜユリフィス家相手に決闘を挑んでいるんだ、とか。それでどうしてユキナ嬢との婚約破棄につながっているんだ、とか……本当にやらかしてくれたな、お前』
「いやー、あはは、まあ成り行きで」
笑ってごまかそうとする俺を、殿下は舌打ち一つすることで許してくれた。
『ふざけるなよ、と言いたいが、もう決まってしまったものは仕方がない。しかしアンネールの闘技場? あの天空闘技場のことか? 確かにあそこは、いろいろな魔法競技などを行うために、いくつかの機構が搭載されているが……』
怪訝な声音を受話器の向こう側で響かせながら言う殿下。
それに対して、俺は殿下には見えないのは承知でひょいと肩をすくめてみせ、
「だからそれを使わせてくださいよ。いきなり闘技場が大きく変形したら、連中絶対戸惑うでしょ? それに、上手くいけば相手を空中ぶち上げたり、跳躍機動装置でこっちの優位な状況を作れる──この婚約は帝室も維持したいんですから、悪い話じゃないでしょ?」
『……お前、もしかして最初からそのつもりだったのか?』
さすが、殿下。俺の考えをよくわかっていらっしゃる。
「そりゃあ、俺だって制限された状況下で、対等に正々堂々と戦えるなんて思っちゃいませんよ。多少の小細工ぐらいは使います」
『……会場を大きくいじることのどこが多少の小細工だ』
受話器の向こうで呆れた声を出した殿下。その上で殿下は、はあ、と大きく嘆息し、
『仕方ないか。わかった、こちらで手配しておこう──その代わり、ハル』
通信を切る直前、殿下はこんな言葉を俺へと残してきた。
『勝てよ。決闘にはなんとしても』
「ええ、おまかせあれ」
☆
……と、まあそんな感じの小細工を施してもらった上で、今現在。
俺が魔力を流して起動した闘技場のカラクリにより地面から飛び出した柱によってイルカにぶち上げられたトビウオよろしく、宙を飛ぶユリフィス特務隊の面々。
魔導師ゆえにその身に纏う【情報強化】によって傷こそ追っていないものの、空中という人間にはどうしようもできない空間で身動きが取れなくなっていた。
それに対し、俺は──
「さあて、ここからはずっと俺の時間だ!」
告げて、俺は腰部の
先に取り付けられた分銅の後端から電子噴流を吐き出しながら加速した分銅は、そのままそびえたつ柱の一本に打ち込まれた。
分子間力によって柱に分銅を接着させると同時に、俺は跳躍。
腰の跳躍機動装置から電子噴流を引き出しながら、鋼線の巻取りとそれによって起こる遠心力によって加速した俺は、そのまま空中にいるユリフィス特務隊の一人に蹴りを叩き込んだ。
「ぐあっ⁉」
「お前達! 惑わされるな! 落ち着いて空中で体勢を整えろ‼」
空中にいる部下へマクシミリアンが叫び、そう指示を下すが、俺はそんな隙を与えない。
「させねえよ!」
さらに腰部から鋼線を射出し、それによる巻取りと背面からの噴流で加速して、空中で体勢を整えようとしたユリフィス特務隊の一人に横から突進を食らわせる。
「クソがあ!」
「おいおいおいおい! ユリフィス特務隊といえども空中じゃあ形無しかあ⁉」
鋼線を射出し、さらに加速。特務隊の奴らに着地する隙も与えず、次々とぶっ飛ばす。
「……ッ。舐めるなあ‼」
辛うじて着地したマクシミリアンが腕を突き出し、身の内から魔力を発する。
発動する術式は【
魔力を直接光という現象に変換して放つ一条の光線が空中にいる俺へ向かって放たれた。
「おっと、危ない」
迫る光。それを見て俺も体内で魔力を熾す。
同時に、胸元で熱が発された。そこにあるのは一つの機械──刻印機だ。
大型の懐中時計にも似たそれによる演算補助を受けて、術式の演算速度を増加させた俺は、ほんの刹那に術式の構築を完了。
──第二種防性術式【
戦闘魔導師ならば誰もが標準で使うことができるその防性術式を目の前に展開した。
そこへ【一般攻撃術式】が突き刺さる。
展開した半透明の魔法防壁に突き刺さった光の矢。
直撃すれば最新鋭主力戦車の正面装甲ですらぶち抜く攻撃が、しかし俺の展開した【防壁】一つになすすべもなく防がれることに。
「──⁉ なんだこの堅さ⁉」
俺が展開した【防壁】によって防がれた自分の攻撃魔法に愕然とするマクシミリアン。
瞠目する彼へ向かって俺は跳躍機動装置の鋼線を放つ。
空中で噴流を引き起こしマクシミリアンに向かって肉薄。瞬時に距離を詰めた俺は、その横っ面に思いっきり拳をぶち込む。
「ガッ⁉」
「ほらほら、
鋼線による張力と電子噴流を巧みに使い、宙に滞空しながらマクシミリアンにたいして右と左の拳を次々と叩き込んでいく。
「な、なんなんだ、この戦い方は⁉」
一方的に拳をたたきつけ続けられマクシミリアンが驚愕と共に口走る。
彼が驚愕しているのは、空中で俺が格闘術を使っていることもそうだろうが、それ以上に俺の拳法にも驚愕しているだろう。無理もない。俺がいま使っている格闘術。これは──
「ボクシングっていうんだよ‼」
振りかぶっての強烈な左ストレート。続いて右のワンツー。徹底的に距離を詰めて、そこから放つ回転の速い拳は、魔導師の身体強化も手伝ってもはや機関銃がごとき連撃をマクシミリアンへと食らわせる。
「なんと面妖なッ。見たこともない格闘術と言い、このような状況を作り出したことと言い、それで栄えある帝国の魔導師か!」
「言えよ。勝ちにこだわって、卑怯をなしたのはそちらが先だぞ‼」
空中で殴られ続け、そのような言いようをしてくるマクシミリアンに俺はそう叫び返す。
おまけとばかりに蹴りを叩き込んでマクシミリアンをぶっ飛ばし、柱へその巨躯を叩きつけつつ、俺はさらに追加で膝蹴りを見舞った。
マクシミリアンの曲と俺の蹴りを受けて崩れる柱。
崩壊する柱の破片に紛れて落ちながらマクシミリアンがこちらを睨みつけてくる。
「このッ。一方的に、殴りつけてくれおって‼ 銅臭ただよわせる財閥ごときが! どうせこの場も貴様らが金で物を言わせて作ったのであろう⁉」
「おいおい、ひどい言いがかりだな──ここの改造費用は帝室持ちだよ」
世界最大の大金持ちである帝室が費用を出して、ここを改造してくれた。
なので、こちらは一銭も払っていない、と言う俺にマクシミリアンは──
「せめて、お前の金でやれええええええええ──‼」
そう絶叫するマクシミリアンへ向かって俺は上空から蹴撃を食らわせる。
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