ヤクソクオボエテル?

@hnsmmaru

ヤクソクオボエテル?

 鉛色の雲が広がる朝。アスファルトに垂直に打ち付ける土砂降り。通行人は道端に咲く紫陽花が強い雨風を受けてなお可憐に咲き誇る様子には一切目もくれず、遮断機が開くのを待っていた。

 電車が走行通過するまでの僅かな時間、否応なしに足を止められた人々は透明なビニール傘越しに雨脚を見つめるなり、音楽に耳を傾ける、スマートフォンを呆然と眺めたりなど、激しく鳴り響く警報機の音さえ聞き流す。

 待ち人らのなかに、一人の男性が遮断機の棒を掻い潜る瞬間を目にした者はいない。――ただ一人の少年を除いては。

 その少年は、傘も差さずにいるが雨に濡れた様子もない。ただ大事そうに新品のサッカーボールを胸に抱え、踏切を渡った先の道端に立ち、穏やかな笑みを浮かべていた。

 まるでその男と待ち合わせをしていたかのように見つめていたが、遮断機を潜る様子に気が付いても止めず、頬を歪めるばかりだった。

 何者かに導かれているかの如く線路内へと踏み入れた男性は、けたたましい急ブレーキの音とともに、形容し難い音を立てながら凄惨な肉塊へと成り果てた。飛び散った鮮血と肉片が線路を汚し、踏切周辺は一瞬にして悲鳴で包まれてしまった。しかし少年は悲し気に声をあげるどころか怪しく口角を上げる。

『これでまいにちいっしょにあそべるね。ぼく、ほんとうにうれしいよ。……だけど、まだあとひとり、たりないなぁ……』

 雨に濡れたサッカーボールが肉塊の隣に転がり汚れるまで、少年の声は誰の耳にも届かずも雨のなか木霊していた。


* * * * *


 連日の豪雨から一転、数日ぶりに顔を出した太陽だったが、数時間も経たないままうちに灰色の雲が広がった。地面にはあちらこちらに水溜まりが作られ、行く手を塞いでいる。

 傘を差し帰路につく会社員、宮原進ノ介の前にも大きく濁った雨水が溜まり、靴を濡らさないようおそるおそる足を踏み出した。

 進ノ介は普段よりも早い退社時間に意気揚々と会社を出たはずだった。

 当時はまだ雨は降っておらず、翌日に控えている休日の予定を立て楽し気にコンクリートを踏みしめていた。だが電車を乗り継ぎ駅から換えた後、自宅までの道程へ歩き出すと瞬く間に天気が崩れ、早々に雨が降り出したのだった。

 日常的に持ち歩いている折り畳み傘に感謝した日はこれまでなかったがするのは稀だった。徐々に強くなる雨脚に戸惑いながらも傘を片手に歩き、通い慣れた個人経営のお肉屋でコロッケを購入。ビニール袋が濡れてしまわないようにしっかりと傘を差し直した進ノ介は再び自宅へと向かい歩き出したのだ。

 降りしきる雨の音には慣れてしまい、馴染みすら感じるようになってしまった足音に耳を傾けていると、不意に懐かしさを感じる気配があった。

 その気配の正体を探すべく通りかかった公園の前で周囲を見渡すと、公園内のジャングルジムに寄りかかりサッカーボールを抱える少年を見付けた。

 その少年は傘を差さず、雨宿りをしているようにも見えない。それだけでなく公園の入り口からでも少年の姿は目に入るが、通行人の誰もが気に留めず歩き去り、無視をしていた。七分袖の水色のシャツは雨に濡れ濃く変色し、ジーンズもより濃紺へと変化していた。背中を丸め、寒さを堪えているようにも伺える窺える。

「あんなに雨に濡れて……何だか可哀想だな」

 決して大きくはない折り畳み傘を差す進ノ介は一度考え込んだ。

 このまま帰っても特に用事があるわけではない。

 コロッケは冷めてしまったら電子レンジで温め直せばいいだけのうえに、少年に気付かなかった振りをし、他の通行人と同じく無視をしてまで温かなコロッケを食べたとして、心から美味しいコロッケだと感じるのだろうか。

 逡巡の末、進ノ介は少年の元へと足を踏み出した。

 想定外の降雨とはいえ、久しぶりに早く退社ができたことほど清々しい気分はない。コロッケをつまみに飲む酒も美味しいが、少年を自宅まで送って行っても罰は当たらず、それどころか更に酒が美味しくなるのではないか。

