第39話 南の路地裏で

俺はすぐに鞄をフリソスへ放り投げると、ロマノフ夫人と語る人物の元へと駆け寄っていった。

女性も俺が駆けだしたのと同時に路地へと入る。

だが女性の方が早い! 俺が路地に入ったときにはすでに次の路地を曲がっていたところだった。狭い路地をクネクネと移動する女性を俺は必死で追いかけた。


「待て待ってくれ、話がしたい」


俺の一言は届いていたのか知らないが、進スピードは増すばかりだ。

角を曲がると、女性の姿はいなくなっていた。


「くそっ、逃げられたか」


俺は十字路の真ん中まで来たが、どの先にも女性の姿はなかった。

すると背後から聞き覚えのある声をかけられた。


「あたいをさがしているのかしら?」

「あぁ、そうだ。話がしたい」


俺は振り向かずに答えた。彼女からは微々たるものだが殺気を感じたからだ。不用意な動きは命取りになると感じ動かずにいる。


「なにを話す? ロマノフのことかい」

「いいや彼には夫人は居ないそうだ」

「私もタイプじゃないのよ彼は。むしろあなたの方が好みだわ」

「それは光栄だね。好みといわれたからには、安心して振り向いてもいいかな」

「いいわよ」


俺はゆっくりと彼女の方に振り向いた。

先ほどの白い服とは真反対に、黒ずくめの衣装に顔を半分布で覆っている。昔に東方の国に忍びを仕事にする黒ずくめ集団の話を聞いたことがあるな。恐らく彼女もその真似事だろうか。


「どうかしら、似合う?」


お道化てポーズを決める女性。


「なんてお呼びしたらいいのかな」

「そうね、ポーラって言って頂戴」

「ならポーラ、君の正体は何だ?」


俺が知りたいのはそこだ。彼女はなぜ捕まっていたフリをしていたのか。そして、なぜ仲間を裏切ったのか。


「ごめんなさいね。それは依頼人から言ってはならないことになっているのよ」

「依頼人? 誰かに雇われて君は動いているんだね」

「まぁそんなところよ。質問タイムはそろそろおしまいね。あなたの仲間がこちらに向かっているわ」

「依頼人とは誰だ? 旧王政派のメンバーか?」

「残念タイムアップ。それじゃ、また会いましょう。できればまた二人二人っきりがいいなぁ」


そう言うと二階まである瞬時に飛び上がって行ってしまった。本当に忍びの者なのかもしれないな

「リコス! どこに居るの?」

「俺はここだ!」

「居た居た! 突然人に荷物投げて駆け出すんだもの何があったのよ」

「いや、すまなかった。人違いだったようだ。何でもない」

「美少女でも転がっていたのかよ。このこの」


俺は彼女が飛んで行った二階をもう一度見上げたが、暗い夜空が広がっているだけだった。

そのあとは、元の宿に戻ろうとしたのだが、路地をどう来たのか誰も確認しないできたものだから、迷いながら帰ったとさ。


夕食では当然俺の奇行として、話が膨らみ元カノ説まで飛び出してきたものだ。

まったく女子という生き物は、この手の話がやたら好きだな。今夜もフリソスだけでなくリーファやフェリスからも、管を巻かれる状態となったのは言うまでもない。


昨晩は何とか切り抜けて、自室で寝ることができた。やっぱり椅子で寝るのは辛いわ。ベッドで寝るのが一番だね。

いつものメンバーと朝食を平らげると、早速出発することにした。

南支部の自衛団がある港までは、あと数時間ほどで到着する。そこで待ち構えている自衛団は味方なのかそれとも!?

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