第37話 東へ、南へ。
最北の町『ブラッドフォクド』を解放することに成功した。自衛団にも負傷者が出たものの幸い死者は旧王政派メンバーのみとなった。
誰か生きていれば吐かせることもできたのに、デーモンと化した大将によって全員命を落としてしまった。
「あなた無事だったのね」
「スフィアなんだね、よかったよかった」
「パパ、会いたかったよ。怪我しちゃったの」
「ニイナ、大丈夫だよ。たいしたキズじゃないさ。これでまた一緒に暮らせるな」
離れ離れになっていた家族の再会である。感動的な場面だ。泣けてくるが、隣のフリソスはご機嫌斜めなようだ。
「もうちょっと力を使えたらな……」
「なぁ、フリソス。聞いてもいいか?」
「んっ!? なに」
「お前の力は完全に使えないのには、どんな理由があるんだ。そこんところ話してもらってないと思ってさ」
フリソスの顔は血の気が引いたように完全に青ざめていた。
「へぇっ!? 何ですって、力が使えないのは事実だけど……そうだけど……これだけは聞かないで! 言いたくないの!」
何かに怯える様にフラフラになっていた。魔王であるフリソスを青ざめさせるほどのことが、起きるんだということは分かった。これ以上追及するの精神的に良くないのでやめておこう。
「今日は大変ありがとうございました。もう夜になりますので大したおもてなしはできませんが、宴を設けたいと考えておりますゆえ、魔王様にも参加してはいただけませんか?」
ロマノフはそういい自衛団の備品庫を今夜は開放するとした。
塩漬けされた魚の燻製カルパッチョに、肉の角煮やチーズなどが盛大にテーブルに並べられ、葡萄酒がみんなにふるまわれた。
俺は葡萄酒を飲みつつ、今回の件を振り返っていた。
北部の自衛団は人員不足が露見になったことで、人材の補給も同時に行うことにする。商人の護衛と共に来た部隊をそのまま北エリアに駐留させることで、人員確保をするほか、首都の自衛団との人材共有をすることで、今回のような事件を素早く察知できるようにしてみるつもりだ。
とりあえずはこんなところかな、あとは商店が開店すれば情報がもっとよく回るだろう。
さてと、セバスチャンの言う通りに動くのは気が引けるな。
これではやつの手の中で踊っているようなものだ。気に食わん。
それはフリソスも同じ意見の様子だ。
魔族の
宴も終わり俺達は昨日も泊まった宿屋に到着した。
部屋も前回と同じである、酔っているフリソスを部屋に届けてから、俺は自室に入った。
そこには薄暗い月明かりの中に座る一人の男が居た。
ニコニコ顔のセバスチャンだ。
「こんばんわ」
「おい、ココは俺の部屋だ。間違えてないか」
「いいえ」
首を振りここであっていることを主張する。
「お前の
「もちろんです。今日はあなたに会いに来ましたので」
俺はあることを察してしまった。
「お前、もしかしてそういう趣味していたのか! すまんが俺は受け入れられない……」
真顔に戻ると真剣にこちらを見て来る。本気か!?
「大丈夫ですよ。最初は優しくしますので……」
すると上の階からドカドカと大きな足音がして、階段を下りて来る。
「ちょっとセバスチャン! 来ているのは分かっているんだからね!!」
「あら、もうバレちゃいましたか。もう少しでリコスさんを押し倒せると思ったのに、残念」
「そんな冗談がこの私に通じるわけないでしょ!」
「バレましたか」
「俺は真剣にセバスチャンのことを考えてしまったじゃないか!」
フリソスから頭をバシッとミニハリセンで突っ込まれた。
「リコス、そんなことよりも、今は聞かなきゃいけないことがあるでしょ」
「何のために、東に誘導したのか? のことですかね」
「そうよ、結果としてわかりやすい連中だったから、よかったものの、下手をしていたらここは国王軍に支配されていたかもしれないのよ!」
椅子に座っていたセバスチャンは、立ち上がると
「もちろん気づいてくれるとわかっていたから、東に向かわせたのです。それにあのまま滞在していたら捕まっていた女性や子供たちは、どうなっていたでしょうか。解放させるためにはそれが手っ取り早かったのです」
「ならば、捕まっている女性やこともが居るからって報告だけすればいいでしょうが、まどろっこしい!!」
「直接言ったら、すぐにでも乗り込んでいたでしょ。……謎解きがあった方がそれに面白いですし」
俺は特大ハリセンで殴ろうとしているフリソスを両腕を掴んで止めている。
その隙にセバスチャンは窓際に移動した。
「今度は南に向かってほしいのです」
「がるるるるるる! ……今度はどうして南なのさ。東では何が行われているの? あなたは知っているんでしょ」
「東ではある実験が行われています。それを止めるためには、南の港からの密輸品のルートをつぶす必要があります」
「実験? それってもしかして、キメラのことね」
「そうですね。もしくはそれ以上の……」
俺が油断したのをみて、話の途中でまたもや卍固めをして、セバスチャンをガッチリと固定する。
「痛いですってば、止めてくださいよ」
「昼のこともあるんだからね。よくも私から逃げたわね!」
「ギブです。ギブ!」
「なら一つだけ聞くわ。私はあなたに踊らされるつもりなんだけど、南と東で何をしてほしいわけ」
「それはさっきお話しした通りです。他にはありませんから、信じてください」
「フリソス、嘘は言ってないんじゃないか開放してやれってば」
俺の一言で、とりあえずは開放されたセバスチャン。実は俺も聞きたいことがあったりするので恩を売ってみた。
「ところでさ、俺からも聞いいていいか?」
「んーーー今は止めておきましょうか」
いつものニコニコ顔から真面目な顔に戻る。
「あなたの聞きたいことは確信をついていそうなので、今はひ・み・つとだけ言っておきます」
「そうか」
「ですがこれだけは言っておきます。親愛なる魔王様をお守りできるのはあなただけです。必ず守ってください」
そう言うと柱の陰から空間を渡って行ってしまった。
フリソスを守れるのは俺だけ? どういうことだろうか。
「ちょっとリコス、飲み直しよ。ちょっとだけ付き合いなさい」
腕を掴まれると、一階の食堂へと降りて飲み直しに付き合うことになった。
フリソスの愚痴を聞きつつ酒を注いでやった。
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