第47話 猛獣vsリコス

アサシンと元魔王のスピードは、ほぼ互角。

迫りくる二人になすすべはなく俺は捕まってしまった。

上半身に食らいついたピューマこと元魔王は本領を発揮しすさまじい腕力で押さえ避けられる。その力はさすがは魔王たる貫禄で熱気をおも感じずにはいられない。

下半身にはヒョウことポーラが食らいついた。

小柄な少女なのに抑え込む力が強いのではなく、筋力が一番出にくい場所を抑えているのであろう。アサシンとしての能力を無駄なところで発揮してやがる。

完全に逃げ場を失ったリコスは、二匹の獣に化した二人に食われてしまうのか。

フリソスは邪魔な衣服を食い千切るとそこに現れたのは、戦士として鍛えられた肉体美が露になった。

腕枕にしたい肉筋のいい上腕三角筋、大きく包み込んでくれそうな大胸筋、見事に六つに割れた腹直筋。

ポーラの方は苦戦しているかと思いきや、すでにズボンを下ろし切っていた幾戦の戦いで地足で踏ん張った大腿四頭筋はすでに、撫でるに愛おしい度にパンパンになっている。長指伸筋やヒラメ筋も見事なものであった。

二人に残されたはぎ取るべき衣服は、残すはパンツのみ。

だが黄金の衣服には目もくれず、卓越した筋肉を楽しむことで頭がいっぱいになっている。


「ゴホンッ」


この咳払いによって二人の行動が止まった。

出元はフリソスの腹心であるエクリクスィの物であった。


「魔王様、獣の様に衣服をはぎ取るなど、言語道断です」

「えー、だって見てよ、触ってよこの筋肉。 すごくない」

「元魔王であるフリソス様のおっしゃる通りです。並みの戦士よりもたくましいこのお体は触っ


ているだけで、頬ずりしてしまいます」


「小娘は黙っておれ!」

「はいー!!」


エクリクスィはイライラを隠すことなく淡々と話し始める。


「魔王様ともあろうお方が、早朝より宿屋の屋根を吹き飛し、闇の術をお使いになるかと思えば、小娘と一緒にリコス様へ野獣のごとく食らいつくなど前代未聞であります!」

「えー、そんなに怒らなくてもさぁ、減るものじゃなくて、もしかしたら増えちゃうかもしれないでしょ」

「いったい何を増やすというのですか!!」

「それはもう決まってるじゃないの、エクリクスィおばさんとか言って小さな我が子がたちが、駆け寄ってくるんだよ。 その姿はほほえましいじゃんか」

「魔王様!!!! いったい何をお考えなんですか!!」

「いけずー」


俺にぺたんとまたがり、人差し指で大胸筋を撫でまわしながらすねるフリソス。相変わらず関節技を決めるポーラは唖然としている。


「魔王様が廃業を宣言してからして二〇〇年間、我々は腹心達はどんな思いで復興を待ち望んでいるのかお分かりですか!」

「いやね、それはさわかるんだよ。 別に後回しにしようとは考えてないからね」

「だったらこの体たらくは何ですの?」

「いやさ成り行きつてゆうかさ、モノのつまり私だっていい年頃だし……、初めてのことだしさ……」


パジャマ姿のエクリクスィは両手に腰を当てて、フリソスに近づくと

デコピンをした。


「痛っ」

「罰です」

「魔王に向かって?」

「そうです」


頬膨らませ腕組みをして魔王であるフリソスを一括する。

反抗するそこには、魔王第一の腹心としての誇りもあるのだろう。


「リコス様こそシャキッとなさってくださいまし」

「痛っ」

「この失態への罰です」


エクリクスィは、俺にもデコピンを食らわせてきた。


「魔王様をお守りするのも、今のあなたの仕事でしょう」

「すまない」


俺は謝ることとしか、エクリクスィには出来なかった。

実際に彼女のゆうことは本当だからだ。


「あのさ、フリソスとポーラちょっといいか」

「なによ」

「いい加減、俺の上から降りてくれないかな」


俺の上でペタンコス割をしている二人であった。


「やーよもう少しこうしていたーい」

「フリソス様ずるーい私も一緒に味わいたいです」

「だ・か・ら、何べん言ったらわかるのですか、二人ともやめなさーい!!」


エクリクスィの声は早朝の街へとこだまする。


「いったい何ごとですか?」


そこへ早朝のごたごたを聞いてリーファが入ってきた。


「ちょっと四人とも早朝から何をしているんですか?」

「リーファ、これにはわけがあってだな……」

「あっ、屋根が無くなっているじゃないですか」

「最初に突っ込むのはそっちかーい!」


俺は唖然としながらも、この状況がよくなることを願うばかりである。

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勇者は負けたので、魔王は廃業した。とさ 水瀬真奈美 @marietanyoiko

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