第33話 北部の最前線を視察だ。とさ

我々は国の最前線となっている北部を訪れている。

国の北部は主に山岳地帯となっており、平地も少ないことから町や村はとても少ない。

昔は山岳ガイドをする民もいたが、今では山岳エリア全体を元国王の肉塊が、占拠している状態だ。

元々、肉塊の別荘があったらしいので、そこを拠点として活動しているらしい。

それに北部には、肉塊とのつながりがある国と接していることも、拠点に選んだ理由であろう。

唯一救いなのは、肉塊の拠点になる別荘は、隣国を経由しなくては行けない点だ。なぜこんな高く険しい場所に別荘なんて作るかね。

煙とバカは高い所が好きと聞くが、それが理由かもね。

それはそうとわざわざ最前線に来たのは、自衛団の指揮を高めるのと、補給物資の必要性が高いに他ならない。

最前線の町である『ブラッドフォクド』にたどり着いた。俺にとっては久々の町である。勇者として旅をしていた時にここを通過して王都へ行った。

その時には無かった砦を築き、遠眼鏡を使用して、肉塊の城を監視している。

住人のほとんどは専属の自衛団と、それを支援する住民が主だった町に変貌を遂げた。観光客が気軽に来る場所ではない。

そのほか隣国との街道には関所を設けて検閲をしている。主に肉塊の武器や食料品などを押収している。肉塊は色々な方法で抜け荷をしているからだ。

町に着くと北支部長である、ロマノフさん直々に支部へ案内してもらった。

彼は体格が熊の様にデカいが、気が大きい方ではない。どちらかというと小さいのではないかなと思わせる節がある。

倉庫の様な殺風景な部屋に通された。ここには会議室のような場所はないらしい。外の風が防げるだけでもありがたい。


「それで困りごとなどはありませんか?」

「困りごとか……そうだな、奇怪な生物を山で見かけることがあるのだが、あれは何だろうか」

「奇怪な生物ですか?」

「そうなんだ。人でもなければ熊でもない。鹿とも言えない謎の生物なんだ」


俺はフリソスにだけ聞こえる声でしゃべった。

「あれは例のキメラでしょうね」

「恐らくは……」


「その他にも支援物資などは必要ではないですか?」

「支援物資はありがたいが、意外とこと足りていたりするんだ」

「それはどうしてです」


ロマノフさんは倉庫の押収品の一部を見せながら語ってくれた。


「押収品は武器だけではない、こういった食料品も対象だからだ。捨てるわけにもいかず頂いているわけだ」

「もし毒が入っていたらどうするんですか!」

「あっははははは、そん時は死ぬだけだ」

「笑い事ではありませんよ」

「すまんすまん。押収した際には、毒物検査もしているさ。もし毒入りなら、そのままパスしている品もある。連中も泡吹いてることだろうよ。それに東支部に武器と交換で食料品やらを仕入れていてな。それである程度は足りているって感じだ」