 普段にもまして心に余裕が広がっていた進ノ介は少年に声をかけた。

「雨んなか雨宿りもしてないし、傘も差さずにこんなところでどうした? 家の鍵でも忘れちまったのか」

「……」

 少年に傘を傾け、見下ろしがちに話しかけたものの返答はない。

 優しく問いかけているつもりだったが恐怖でも感じさせてしまったのだろうか。口を閉じ続ける少年を前に進ノ介は困ったように頭部を掻き、首を傾げてしまう。

「おい、何か言えよ。お前、友だちは?」

「……」

「何か言ってくれよ」

 不満を露わにした進ノ介はわかりやすく溜息を漏らした。親切心のつもりで声をかけたものの、不審者とでも思われているのだろうか。少年は俯き続けている。

 どう会話を広げればいいかわからず、糸口を求めて少年と目を合わせようと一度腰を下ろした。大事そうに抱えているサッカーボールは雨に濡れてしまってはいるが目立った汚れはなく新品そのものだった。

「サッカー、好きなのか?」

「うん」

「そうか。俺も昔から好きなんだよ、サッカー」

 そう言った直後少年はゆっくりと顔を上げた。嬉しそうに頬は緩み、警戒心が少しずつ解かれてるようにも見える。

「サッカーをしようとしたら、雨が降ったのか?」

 大きく頷いた少年だったが残念そうに肩を落としてしまった。

 進ノ介自身、天気雨から身を守るように公園内のベンチで雨宿りをしたこともある。しかし当時一緒に雨宿りをしていたメンバーとの記憶を思い出そうとすると頭に鈍痛が走り、詳しくは思い出せない。

 その原因さえ覚えていないのか、記憶を取り戻せずにいる心当たりは全くなかった。

「今日はもう止みそうにないし、このまま公園に居たら風邪をひいちまうぞ? お兄さんが家まで送って行ってやろうか?」

「でも、あやしい人にはついていくなって」

「それはごもっとも、だな。それじゃあサッカーを教える先生、なんてのはどうだ? 俺さ、ここら辺に住んでるから、晴れた日にでも教えてあげられるかもしれないし」

「それならおかあさんも許してしてくれるとおもう」

「じゃあ、約束だ。今度一緒にサッカーをしようぜ。もちろんお前が風邪をひかずにいたら、な」

「ありがとう、おじさん」

「お、おじさん、かぁ」

 思わぬ返答に驚き苦笑交じりの進ノ介を前に、少年が何かおかしなことでも言ったのだろうかと首をひねった。 

 だが進ノ介は無理やり納得し、少年の右手を取る。

「それじゃあ、今日はこれで帰ろうぜ。風邪をひいちまったら元も子もないからな」

 進ノ介の手を握り返した少年は嬉しそうに微笑み、ジャングルジムから背中を離した。

「よし、行くか。って言いたいところだけど……雨に濡れないようにこのビニール袋を持っててもらってもいいか? 俺が持ってるよりもお前が持ってるほうが濡れにくいだろと思ってな」

「うん、わかったよ」

「あぁ、頼む」

 少年の歩幅に合わせて歩き出すと、彼のほうへ折り畳み傘を傾けた。既に雨に当たった少年だが、これ以上濡れてしまってもいけない。進ノ介は自分の右肩が濡れてしまうのも厭わず、少年を労わるように傘を握り直した。

 公園を出てからは、少年の自宅までの道を確認しながら歩いた。進ノ介の実家も近所にあるが、少年が案内する道を辿っているとどうしてか実家への道なのりと重なる。

「お前、もしかして近所の第三小学校に通ってんのか?」

「それは、その」

 少年の顔色を伺い窺いながら会話をしようとする進ノ介は歩く速さを抑えながらも、言葉をかけていく。

「あっ、すまん、さすがに答えれないよな、見ず知らずのお兄さんになんかさ。やっぱいいよ、答えなくて」

「三小だよ。おじさんもそうなの?」

「昔の話だけどな。お前くらいの頃は放課後さっきの公園で毎日サッカーをしてたんだ。あの頃が一番楽しかったぐらいだよ」

「いっしょにサッカーをしてたのはおじさんのお友だち?」

「もちろん。そいつとは今でも友達、いや親友だな」

 進ノ介には付き合いの長い親友がいる。今は互いに仕事をしているため滅多に会う機会は少ないが、時間があれば酒を酌み交わし思い出話に花を咲かせることもあるくらいだ。

 小学校時代の話は彼があまりしたがらないが、一緒にサッカーをしていたのは間違いない。

「しんゆうかあ、いいなあ」

 悲しそうに告げた少年の右手から力が抜けていく。進ノ介が彼の手を握り続けていなければ、するりと腕を下げていたことだろう。

 勇気づけるように言葉を返す進ノ介は少年へ微笑みかけた。

「お前の人生はまだまだこれからだろ? いずれできるよ」

「まだまだ、これから?」

 ゆっくりと顔を上げた少年の瞳に力強く頷く進ノ介の顔が映る。

「もちろん。お前、見た感じ小学校三、四年ぐらいだろ? 人生はあと七十年近く以上あるんだ、生きてりゃそういう存在に出会えるさ」

「死んじゃった……はしんゆうじゃないの?」

 少年の言葉に進ノ介は眉をひそめた。彼が何を言いたいのかすぐには理解できなかったが雨音で聞き漏らしてしまっただけだろう。

「俺の周りに死んじゃった友達なんていないけど……」

 不快感が生じる耳鳴りと比較しても程遠い、狂気に満ちた電車の走行音が進ノ介の耳に衝撃を与えた。駅まではまだ距離があるにも関わらず拘らず、突然の音に戸惑っている暇もない。とっさに視線が合った少年の瞳に進ノ介は気圧されてしまった。まるで生気がなく、光のない闇に吸い込まれるかのような恐怖が彼の瞳には広がり、言葉を失った。それだけでなく、目が合った途端に、地獄の底から這い出るような低い声が進ノ介を襲った。

