第43話 逮捕しちゃうぞ
翌朝、俺は二時間ばかり眠りにつくことができたが、常人とは違い戦場ではよくあることだ。
慣れているとはいえ、酒が少し残っている状態は辛い。
しかし二人ともよく寝ている。
一人はフリソスで、完全に泥酔して寝てしまったのだ。そのためなのか、寝相が若干悪いのが気になる。魔王らしく堂々としているが、そこは乙女なんだしきれいな寝方ってものがあるだろうに。
もう一人は、忍びの美少女ポーラである。自衛団北支部の支部長夫人に化けていたり、俺達の後をコソコソと付け回していたのは彼女だ。俺に眠り薬を盛ろうとして自滅した……であっていたよな。
すーびーと寝息を立ててベッドの端で寝ている。中心で寝ないのは恐らく忍びの習性だろう。
いつ何時襲われても回避し反撃に出るためだろうと予測している。俺はショートソードを抜くと素早くポーラの首に剣を振り下ろす。がしかし、ポーラは起きようとしない。完全に薬が効いているようだ。眉毛一つすら微動だにしない。
まさか俺が切らないことを知っていてか!?
いや、完全にポーラは落ちている。その証拠によだれまで出ている。そこまで恥ずかしくて演技はできまい。
俺はショートソードを収めると、ポーラの布団をそっとはぎ取る。
現れたのは胸元が開いた上半身に、肉付きの少ない太ももである。
俺は生唾を飲み込んだ。なにせこれからすることを考えたら、彼女が少々かわいそうに思えてしまったからだ。
いやいや、待て。彼女は敵なんだぞ。何をためらう必要があるんだ。
俺は壁に掛けてあった縄を取ると彼女の両手を起こさないようにそっと後ろに引っ張ろうとするが、横の体制で寝ているため右手が後ろに回しずらい。
腰を上せて右手を後ろにしようとするが、難しい。
刹那。後ろからのものすごい殺気を感じて彼女を放すと、ショートソードに手を伸ばす。
だが、後ろの魔法攻撃の方が早い。
そんなバカな。物理攻撃よりも魔法攻撃の方が早いだと……俺はそこで気づく。理屈の通らない魔法攻撃を仕掛けられるのはただ一人。
「レイ……」
「たんま!!」
「問答無用! レイ・ブランド!!」
黄金色に展開された魔法陣がベッドの周りを包み込むと、
──ちゅどーーん!!
俺を含めてポーラが寝ているベッドが宙高く吹き飛んだ。宿屋の三階を含め、屋根も吹き飛ばす。
静かな町の早朝に爆音が鳴り響く。
吹き飛んだベッドが元の位置に戻るが、ポーラは何事もなかったかのように爆睡している。
相当強い睡眠薬なんだな。
「俺を吹き飛ばして楽しかったか」
「すっきりした。それで何していたのかな?」
「今さら聞くことか! ポーラを起こさないように手を縛っておこうと思ったんだよ!」
「それを早く行ってよ♪ 勘違いしちゃったじゃないの」
「言ったさ! 聞いてくれなかったのは誰だよ」
ばつの悪そうなフリソスはロープを探してこちらによこしてきた。
縛れってことだろ、わかってますよ、縛りますよ。ポーラを縛りましたよ。
「あっ……」
ポーラを縛り上げた後で意識が戻り始めた。
「あっ、私に何をする!」
「おい、気づくの今さらかよ。吹き飛ばされた時点で起きろよ」
「なに吹き飛ばされた!?」
「ほら、上に穴が開いてるだろ」
俺は上を指して大穴の開いた早朝の空を指した。
「まぁいい。この縄をほどけば許してやる」
「この状況で、どうして縄をほどしてやらなきゃならんのだ」
状況としてはこうだ。俺とフリソスがポーラを囲み、ポーラは後ろ手で縛られていて、天井には大穴が開いていて、今日の天候は雲の無い晴天だということだ。
この状況下でポーラはこれからどう騒ぐのかだ。
「……すみません。悪ふざけをしすぎました」
「ほぉ、悪ふざけか」
「そうなんです。昨日のは悪ふざけでして、リコスさんいい体していたので、子孫繁栄。子作りには適しているかと……」
「リコス、消し炭にしてやろうか」
「いや待て待て、聞き出したいとことは山ほどあるんだから、許してやろうよね」
ポーラは目を丸くして、フリソスに向いてコクリコクリと首を振る。
「だとよ」
「そうね。聞きたいことはあるわけだし、穏便にしてあげてもいいわ」
ポーラは強い目つきで、きりりと言い出した。
「お願いがございます。リコスさん私の胸から封筒を取り出してはもらえませんか?」
この期に及んで何を言うのかと思うフリソスとリコスの二人であった。
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