第40話 南支部の視察だ。とさ
南エリアの自衛団事務所までたどり着いた。
何処の支部よりも立派なつくりでびっくりするほどだ。
西支部なんてほぼ民家だったことを考えたら、立派な四課建てのビルディングってやつですね。さすが貿易で栄えている都市だけのことはある。
早速お出迎えしてくれたのは、南支部長のライザーさん。
細身で団員服を除けば身に着けている物は、どれも高そうなものばかり。支部によってこれだけの格差があるのだ。
当然南支部は、追加援助や団員補充もいらないほど潤っている。
「魔王様がここにおいでになるのは、東支部を視察された後と伺っておりましたが、何かございましたでしょうか」
「いえ、これといっては無いのだが、東の現状が芳しくないと聞くが、南でも何か良くない話を聞いてな、予定を変更して参ったまでだ」
「ほほぉ、南支部で良くない話が出回っているとは、私めは聞いておりませんぞ。何かの間違いでは?」
「だといいな」
ライザーは苦笑い、フリソスは営業ニッコリスマイルで答えた。
これは一雨降りそうだ。
「早速だが、港での検閲を視察したいのだがいいかい?」
「それは明日になさってははいかがでしょうか。何分散らかっておりますし、それより長旅でお疲れでしょう。お宿を手配いたします」
「散らかっているなら猶更だ。私も手伝おうか」
「滅相もございません。魔王様の手を煩わせるだなんて、今の魔王様は我が国の国家元首なのです。お手を使うなんてことがありましたら、ライザーはお役御免になります! 何卒、ご容赦のほどを」
またしてもライザーは苦笑い、フリソスは営業ニッコリスマイルで答えた。
おいおい埒が明かんな、俺が出るか。
「ライザーさん、我々は視察だけでいいのですが、お邪魔をするつもりはありませんので、見せてはもらえませんか?」
「しかし、野蛮な連中もおりますゆえ、明日はそういった連中には暇を出して、魔王様に見ていただきたく存じます」
中々折れないな、はやり何か妖しいぞ。
「その必要はありません。ありのままでいいのです。普段の検閲風景でなければ、こちらとて視察になりません」
「……困りましたね」
あと一押しってところか。
「それとも、我々に見られては困るものでもありますか?」
「そっそれは……ございません」
もう押し切る。
「ならば、さっそく視察させてもらいます」
「……はい」
よし押し切った。
ライザーさんは少々困り顔ではあるが、慌てふためく感じではない。ただ単に彼の言っていることが正しいのかもしれないが、実際に見てみればわかるさ。
ライザーさんの案内の下、検閲所のある港まで来た。
着いた港では大型の外国船団が停泊しており、自衛団によってまさに検閲が行われている瞬間だった。
積み荷にご禁制類が無いかどうか、あて先がマークしている元国王派ではないかなど入念にチェックされている。ここでは犬も使用して、検閲作業にあたらせていた。
犬は人間よりも鼻が利くから、ご禁制類の探索にはピッタリな存在だ。
ただ、最近はご禁制の類は元々持ち込みが少ないらしい。特にフリソスが統治してからは激減したとのことだ。さすがに元魔王が統治するとなった国へ、喧嘩を売るような真似をしたらどうなるのかを考えれば、少なくともそういった連中はこの国と関わりたくなくなるな。
検閲自体特に怪しい点はない。むしろどこの検問所よりも厳しく取り締まられている。
「いかがでしょうか。我々の検閲は、他国にも引けを取らないほどに、厳しい体制を整えております」
「たしかに、他よりも厳しい体制で挑まれていると見受けられる」
「その通りです。わが国で唯一の貿易港ですから、ここは軽々突破されるわけにはいきませんからね」
ライザーさんは鼻高らかに答える。
「ついでに押収品の倉庫も見学できますか?」
「えぇ、もちろん構いませんよ。さぁこちらにございます」
サイザーさんは、我々が機嫌を損ねていないかを気にしていたらしい。
港に隣接してある倉庫地帯に有刺鉄線と物々しいフェンスで囲われた倉庫があった。
自衛団の押収品倉庫である。
腐るものを除いて一時的にこの倉庫で管理しているとのことだ。ほとんどが武器や弾薬の類だとのこと。
自衛団の武器庫とも呼べる場所でもある。
早速倉庫の中に入ることにした。そこで目にしたのは二人組の男が何か箱を運び出そうとしているところであった。
「お前達、ここで何をしている!?」
「こっ、これはライザーさん、ただの倉庫の整理ですよ」
「わしはそんなものを頼んだ覚えはないがな」