『――ウソツキ』

 脳内に直接語りかけられる感覚に慌てて周囲を見渡してしまうが、声の正体には辿り着けない。

 異様なほど早く心臓が脈打ち、まるで温もりのない死人の手に心臓を握られたかのような恐怖に駆られた。

 再び少年と目を合わせ時には彼の顔が赤黒く歪み、眼球があるべき場所になく、右の瞳部分には闇とは異なる穴が開いて空いていた。首は辛うじて上体と繋がっているが、右頬から顎にかけては骨ごと抉り取られたかのように血肉だけが僅かに残されていた。

『……くんのせいで、ぼくは……』

 彼が口を開く度にめりめりと音を立てて肉が崩れていき、足元に肉塊が落ちていく。

 心臓が激しく打ち付けられた。

 何を見ているのか、見せられているのか。これは現実か、夢なのか。

 それを確かめようにも体のあちこちの感触が消え去っているかのようだった。頬を抓ろうにも、まるでその部分の肉が欠け、飛沫飛散してしまったかのような――。

「おじさん、どうかしたの?」

 呼吸の間隔さえ短くなっていたところに、先ほどまで聞いていた声変わり前の少年の声が耳に届いた。反射的に瞬きをすると、悪夢を見させられていたかのような悲惨な少年の顔ではなく、少々色白だが生気に満ちたものへと変わっていた。

 何だったんだ、今のは。そう口を開きかけたが、あどけなさの残る顔立ちをした少年を前にすると、ゆっくりと呼吸を整えて口を閉じる他ほかない。

「すごく、かおいろが悪いけど……だいじょうぶ?」

「大丈夫だよ。何でもないさ」

 無言を貫くわけにもいかず、平静を装い言葉を返すも動悸は激しいままだった。無意識の内に握り拳を作ってしまう。

「おじさん……手が、痛いよ」

「あっ、ごめんな」

 傘を握る手だけではなく、少年の手を握っていた左手までもを握り締めていたことに気付かされて、進ノ介は一度ゆっくり手を離した。

 言いようのない恐怖に未だに心を占領され、足を止めてしまう。

「おじさん、ほんとうのぼくを見たの?」

 さきほどの光景を思い出すとふるふると首を横に振ることしかできず、拭いきれない恐れが残る。しかし、少年の言葉に僅かに残されていた理性が反応をし、ふと疑問が生まれた。

「本当の……僕?」

 この少年は何を言いたいのだろうか。完全に恐怖を払拭することはできていないが、少しずつではあるが冷静さを取り戻していく。

 脳裏に刻み込まれた少年の惨たらしい顔と、本当の僕、という言い方に、この少年が何かを隠していることが知り得る。

「ううん、なんでもない。行こう、ぼくのいえはこっちだよ」

「あぁ、そうだな」

 進ノ介の手を握り歩き出した少年を追うように足を動かした。だが真相を知りようもない不可思議な出来事を体感しながらも、右肩に触れる雨水だけが現実味を帯びていた。

 再び少年とともに歩き始めたが、濡れたアスファルトを歩いていく間の無言には到底耐えられようもなかった。進ノ介は忘れ去れない体験を抱えながらも、ゆっくりと口を開き少年と会話を試みる。

「さっきは言いそびれちまったんだけど、お前は今を楽しめよ。親友ならいつかは絶対に作れるんだ」

「うん、そう、だね」

 歯切れ悪くも返答をしてくれた少年に向けて、進ノ介は言葉を続けた。

「ただまぁ、友達とか親友って言っても、ずっと遊んでられるわけじゃないし、大人になったら顔を合わせられる機会も少なくなる。俺の場合、中学高校では好きなサッカーをいつでも出来たんだけどな、社会人になった今じゃあ、人を集めることすらできないんだ。最後にサッカーをしたのはもう一年半年も前になるわ」

「でも、おとなになれるだけいいとおもうよ。みんながおぼえていてくれるだけ、いいじゃんか」

 少年の言葉を聞き、進ノ介は彼へと目を向けたが穏やかに微笑み返されるばかりだった。一言一句聴き漏らさずにいたつもりの進ノ介だったが、彼の悲しみに暮れた表情については質問を重ねることができない。

