第36話 監禁からの奇襲だ。とさ

俺は扉のノブを回したがカギがかかっていて開かない。


「ダメだカギがないと開かない」

「何をしているのですか。私がやります」


リーファはリコスに変わってノブを回す。


──バキッン!


金属が壊れる音がした。リーファは何食わぬ顔でこちらを見て

「ほら開いたわよ」

って言っている。さすにドゴンの怪力に驚く俺。


「怪力で開けないでくださいよ」

「やだなぁ、ちょっと力を入れただけのことだけどなぁ」


恥ずかしそうにリーファは答えるが、これだけノブが原型を留めない位でちょっとって、すさまじいパワーだ。

ドアをそっと開けると、部屋の光がすーと外に漏れだす。

中をのぞくと、部屋の奥に数十人の女性や子供たちが、静かに床に座っていた。彼女達が俺達を見ると怯えているのがわかる。

ここは冷静に静かに対応しなくては。


「皆さんを助けに来ました。魔王とその部下です」

「……魔王様なんですか?」


一人がそう叫んだ。涙をいっぱいに溜めて。

先ほどまで静かだった部屋の中は騒めきだした。


「私たちは助かるのですか」

「主人は無事でしょうか」

「パパはどこに居るの」


質問の嵐の到来だ。だが一人ひとり対応していては埒が明かない。まずはこの場を離れることが先決か。


「皆さんを助けるために、お願いが三つあります。いいですか」


先ほどまでのざわめきが一瞬で静寂に変わり、一斉に頷く。みんな助かりたい気持ちでいっぱいのようだ。


「まずは騒がず静かにしていてください。敵にバレてしまいます。それから皆さんと一緒にここから逃げます。最後にあなた方を監禁した人物を教えてください」


リーファは外に寝ている男たちを室内に移動させてきた。


「この坊やはどうする」

「柱に縛り付けておきましょう。少し時間が稼げます」


リーファとフリソスは男達に猿轡さるぐつわを巻、ロープで柱に体を固定した。

よし逃げる準備が整った。まずは、安全な場所に移動することだ。この数十人を一斉にどうやって移動させるかだ。いい方法がないものか。


「あるわよ」


フリソスは腕組みをして自信ありげに答えた。

すると何もない空間に空手チョップをすると、水滴を垂らした水面の様に波紋が広がると、空間がゆがみだした。

そこに手で漆黒の虚無の空間を広げた。魔族が使う空間を渡る方法だろう。セバスチャンは素早くこれをして、いつも逃げて行ってたな。


「フリソス、人間でもこの魔族の空間に耐えられるのか?」

「もちのろんよ。大丈夫大丈夫、丁寧に作ったから入ったらすぐに出口よ」

「なら、まずは俺が試してもいいか? 念のため安全か確かめたい」

「遠慮なさらずに、どうぞどうぞ」


俺は恐る恐る何もない空間に空いた虚無の穴に飛び込んだ。

するとそこは見たことある風景だった。馬車を止めているエルフの森だ。

すぐに元の監禁場所に戻ると


「この先は安全な場所でした。まずは子供から行きます」


小さい子らから順番に空間を渡っていく、次に女性だ。

次々に空間を渡るとエルフの森では、人間の子供たちや女性が次々にあらわれて、どよめきが沸き立つ。

最後にリーファとフリソスが来て虚無の空間は閉じられた。


「さぁ、これで安心してください。あとは町に残った敵を打ち取ります!!」

「ではお願いをした三つ目を話してはもらえませんか」

「では私から、夫は自衛団北支部の支部長をしているロマノフの妻です」

「あなたがですか」


それはとても美人で、大柄な彼と比べると、失礼ながら美女と野獣の様だ。


「はい。夫達は私たちが捕まると、危害を加えない代わりに、俺達の言うことを聞けと迫ってきました。それで夫は仕方なく……」

「よくわかりました」

「あの私たちを監禁した者たちは、元国王派の人々です。メンバーには証である白いスカーフを腕に着けています」


確かにさっき片づけた二人にも白いスカーフを腕に着けていたな。


「みなさん安心してください。町を取り戻すとともに、皆さんの家族も無事に救出して見せます!」


黄色い歓声とともに俺とフリソスとリーファはエルフの森を後にした。

森を出ると早速、丘の上に居る監視役にフリソスは攻撃呪文をぶっ放す。


「派手にやったな、これで町にも警報が流れただろう」

「いいんじゃないの片っ端からやっつけてやるわよ」

「それじゃ、俺も用意しておきますか」

「私もドラゴンに戻っていいかしら」

「それは止めてください! 町が壊滅しますので……」


シュンとするリーファであったが、仕方あるまい。町まで壊されたら再建までに余計時間がかかってしまうし、関係ない人たちも犠牲にしかねる。

街道を歩いていると、低級デーモンが数体現れた。


「おいでなすったようだぜ」

「ごそっと出てきたから、召喚士も居るのかな」

「これぐらい敵ではないですわ」