「あれっ? そうでしたか。おかしいな、整理をしておくようにとのことでしたが……」
「押収品は番号をつけて管理しておるし、整理も必要ないだろう」
サイザーさんは押収品番号を確認しようと、箱の周りを凝視しした。
「それにお前たちが運び出そうとしている物は何だ」
その木箱は押収品番号など書かれている様子はなかった。
「見たところ押収品ではないではないか。どういうことだ」
ばつが悪そうにしている男達を今度は凝視していると
「それにお前たちは誰だ。自衛団の人間ではないな!」
「バレちゃ仕方がねえ。ずらかるぜ」
男達は木箱を放棄すると一目散に逃げようと出口へと向かった。
そこにフェリスは冷静に弓矢をと出すと、男達の服を射抜き壁に刺さる。
「今度はどこを射抜いてほしい?」
唇に手を当ててフェリスは微笑む。
まぁ、とりあえず妖しい人物二名を捕まえた。
ライザーさんを中心に取り調べが行われた。
「仲間は何人居るんだ」
「…………」
「知らないとは言わせないぞ」
ナイフを取り出すとライザーさんは男の喉元にあてた。さすがは自衛団の南支部を取りまとめるだけのことはある。結構ハードボイルドな方なんだな。
「まっ待ってくれ! 俺らは知らないんだ」
「女だ。女に雇われただけ」
「旧王政派のメンバーじゃないのかね」
「頼む信じてくれ、俺らはそんなもんのメンバーじゃない。北部の人間なんだが、仕事が無くて金が欲しくてやったんだ」
「そうだ、こいつの言う通りだ。女が荷物を運ぶ仕事をすれば、金を貰える約束なんだよ」
やはり女が登場した。恐らく嘘はついてなさそうだし、その女の心当たりがある。俺達は彼らが運び出そうとしていた木箱を開いてみることにした。
多分セバスチャンが言っていたキメラの製造にかかわる装置だろう。木箱を開けると、珍しいガラス製の水槽が入っていた。
キメラを作るためには、各パーツを特殊な液体に浸した水槽に入れ、魔法陣で書かれた装置に上で行うとのことだ。だとしたらこの水槽はキメラを作る装置の一つだろう。セバスチャンの言うことは本当であった。
「この水槽は何なんだ……なんなんでしょうかこれは?」
「恐らくキメラを作るための装置の一つでしょうね」
「キメラですか、確か……世界的に禁じられてますよね。違法な品物じゃないですか。これは!」
サイザーさんは驚きを口にしていた。何も知らないのなら無理もない。
旧王政派は何をするつもりなのだろうか。そして彼らに依頼をした女性はポーラに間違いないと思う。
ライザーさんは指示を出し、自衛団員が水槽や呪術に使う道具の捜索も追加したところ、押収品倉庫からも出るわ出るわ、高価なガラス製水槽や呪術品の数々。
「ライザーさん、押収品倉庫からも、多数の押収品番号の無い品物が出て来るとなると」
「内部にも旧王政派が紛れ込んでいるってことですね」
「恐らくは……」
苦虫をかむ思いのライザーさんに、俺は言いたくないが言わざる負えなかった。だがそれは彼も承知の上だろう。
「この責任はわしがとります。わしの管理不足から来たことです」
「進退について問うつもりはない。次に起こさなければいいいだけのことだろ」
フリソスは彼が辞めようとしていると悟り、それ以上言わないようにした。フリソスらしい優しさだ。
「魔王様がおっしゃるのであれば、それに従うまで、ありがたき幸せ」
深々とお辞儀をするライザーさんであったが、彼がこれから戦うのは自分の仲間だと思っていた人物達だ。相当な重荷になるが、彼ならやり遂げられるだろうと俺は思う。
俺達は今夜の宿に向かった。もうクタクタだ。
ライザーさんは団員の身辺調査に追われているので、幸い祝賀行事は延期となった。俺達は国中を無休で回っていたので、今日は休息が欲しかった。宿屋の食堂で食べていて元気なのはフェリス率いる商人軍団ぐらいである。
「フェリス、元気ですね」
「あれ、リコスはこれぐらいでお疲れですか?」
「ちょっとな、色々考えて疲れた」
「これぐらいで疲れちゃまだまだですよ。旅は道連れ、世は情けというじゃないですか」
「合っているような、間違っているような……」
複雑な思いの中で、俺はシチューをパンですくうと、口に含みながら商人魂のタフさを実感した。
明日の朝には身辺調査の結果が出るころだ。俺はシチューを食べ終えると、だれよりも先に部屋に入ることにした。恐らくはある女を待たせているたらでもある。
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