 どちらかともなく再度再び口を閉ざしてしまい、傘やコンクリートへ降り付ける雨音だけが耳をやんわりと刺激する。しかし初対面の少年と、数々の不可解な言動や幻覚に無言でいることのほうが進ノ介にとっては恐ろしくすら感じてしまう。

 恐怖から脱するべく進ノ介は自ずと口を開いた。

「今更なんだけどさ」

「なに?」

「お前さ、どうして雨のなか一人で公園にいたわけ?」

 ぴくりと少年の指が震え進ノ介の左手が僅かに振動した。言い迷う少年の小さな声に耳を傾ける。

「ほんとうはともだちとサッカーをする約束をしてたんだけど、とちゅうで雨がふっちゃったの。でもね、約束をやぶってぼくだけが先に帰って……くんがあとから来たらわるいかなっておもって……まってたんだ」

 少年の返答に進ノ介は肩を落とした。

 この子は素直で優しい子なだけだ。もう少し大人にでもなれば雨のなかサッカーができないことには気付き、スマートフォンを持たせてもらえるようになれば「また今度ね」などと連絡を入れることができるだろう。

 もちろん突然の雨のせいで結果的に約束を破る羽目になってしまったその友人に非はない。しかし雨に濡れて体を震わせていたこの少年を想うと、友人とやらには一喝を入れたい気持ちにもなってしまう。

 だがやはりこの少年は進ノ介が想像する以上の優しさを持ち備えていた。

「でもいいんだ。こんどはいっしょにあそんでもらうつもりだから」

 そう言うと進ノ介に微笑みかけ、サッカーボールを力いっぱい抱え直した。雨に濡れていたボールを抱え続けたせいか少年のシャツはさらに濡れてしまっていたが、気にも留めずに大事そうにしている。

「そうか。それじゃあ、今度その友達と一緒に公園に来いよ。俺が教えてやるからよ!」

「ともだちといっしょに?」

「イヤか?」

「ううん、イヤなわけじゃないよ」

 鉛色が強くなった雲間には日差しが差さず、まるで少年の心に拒絶されているかのようだった。今までの会話から仲を深められたような気がしていた進ノ介にとって、少年の言葉は意味深く、頭を抱えてしまう要因にも繋がる。

「でもね、おじさん、それはぜったいにできないことなんだ。だってそのともだちは――」

 少年の声は灰色の空に吸い込まれるように消えていき、代わりに届いたのは電車の走行音だった。小学校時代によく歩いた道路に懐かしさを感じつつあった進ノ介だったが、この先の踏切に近付けば近付くほど、現実から離れていくかのような不思議な浮遊感に襲われる。

 しかし進ノ介は小さな温もりを感じる左手を離さずに、少年とともに歩き続けた。

「ぼくのいえはね、ふみきりの先にあるんだ。おじさん、今日はほんとうにありがとうね。ぼく、おじさんのことはぜったいにわすれないから」

「礼なんていいよ。雨のなかで一人寂しそうに立ってる子どもを放っておくことなんてできないしな」

「……あのときはちがったくせに」

 少年は息を吐くようにひどく悲し気に吐き捨てた。薄く唇を開いた少年の声は進ノ介の耳には届かない。

「どうした?」

「ううん、なんでもないよ。おじさん、ぼくのいえにまでかならずつれて行ってね」

「当たり前だろ」

「うん、ありがとう。ぼく、やくそくはわすれないから」

 二人の前方では遮断機の赤いランプが点滅していた。だが少年の歩みは止まらない。進ノ介の腕を引くように大きく前へと踏み出した少年は途端に笑みを浮かべる。

「ふみきりをこえて、つぎのどうろを右にまがったところがぼくのいえなんだ」

 帰宅できる喜びが露わになっているのだろうか。少年の心からの笑顔に安心感を覚えた進ノ介もまた微笑んだ。

「そうか、すぐそこなんだな」

「はしったら、ほんとうにすぐなんだよ。おじさん、はしろうよ」

「あぁ、わかった」

 少年の無邪気な笑顔と喜びに触発された進ノ介は遠くで鳴り響く警報機の気配を感じながらも、手を引かれるままに踏切へと足を踏み込んだ、その瞬間だった。

「危ない!」

 突然後方から切羽詰まった男性の注意を促す声が聞こえてきた。そして差していた傘が大きく風に煽られて顔に雨水が打ち付けられると、突然視界が開けたのだ。

 それまでに感じていた不思議な浮遊感が体から消え去り、雨にさらされた顔が冷えていく。

「何やってんだ、ばか野郎!」

 荒々しい口調の男声に我に返った進ノ介の耳に入ったのは騒々しい電車の走行音だった。進ノ介は状況を理解するよりも先にざわつく心臓の音に苛まれながらも一歩、二歩と後ずさる。