俺は先頭の下級デーモンを切り刻んだ。

フリソスは、黄色い魔法陣を展開すると槍の様なものを下級デーモンめがけて突き刺した。

リーファは赤い魔法陣を展開すると、「ファイヤブレス」で数匹を業火の炎で焼き尽くした。

アッという間に殲滅し、街道は物静かになった。


「ご挨拶にしては少ないわね」


リーファは不満そうにつぶやいたが、これだけで終わるはずもないだろう。

ブラッドフォクドの町の入口に着くと、まってましたとばかりに、白いスカーフを撒いた旧王政派が待ち構えていた。


「よくデーモンをやっつけてここまでこれたもんだな」

「あのさぁ、私魔王だからね。下級デーモンぐらいで、足止めにでもなると思っていたわけ」

「…………魔王?」


頭悪そうな白いスカーフの大将はそういった。


「ぶっははははは。魔王がこんなところに来るわけないだろうが! それよりお嬢ちゃんたちかわいいね、早く逃げないと俺達と遊んでもらうことになるぞ! ひっひひひひ」


心底下品な大将である。


「困ったものだ。どうしようか」

「吹き飛ばしちゃう?」

「いや腹立ってきたから俺が行く」


旧王政派の大将はイライラしだして、こちらに向かってくる。


「ごちゃごちゃうるさいな、まずは男から処分して、お姉ちゃんたちをいただくまでよ」


大将から黒い魔法陣が展開され始めた。


「闇より来たりし死の番人、わが声に答え存在を表せ! 召喚デーモン!!」


この大将こそが召喚士だったのか。


「ひっははははは。驚いたか、怖いだろう。デーモンの力を……」


俺はデーモンの出現と共に動いた。飛び上がると剣でデーモンの頭を軽く吹き飛ばした。

真っ黒な血が噴き出しデーモンは沈黙した。


「いっ一体やったからなんだ。もっと出せるぞ! 召喚デーモン」


馬鹿の一つ覚えなのか召喚されるのは下級デーモンばかりである。

フリソスは指を「パチン」と鳴らすと、デーモンは闇から闇へと帰って行った。


「なぜだ、デーモンが召喚されない!?」


大将は慌てふためく。


「下級デーモンじゃ、魔王は倒せないって言ったじゃないの?」

「まさか、お前が魔王か! ただの役人じゃなかったのか? くそー騙された」

「おとなしく降参するなら、これ以上血を流さなくて済むけど、どうするのかなぁ」


大将はひざまずいた。これで終わりかと思ったがそうではなかった。


「こうなったら最後のひと暴れだぜ!」


黒い魔法陣が展開されると、大将を飲み込み、下級デーモンと化した大将が現れた。


「これでもう俺にかなうまい!」


大将はキメラとは違い自分自身にデーモンを召喚して、自分がデーモンになってしまったのである。


「なんてことを」


デーモンは周りの部下を腕で吹き飛ばし始めた。


「もう駄目よ。完全に体も心もデーモンに支配されているわ! みんな逃げて」


その声も空しく大将の部下は軒並み倒されていった。


「仕方ないわね。イグノランス」


黄色い魔王人を展開すると力ある言葉と共に金色の槍が出現し、デーモンと化した大将めがけて飛んで行った。槍のがデーモンに突き刺さる。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁー」


断末魔をあげるデーモン。突き刺さった槍の傷口からは大量の黒い血が噴き出していった。

動かなくなったデーモンはチリのようにぽろぽろと崩れると消えて行った。

そこにはデーモンも大将の姿もなかった。

生き残った旧王政派のメンバーは、自衛団によって一人残らず捕まえられていった。

またしてもデーモンの出現。といいセバスチャンの登場といい。どういうことか。

なにか裏があるのかと思うと、今度こそ旧王政派と対決するしかなさそうだと俺は感じた。


「魔王様。ありがとうございます」


「こうして人質に取られておりましたとは故、私は何たる失態を犯してしまったのだ。私目を解任ください」

「その必要はありませんよ。部下や奥さんの身を案じることは誰でもすることです。今回の件は不問とします。不服ですか?」


ロマノフが不思議な顔をしていたので少し気になってしまった。


「あの魔王様。私は独身なので妻はおりませんが……」

「えっ、あの美人な奥さんはいませんでしたか!?」

「失礼ながら、団長は独身であります」


部下からも独身だと言われてしまった。


「じゃあ、あの妻は偽物ってこと」

「して、やられましたね」

「大将が裏切られたとは、例の彼女のことだったのかもしれませんね」

「今からエルフの森に行くか」

「リコス無駄よ。もうとっくに逃げているわ。いいじゃないの旧王制派になにか特別な何かがあることは間違いなさそうね」


そういうと遠くを夕闇の空を眺めた。

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