第46話 熟れた果実
「……私……そういうエッチな経験なくて……できれば死ぬ前には好きな方にしてもらえたらと思って……」
──刹那。
俺の背後で鋭い勢いで何かが迫る。
「痛ったー、なぜ俺に尻に蹴りを入れてくるんだよ」
フリソスの尻蹴りまともに食らい地面にしゃがみ込む。
その後もフリソスは不機嫌な顔でポーラに近づこうとするが、先ほどシーンを見るとぞくっとしたのか、そそくさと移動し俺の背中にしがみついてくる。
「ポーラ、大丈夫だ。俺が何とか守って見せるから」
「私も、微力ながら助太刀いたします」
そういうとパワーイング・ダガーを装備した。防御に特化したダガーなのでサポートに回るつもりらしい。
「お前、いつの間に手に着けた縄が解けているんだ」
「こう見えてもアサシンなので、あのぐらいの縄なら五秒で解けます」
「さっきまで捕まっていたのは演技だったのかよ」
「はい、もしかしたらリコスさんと、合体できたらと思いまして」
「嫁入り前の子が合体とか言うんじゃありません!」
「リコスさんなら、お嫁にしてくれると信じているので、そこは大丈夫です」
満面の笑みで語る、八重歯がチャームポイントなアサシンの美少女ポーラ。
だがしかしお嫁さんごっこの前に、現実問題として真っ赤に目を燃やしたフリソスがいる。
手には漆黒の刃をいつの間にか装備している。
魔法剣というやつだろう、魔法を操り剣の状態に維持する高位術と聞く。魔法工学と魔法物理学を巧みに操れるものだけが使えるという。
漆黒の刃は黒よりもより黒く、周りの物が空間の歪みによって湾曲して見える。
多分一撃で骨も残らず消されるだろう。
勝てる方法はないのか?
「今、その女、なんて言った?」
「リコスさんと、けっ結婚したいです!!!!」
「よく言ったわね。屍の無い体にしてやろうか」
その時、柱の陰から現れたのは、魔王の腹心である炎属性のエクリクスィであった。肩まである赤い髪の色をしており、さっきまで就寝していたのかパジャマ姿である。
「魔王様いかがなられましたか? このような危ない術を使用するからには重要な敵ですか」
「安心しろエクリクスィはそこに控えておれ、私がすべてを終わらせる」
フリソスの目は完全逝っており、腹心ですから恐れをなしている様子だ。
「お言葉ではございますが、魔王様そのような高位術でなくても十分かと思われます」
「そうかなぁ、蟻と戦うときにも本気をとも言うでしよ」
「ですが、相手はリコス様に小娘が一人。何用でこちらを使用なさるのですか?」
「……はて、なぜでしょうか」
「ご乱心はお沈めくだされ、お仕置にしては度が過ぎます」
「そうねたしかにそうね。 私としたことが我を忘れていたわ」
フリソスは術を解いた。漆黒の刃は姿を消し、湾曲し歪んでいた周りは元に戻った。
そしてゆらゆらと近くの椅子に座る。
「お気を確かに。 高位術のため消耗なさっております」
「大丈夫よこれくらい。 二十時間はこれで戦えるわ」
そう言うとフリソスは立ち上がり、漆黒の刃を出すわけでもなくふらふらとこちらに近づき、一瞬のうちにポーラの背後へと回ると頭上にチョップを食らわせた。
「痛いですぅ」
「今日はそれぐらいにしておいてあげるけど、リコスとはやり遂げなければならないことがあるの」
「何をですか?」
「この国の国家再建よ。 だから結婚とかそういう話は後にして頂戴」
「では交尾は認めてくださいますか? 痛い」
再びフリソスのチョップが、ポーラの後頭部を直撃する。
「そういうのもダメ。 自分の体を大切になさい。 ほいほい体を許してはダメ」
「ではどうしろと?」
「相手が欲しがるまで待つのよ。 それもよだれを垂らしてほしくてたまらなくなるまで待たせるのよ」
「先生、私がもう既にその状態です」
「もうしょうがないわね。 そうしたらね食べちゃえばいいのよ」
フリソスとポーラのギラついた目線がこちらに向けられた。
「熟れすぎた果実は食べごろなうちに、食してもらわないとね」
「そうですね。 おねぇさま」
その淫様な目つきは、獲物を捕らえたヒョウやピューマの様だ。
気を許せばダッシュで飛びついてきそうな予感すら感じる。
さてとどう逃げるかと後ろにあとづさりした瞬間ベッドに足を取られ寝転んでしまう。
ベッドに寝転んだその瞬間をピューマとヒョウは、見逃さなかった。
すかさず飛び込んでくる。その速さは敵を一掃するかの如く。
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