 周囲からは小さな悲鳴があがり息を飲む呑む住人人々の動揺が広がるが、進ノ介自身が一番狼狽えていた。

「お前まで死ぬつもりだったのかよ、進ノ介!」

 馴れ馴れしくかけられる言葉のほうへと振り返ると、そこには一半年ぶりに再会する親友、曽我部真人の姿があった。後ろには投げ捨てられたであろう傘が転がり、服は濡れ重たく肌に張り付いている。

 真人は自分が雨に濡れることは気にもせず、厳しく顔をしかめながらも瞳には僅かに涙が滲んでいた。

「踏切に飛び込んで自殺をしたがってるように見えたんだぞ! おい、聞いてんのかよ」

 荒々しい口調で叱責される進ノ介だったが唖然とするばかりで状況を飲み込めない。だが先程まで手を繋いでいたはずの少年の手のひらの温もりはなく、冷えたビニール袋だけを握り締めていたのだ。

 進ノ介は激しく周囲を見渡すもそれらしい少年はいない。

「少年は……あの少年はどこに行ったんだ!?⁉ なぁ真人、お前何か知らないか!?⁉」

 遮断機が上がると周囲の人間は進ノ介を怪訝そうな表情で横目に見ながらも踏切を渡っていく。

「サッカーボールを持ってさ、水色のシャツにジーパンを履いて穿いてる男の子なんだけど、公園で雨に濡れてたから家まで送っていくつもりでさ、ここまで一緒に来たんだ! それなのに急にいなくなっちゃって」

 早口で説明をした進ノ介を前に真人は表情を曇らせていった。少しずつ顔色も悪くなり、何かを言いたそうに口を開くもゆっくりと閉じてを繰り返している。

 慌てる進ノ介だったが、真人の変化に気付くと語尾語気を弱めていった。

「なぁ真人、知らないか?」

 藁にも縋る思いで真人を見つめると、静かに、しかし悲しそうな声色で言葉が返ってきた。それは想像し難く、今までの行動を無に帰すものだった。

「知ってるも何も、お前がここまで一緒に歩いてきたっていうその子は俺たちの親友だよ」

「真人、お前何言ってるんだよ? だって、さっきの子はまだ小学生だぞ? 俺らに小学生の親友なんて……」

「進ノ介が覚えてないのは仕方がないことだ。全部話してやるから、一度傘に入ろう」

 進ノ介を諭すように落ち着いた口調で傘を促した真人は後方に落ちていたビニール傘を拾い上げた。中に溜まっていた雨水を振り落とし差し直したがその間も表情は暗い。進ノ介自身も傘を差し直すが、少年に確かに手渡していたつもりでいたビニール袋の感触が虚しい。

 互いに傘に入った後、真人は深呼吸をすると静かに口を開いた。

「お前が会ったっていう少年は、俺らとは同級生で名前を東条拓斗。毎日日が落ちるまで公園でサッカーをしていた……親友だ。だがある日のことだった。その日もいつも通り放課後、公園に集合をしてサッカーをするつもりでいたんだけどな」

 記憶の海から少年に関する情報を引き上げようにも大きな波に攫われて、進ノ介は手を伸ばすことすらできやしない。真人が慎重に言葉を選びながらも説明をするが、進ノ介はまた首を傾げてしまう。

「今日みたいに急に雨が降り出したんだ。当時はスマホも何もなかったし、携帯だって当時の小学生が持ってるはずもないだろう? だから、雨が降った段階で今日のサッカーは中止、って認識をした俺とお前は公園には行かずにいたんだが、拓斗は違った。あいつはすぐに雨が止むと思ったのか公園に行ってたんだ。そして一人、雨が降る公園で俺らが来るのを待っていたそうだ」

 ――雨の中の公園で? 

 進ノ介は同じ状況で少年と出会ったことを思い出し、指先が冷えていくのを感じた。真人がまだ何かを言いたそうにしているのを察し、続きを待つ。

「拓斗は公園で俺らが来るのを待っていたけど、いつまで経っても止まない雨と、やってこない俺たちに絶望して公園から出たんだろう。そしてこの踏切まで歩いたらしい。だが雨に当たり過ぎた拓斗の体は冷え、警報機の音に意識が向かなくなってしまうほどで……遮断機が下り始めていることに気付かず踏切に進入、電車の急ブレーキも間に合わず……そのまま」

 語尾を濁した真人を前に進ノ介は深く俯いた。そのまま『電車に轢かれて亡くなった』のだろう、そう感じ取った進ノ介だったが、小学生時代の記憶とはどうしても結びつかない。

 今まで昔からの親友だと認識していた人物はこの場にいる曽我部真人だけだ。いくら記憶の海から探し出そうとも、一向に少年とともに遊んでいたという事実を引っ張り上げることができずにいた。

