第38話 東は止めて、進路を南へ!

「リコスさん、起きてください! リコスさん」

「ん? ここはどこだ?」

「一階の食堂ですよ。もう朝食の時間ですよ」

「ほえ!?」


あたりを見回すと、リーファをはじめ、起こしてくれたフェリスのほか、エルフの商人たちが朝食を食べている。

テーブルの向かいの席ではフリソスが、酒瓶を持ったまま寝ていた。

しまった。あの後、フリソスに管を巻かれて、そのまま飲み潰れてしまったらしい。


「朝食、どうしますか?」

「とりあえずいただくよ。痛っ」


変な体制で寝ていたから、体が微妙に痛い。フリソスを起こさねばな。


「おい、フリソス。朝だぞ。起きろ」


肩を揺らしてフリソスを起こしにかかる。


「もう……リコスのバカ」


何を寝ぼけているのか知らないが起こさねばな。


「おい、俺をバカ呼ばわりするのは構わんが、そろそろ起きろ」

「リコスの女ったらし……結局ロリコンなわけ……」


フリソスの寝言の一言一言で、周りの視線がなぜか痛い、痛い。


「寝ぼけてないで起きろ」


肩を揺さぶって本気で起こしにかかる。


「ほえ、ほえ!? ココはどこ」

「朝食会場だ。寝ぼけてないで食べたら出発だぞ」

「うーーん、あーー、言われてみればお腹すいたかも、おばちゃん朝食一セット頂戴!」


ぐーーんと背伸びをすると、お腹が鳴ったのか朝食をせがむフリソス。魔王様は今日も元気だ。

朝食を食べ終えた俺達は、旅を続けることにし、最北の町『ブラッドフォクド』を後にした。


「なぁ、南に行くでいいのかよ」

「リコス、異論は無しよ」

「セバスチャンに踊らされるのは好きじゃないな」

「そりゃ好き好んで、踊られるるのは嫌よ。だけど、ステップをしっかり踏まないと、奈落の底に突き落とされるんじゃないと思うのよね」

「奈落ってお前、セバスチャンにやられるとか思ってないだろうな」

「下克上って線もあると思わない?」

「まさかお前、魔族のおさを辞めたがっているんじゃないだろうな」

「えー、そんなことないんですけど……」


おどけて見せるが、どうしても演技にしか見えない。長いこと魔族をまとめてきて、疲れているんじゃないだろうか。だから魔王の座からも降りたわけだし。

とは言え、今度は人間の国の国家元首になっているわけだし、よくわからんなぁ。フリソスはどうしたいんだ。

馬車は東から南へ行くルートへと進めていた。

その道中もリーファの容赦なく書類束を渡されて、不機嫌ながらも目を通してはサインをしていくフリソスを俺は眺めるしかできなかった。

セバスチャンのこともそうだが、魔族のことはおろか、そのおさでるフリソスのこともなにもわかっていないのは俺だ。

成り行きで彼女たちについているが、一兵卒程度の俺をどうしてここまでしてくれるのだろうか。

だが、いまさら聞くのもなぁ。

馬車はカラカラと音を立てながら走っていく。

この音と揺れ具合といい、昨日の酒盛りであまり寝ていないのでつい居眠りをしてまった。


はて、どれぐらい進んだのだろうか。外はすでに暗闇に覆われていた。フリソスもリーファも眠っている。

御者に現在位置を尋ねると、南エリアの端の町まであと少しとのことだ。

今夜はそこに宿を取り、明日の朝に南エリアを取り仕切る自衛団の本拠地まで行くとする。

そこは、この国での数少ない貿易拠点であり、比較的裕福なエリアに属していると聞く。

町に入ると、確かにどこのエリアよりも裕福な感覚がある。

何処の町よりも街路灯があり、煌々と光輝いていたし、町に活気がある。

さすがは数少ない貿易エリアであるな。


「やっと着いたのね。人間の旅は好きなんだけど、馬車に乗っているだけだと疲れちゃうのよね」

「なぁ、思ったんだけどさ、フリソスの空間を渡る技ってやつをさ使えば、一瞬で着けるんじゃないか」

「はぁ!? リコスは何年人間やっているの? 旅情ってのを分かってないわね」

「この子は人間の生活に憧れがあるのよ」

「ちょっとリーファ、何を言っているのよ。憧れなんてもんじゃないわ! 成り切っているのよ」

「人間なんて、儚いじゃないのよ。生まれてから死んでいくまですごく短い。だけどその短い中で輝いて生きているなぁって思ってるんだ」

「やっぱぱりおまえ……」

「だからって、魔族のおさは辞めたいなんて思ってないからね。これは私にしかできないことだから、ほかには任せられない」

「セバスチャンにもか」

「当り前じゃないの! あんな弱っちいやつに任せたら、血みどろの内乱が起こるわ!!」

「その通りよ。あの大戦を生きたものなら、まずフリソスに喧嘩を売ろうなんて、誰も思わないもの」

「んまぁ、そんなところかしら。着いたみたいだよ今夜の宿に」


馬車が止まり、扉をリーファが開けるとみんな閉鎖された空間から飛び出した。


「やっと着きましたの、うーーん疲れた。シャワーとかあるのかしら」

「リコス。今日も飲むからね」

「勘弁してくれよ」


俺は鞄を馬車から降ろしながら今日も朝までコースは、勘弁してほしいと思うのであった。

ふと、誰かに見られている視線を背後から感じ、そっと後ろを見た。


そこに居たのは、ロマノフ夫人を名乗っていた女性だった。

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