ロマノフさんは謝りながら片づけていくさなか、そういえばと、申し訳なさそうに話し出した。


「ただ、商人の方が来てくれるのはうれしいね。最前線ってこともあってか、普通の商人達が寄り付かなくてな。店舗は空き家状態なんだ」

「それなら私にお任せください。必要な品物を言ってくだされば、すぐにでもご用意します!」


フェリスさんは胸を張って答えた。


「そいつは助かる、塩漬けとか燻製品などしか押収できないからな、新鮮な野菜や果物など中心に置いてもらえると皆助かる」

「では早速、手配しますね」

「では、商人の方へ空き家の店舗にご案内する」

「分かりました。私たちは先に宿屋に行ってますね」


ロマノフさんフェリスさんの二人は、空き店舗の見学に出た。それを切っ掛けに解散となり俺達は宿屋向かい、フリソスの部屋に集まっていた。


「さてと北支部はどう思う」

「ロマノフって人は特に怪しい所はなさそうだが」

「東支部とも連携して、肉塊をけん制しているみたいだし、いいんじゃない」

「強いて言えば、彼の気の良い人を利用して、部下に妖しいのが紛れ込んでいるみたいね」

「それは俺も同感です。検問所で一部武器や食料品が肉塊に渡されていると思います」

「明日は検問所の視察ですが、どうしするの? 検挙しちゃうの」

「泳がせた方がよくないかな、も完成していないしさ」

「一網打尽にしないと、摘んでもキノコの様に湧いて出て来るわよね」

「キノコってそんなにわっと出てきましたっけ」

「物の例えよ。本気にしないで頂戴」

「あとセバスチャンですけど、出てきませんね」

「うん、アレ以降ぱったりと 姿を見せないわ」


あの夜以降彼は姿だけではなく、気配すら出していない。ここでもキメラが関連していれば彼も何らかの動きがあると思ったんだけど……。


「そうだ。山に出で来るキメラだけど討伐する必要がありそうね」

「だけどここの山は深いですよ」

「それにはこの町の元山岳ガイドが居るじゃないの?」

「ですが実害が出ていない以上、首を突っ込むのはどうかと……」


「それは僕も同感ですね」


「はやり……って、あんた誰!?」

「うわぁ、いつの間に!」


俺は瞬時に剣を抜いた。

部屋には、俺とフリソスとリーファさんの三人しかいなかったのだが、もう一人いつの間にか増えていた。


「あなた、セバスチャンね」

「ご名答です。あの時はご挨拶まででしたので、今回は助言をできればと思いまして、参上いたしました。リコスさん、剣をお納めください。戦う気はありません」


年のころなら二〇代そこそこの好青年といったところだろうか。格好は黒いマントをした剣士といった感じだ。ニコニコ顔のセバスチャンは、淡々と語っていく。俺は剣をそっと収めた。


「なぜ、山のキメラを放置するの?」

「それはあれらはまだ実験的に生成されたものだから、放置されているだけだからです。戦わなくてもこちらに実害はありませんからね」


さっきまでのニコニコ顔だった彼は、目を見開き本題を話し始めた。


「むしろ、地方巡業をきちんと終わらせていただく方が、よいかと思いましてね」

「ふーん、それで早くこの街を後にしてほしい理由でもあるのかしら」

「東エリアが大変なのはご存じだと思います」

「旧王政派が居るからよね」

「その旧王政派には、王の命令でキメラを使用して攻勢をかけようとしているからです。早く止めに入らなければ、甚大な被害が出るばかりか、東エリアは壊滅するでしょう」

「なんですって!」


知らない事実を突きつけられた我々は、つい立ち上がってしまった。


「あんたはどうしてそんな情報を持っているのよ」


フリソスはセバスチャンの胸倉を掴むと、左右に揺らしては問い詰める。


「それはあれですよ。業務上のひ・み・つです」


「はぁ、秘密ですって! そんなので世の中がまかり通るわけないでしょうが!」

「フリソス、止めてあげないさい。どうせ話す気なんてないわよ」

「リーファさん、ご察し頂きありがとうございます」


フリソスは、セバスチャンをつき放すと、腕組みをして納得いかない様子だ。


「あなた魔族よね。おさである私に隠し事なんて、できるとでも思っているのかしら?」

「おっしゃる通りおさであるフリソス様に嘘はつけませんが、秘密を持つのは自由では?」

「……それもそうね」

「ご理解賜り光栄にございます」


そういうとセバスチャンは闇の中に消えて行った。


「行っちゃいましたね。なんか台風みたいなやつだな」

「そうね。恐らく台風の目の中にやつは居る。だから今回の東の旧王政派の動きを察知出来ていたのでしょうし」


フリソスは部屋の中をちょこまかと動きながら、考えに没頭している。


「その台風の目は信用できるのかしら、私たちをここから離れさせたいだけなのかも」

「かと言っても話が本当であれば、ローレル湖の様なキメラが暴れまわると大変なことになるのは事実だぜ。なフリソス」

「…………」


考え事をしていて、こっちの声が届いていないのかもしれない。

まぁ、いいか俺が取りまとめて解散とするか。


「とりあえず今日のところは解散をして、明日の検問所視察をして問題が無ければ、情報通りに動いてみるか。餌を撒いている以上、何かしら仕掛けているのは確かだしな」


俺達はフリソスの部屋を出たが、出る瞬間揉み彼女は何かを考えていた。

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