「そんな子、俺、知らねーよ?」

「だから言ったろう? お前が覚えてないのは仕方がないって」

「どうしてだ? 説明してくれよ! 真人が言ってくれたことが本当だとしたら、どうして俺は覚えていないんだ?」

 頭を抱えた進ノ介に対して真人は言葉を続ける。

「それはお前が目の前でアイツが轢かれた瞬間を見て、ショックのあまり記憶を失っていたんだ。俺も拓斗が死んじまったことはショックだったし、お前が拓斗に関する記憶を失ったのも悲しかった。けど、俺らがあの日……雨の中でも公園に行っていれば事故――拓斗の死を防げたんじゃないかと思ったら、正直数か月の間は生きてる心地がしなかったな」

 言い終えた真人は瞳を潤ませていた。

 今まで忘れていた記憶を聞き、進ノ介の脳内はひどく混乱をしていたがふと考えもしたくない疑問が生じる。

「じゃあさ、俺がさっきまで一緒にいた少年……拓斗は一体何なんだ? 本当に昔の拓斗に会ってたのか? それが原因で俺は自殺をしたがってる風に見られてたって? もしかしたら、約束を破った俺たちを恨んで道連れにするつもりだったとか?」

 捲し立てるように真人へと言葉を向ける進ノ介の体が突如として小刻みに震え始めた。例えようのない恐怖と、夢だったのではないかと信じたい現実を直視できずに、脳より先に体が恐怖を感じ取っていた。

「そんなわけないだろ! 拓斗は親友だぞ? 俺らには長く生きていて欲しいと思ってるはずで!」

 真人が大きく肩を落とした進ノ介の両肩を掴み揺さぶった。お互いに恐怖を振り払うように奮い立たせるも、一度震え出した体はそう簡単には止まらない。突如として女性の甲高い悲鳴が踏切前に響き渡るまで、体は震え続けた。

「きゃああ! 子どもが踏切に!」

 今までに聞いたことのないような衝撃の急ブレーキ音と、耳が張り裂けそうなほどの悲鳴。周囲の人間が一点に視線を注ぐ場所、そこは踏切の中。遮断機に背を向けていた進ノ介は勢いよく振り返るも、何もいない。ただ車両が止まり、人だかりができているだけ。

「血も何も付いてないし、子どもなんていないじゃないか。誰だよ、子どもが踏切にいるなんて言った奴は」

「事故がなくてよかったじゃないの」

「おいおい、これが原因で電車が遅れたらどうするんだよ」

 悲鳴の後、雑踏の中から聞こえてくるのは安堵した息遣いとコンクリートを踏みしめる足音。口々に言葉を漏らす人だかりの人数は徐々に減り、電車が止まっている線路内が進ノ介の目に留まった。

 しかしそこには明らかに先程までともに歩いていた少年、拓斗が立っている。

 驚きのあまり息を飲んだ進ノ介は視線を泳がせると再び真人と向き合った。真人も拓斗の姿に気が付いたのか瞬きを繰り返し息を止めている。

 どのくらいの時間浅い呼吸を繰り返していたかは分からない。次に口を開いた時には口早に真人へと言葉を投げかけた。

「なぁ、お前にも見えただろ? 俺は拓斗と一緒にここまで歩いて来たんだ!」

「そんなわけないだろ? あいつは、昔この場所で死んだんだよ! 正直こんなことは言いたかないし、信じてなんかないけど、ほぼ俺らにしか見えてないことのは幽霊ってことだろ? だったらほら、日頃の仕事で疲れて幻覚が見えてただけだ。事故当日と同じような状況だったから」

 恐怖を拭いきれない進ノ介を前に、真人は気のせいだったと言わんばかりに自分の瞳が捉えたものの正体を頑なに否定し続ける。

 その瞬間今まで感じたことのない分類の恐怖を感じた進ノ介に、追い打ちをかけるかの如く突如として脳内に拓斗の声が響き渡った。

『やくそく、ぼくはわすれてないからね』

 恐怖を感じさせないはずの優しい穏やかな声色だったが、進ノ介の顔からは血の気が引いていた。真人も同様の声を聞いたのか、蚊の鳴くような声で「うそ、だろ」と漏らすばかりだ。

「やっぱり俺らは拓斗に怨まれてるんだよ! どうすればいいんだ、どうしたら殺されずに済む!?⁉」

 気が動転した進ノ介は真人の肩を大きく揺さぶった。現実離れしすぎている迫り来る恐怖に苛まれ顔が歪んでいようが関係はない。周囲から冷ややかな視線を浴びようがこれっぽっちも気にかけず、喚く。

「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! そうだ、あいつが勝手に死んだだけじゃないか! 普通雨が降り出したら直ぐに帰るだろ! それなのに、ぎりぎり、ぎりぎりまで粘って俺らを怨んでるだ!?⁉ んなもん勝手すぎるだろ! 何より昔の約束なんて覚えてるわけないんだよ! 拓斗もさっさと忘れて成仏してくれよ!」

「進ノ介! こんなところで騒ぐな! やめてくれ!」

 恐怖で傘を捨て置いた二人を、勢いを増した冷雨が濡らし尽くすまでそう時間はかからなかった。


* * * * *


 進ノ介と思わぬ再会を果たしてから数二日後、真人は騒々しく寝室に響き渡るアラームの音で飛び起きた。強雨に体を打たれたものの体調を崩すことはなく、進ノ介とともに事故以来初めて拓斗のお墓参りへと向かうに行く約束を交わしていたのだ。

 今日がその約束の日だった。

 アラームを止めた真人はクローゼットから服を取り出すと、洗面所へ急いだ。幸か不幸か瞬時に眠気は飛んだが目元にはくまが広がり、一人絶叫をする。

「夜中遅くまでゲームをし過ぎちまったせいだあ!」

 遅刻をしてしまう懸念があり動悸が走るが洗顔を済ませると、着替えを始める。

 その間はテレビを付けるどころかスマートフォンを操作する余裕すらなく、身なりを整えると素早く短い廊下を全力疾走し、玄関へと向かった。そして靴を履き扉を開くも、空にはどんよりとした雲が広がっていた。まるで進ノ介と再会をした日の天候そのものだった。慌てていたせいか全くと言っていいほど外の音を聞いていなかった真人は呆然とした。

 降りしきる雨と空を覆う厚い雲。身を震わせるほどのえもいわれぬ恐怖がその先に待っているような感覚だった。

「イヤな天気だな」

 足を止めた真人は傘を取りに一度扉を閉めた。すると廊下の先、リビングから僅かに音が聞こえてくる。

「テレビなんて、付けてなかったよな?」

 微かに耳を掠める女性の声を止めるべく靴を脱ぎ、リビングへと向かう間、真人は自分が取った行動を思い返す。

 起床後、気を休めることなくひたすら準備を急ぎスマートフォンを確認する余裕すらなかったのだ。テレビのリモコンを手にする時間もなく玄関に駆け、今に至る。ならば何故テレビの電源が入っているのか。

『今朝の運行情報です。現在関外線は馬出駅付近の踏切で発生した人身事故の影響により遅延が発生しております』

 リビングに到着するとやはりテレビがかかり、女性アナウンサーが朝のニュースを淡々と伝えている。しかし真人は聞き逃さなかった。

「馬出駅の踏切?」 

 聞き馴染みのある駅名に真人はテレビの前で立ち尽くしてしまったが、あることに気が付いた瞬間背筋が寒くなるのを感じ、瞬く間にフローリングへと尻餅をついてしまう。

 痛みよりも驚きが勝り歯切れ悪く言葉を並べる。

「拓斗が、事故に、遭った、駅だ」

 まるで見えない何かに首を締められているかのような恐怖だった。震えが止まらず呼吸は浅くなり、不安だけで意識が遠退いてしまいそうだ。だが、このまま意識を手放すわけにはいかない。万に一つの可能性が残されている。 

 それは進ノ介の『もしかしたら、約束を破った俺たちを恨んで道連れにするつもりだったのか?』だ。

 道連れ? ――あるはずがない。なにより拓斗はあの日、あの場所で死んでしまった。幽霊などいるはずがない。考え過ぎだ。

 何度もそう自分に言い聞かせた真人だったが震えを必死に押さえ込み、尻ポケットからスマートフォンを取り出すとおそるおそる進ノ介に電話を繋げる。普段であればどんなに長い呼び出し音であっても時間が惜しいとは感じずにいた真人だったが、今回ばかりは気が気でなくなりそうだった。

「早く出てくれ、頼む!」

 そうスマートフォンに怒鳴りつけるも一向に繋がらない。一秒一秒が実に長く、体中の穴と呼ばれる穴全てからどっと冷や汗が吹き出している。

 がちゃ、数秒か数分か――実際は十秒程度――が経った時、コール音が止まった。

「進ノ介! お前、今どこにいる!?⁉」

 真人は声を大きくし尋ねたが何も返答がなく無音の状態が続く。繰り返し名前を呼ぶも一切の反応がない。

「何か言ってくれよ。なあ進ノ介!」

 体の震えが止まらないまま、真人は進ノ介を呼びながらもスマートフォンを強く握り締めた。想像し難い事態に直面し冷静さを保ってはいられない。テレビから流れ出るアナウンサーの声さえもが遠退いてしまうほど、スマートフォンにのみ耳を傾けていたが戦慄が走った。突如として激しい電車の走行音が鼓膜を振動させたのだ。

 今までに聞いたことのない大きく荒々しい音に真人は恐怖した。まるでその場に自分自身がいるかのような生々しい音にあわやスマートフォンが手から滑り落ちかける。

 寸前のところでスマートフォンを握り直した真人だったが、慣れ親しんだと思われる男の苦しむ声に耳を疑った。

「……ああっ、ゃ、だ、死、に……たく、ね、よ……た、くとお……!」

 走行音の合間に入っている声に真人は激しく問いかけた。

「しん、の、すけ? なあ、しんのすけ! お前、どうしたっていうんだよ!」

 相変わらず返答はない。まるでスマートフォンの向こう側の世界だけが切り取られているかのように、一方的に送られてくる音だけの情報が真人をより深い恐怖へと誘う。

 進ノ介は延々と拓斗へ救いを求め続けている。そこに拓斗が存在しているかのように、手を伸ばした先で拓斗が笑っているかのように。薄ら笑いを浮かべる少年の声も同時に聞こえてくる。

「まさとくんも、そこにいるんだよね?」

 走り続ける電車の走行音をよそにハッキリとした少年の声が入ってきた。遊びへと誘うかのような楽しげな声に真人は固唾を飲んだ呑んだ。それ以降、進ノ介の声が聞こえてくることはない。

 少しおいてテレビではアナウンサーが新たにニュースを伝えていた。

『只今新たな情報が入ってきました。馬出市の踏切で男性が電車と接触をしたとのことです。そのことからこのため関外線は遅延から運休へと変わりました上下線とも運転を見合わせています』

 思わぬ報道に静止した真人の前で、突如としてテレビの電源が落とされた。しかしリモコンを手にしていないにも拘わらず生じた不具合に戸惑っている暇もなく、一瞬にして再び電源が入る。

「どういうこと、なんだ? さっきの電話といい、このテレビは一体――」

 瞬きをする余裕さえないほどに画面から視線を外せなかった。

 新たにテレビが起動した時に画面に映し出されたのは、正体の辺別がつかないほどに頬の肉が四散し、眼球があるべき場所には黒い穴が広がり、顎先の骨が露になった人間の姿だった。

 間もなくして画面が再び暗転し、けたけたと笑う子供の声が響き渡ったかと思えば画面が点滅し、痛ましい人間が映る。

その間もが目がちかちかと激しく点滅するのを繰り返し、既に死んでいると思われるソレの口元が徐々に大きく映し出されていく。

 その度に僅かに唇が震え声にならない空気だけが漏れていた。だが何かを発したそうに震える唇に視線が向き、声なき言葉を聴き漏らすまいと真人はゆっくり立ち上がり、テレビ前に設置しているソファーへと歩きながら凝視してしまう。

「……ぁ…ま……に、…げ……?」

 唇の動きに合わせて言葉を漏らした真人だったが、息を吐ききった時、柔らかい少年の声が木霊した。

「やっとこっちに来てくれたよ……あとはきみだけだね」

 不可解なテレビ画面の点滅は止まったものの、真人の中の恐怖は大きく膨れ上がっていた。――少年は明らかに自分を狙っている。

 脳に十分な酸素が行き渡らないほどの浅い呼吸を繰り返しながら、強く握りしめたままだった通話の切れたスマートフォンを片手に真人は頭を働かせた。

 この場から逃げ出してしまいたい恐怖と、現実とは受け入れ難い状況にひどく混乱しているが、たった一つだけ確かなものがあった。

 背筋を伝う冷や汗と顔面から吹き出る異様なほどの脂汗を拭う真似もできないほど、体が言う事を聞かない。それどころか得体も知れない何かが自分を付け狙う鋭い視線を感じ、真人は小さく悲鳴を漏らした。

 いつの間にか右肩から首筋へと鋭利な冷たい空気が漂い、両肩に重みが加わると同時に鼓膜が揺れた。 

『ぼくのこと、わかる? まさとくん』

 あの日までともにいた少年の呼び名。忘れることのなかった存在。事故に遭うまでは親友だった少年の懐かしき声に真人は意識を奪われる。

『いつもさんにんであそんでたよね。いっしょにあそびたくてむかえにきちゃった。やくそく、おぼえてるよね?』

 鼓膜を越え直接脳内に響き渡る声に、真人の体は近くにあったソファーへと倒れ込み震え出した。両目を見開きあんぐりと口を開くと、体内へと何かが侵入したかのように、左胸が二度三度と大きく跳ね上がるも、静かに立ち上がった真人は体を引き摺り歩き家を出たのだった。

 そして翌日、カーテンを閉じきった暗がりの真人の自宅のテレビではあるニュースが報道された。

『続いてのニュースです。男性が遮断機のおりた踏切に飛び込むという事故が発生しました。この踏切では先日昨日も事故が起こったばかりですが、警察は因果関係は事件性がないことから自殺として処理をするようです』

 報道後そこでテレビはプツりと切れ、ソファーに投げ出されたスマートフォンに着信があった。雨音混じりに嬉々として声を震わせる少年の声とボールが弾む音。

『これからはさんにんでなかよくあそべるね。ぼく、うれしいよ、しんのすけくん、まさとくん』

 一旦ブラックアウトしたスマートフォンの画面には笑顔を浮かべる三人の少年の姿が映し出されていた。


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