第32話 魔族についてだ。とさ

「魔族とは……」


俺は次の町へ行く馬車に揺られながら、真剣にフリソスの話を聞いていた。

リーファさんは興味なさそうに外を眺めているが、俺とアルフロッテさんは拝聴そのものであった。


「二人ともそんなにガッツいて聞いても、大したこと言わないわよ、この子」

「あっれー、そんなことないですけど、ちゃんと真面目に話す予定でした。誰かさんが茶々入れるまでは」

「あら、それって私が悪いってことかしら」


またしても険悪ムードな二人。まぁいつもなんだけどね。


「魔族云々んを語っている暇があったら、この書類にサインして頂戴」

「くぅー、こんな時までにも書類の束が……どこから持ってきたのよ」

「フェリスの追加支援物資と一緒に持ち込ませたの。だってあなた移動中は暇でしょ」

「そうだけど、だから、セバスチャンとか言うチャラチャラした魔族についてをみんなに教えてあげようと思っているわけよね」

「そうやってもいいけど、この書類は次の支援物資を運んできた部隊に渡すから、それまでに終わらせてくれればいいのよ」

「それって今やらまきゃ終わらない量じゃないの! がるるるる」


フリソスはリーファさんを威嚇しているが、まるで飼い主と飼い犬の関係みたいだと思ってしまう。


「魔族については私から説明しておくから、あなたは書類に集中してなさい」

「私は元々魔王なのに……ぶつぶつ」


フリソスは書類の束と格闘することになった。


「じゃあ落ち着いたところで始めましょうか。二人とも歴史についてはどのぐらい教養があるのかしら?」

「一四五〇年前に大魔戦争が五〇年ほどあって、魔王軍が勝利し、世界の半分は魔王の配下となった。それから平穏な時代が訪れて、今から二〇〇年前に魔王は突然玉座を降りて放浪の旅に出ることになったぐらいですが」


アルフロッテさんは簡単に歴史をなぞった。


「その認識で問題ないわ。アルフロッテ」

「魔王に仕えていたのは、魔族を中心とする配下の者たちね。キメラに使われたデーモンとかは魔族ではない。その認識も大丈夫かしら」


俺達は頷く。


「では、昨日のセバスチャンだけど……」


突然フリソスが書類の一枚を取り出して割り込んできた。


「リーファ! ここなにこれ、こんな予算知らないわよ!」

「これね……城壁修理の追加清算よ。肉塊の作った城壁は中が空洞になっていた部分があったから、そこを埋めるための追加費になるわ。続けてよろしくて」

「うん納得したから、どうぞ」


フリソスは書類にサインをして次の書類に取り掛かった。魔王の時もこういった書類の束と格闘していたのだろう。それはだんだん嫌になるな、二〇〇年後にも同じことをやるとは思ってもみなかっただろう。


「ええっと、どこまで言ったかしら……」

「セバスチャンのところです」

「そうそうセバスチャンね。彼も魔族の一員になるのだけど、誰に仕えているかは知らないわ。元魔王相手に喧嘩を売るぐらいだから、腹心に近い人物なのは達かね」


俺が思う腹心といえば、あの美人四姉妹しか思い出せない。


「腹心というと前回の美術館オープニングで、来てくださった方たちですか?」

「彼女達姉妹はの魔王直属の腹心になるわ。何年でも忠義を貫いているから、彼女たちの指金ではないわね」

「すると誰が!?」

「恐らくだけど、ジェネラル達の誰かってことね」

「軍部の犯行だと」


馬車は水たまりをピシャリとはねて通過していく。


「これは私の推測にすぎないんだけど、戦争を始めたがっているジェネラルが居たとしたらどうする?」

「戦争!?」

「一四五〇年前の戦争をもう一度、起こしたいと考えている人物が居たとしたらどうする」

「…………!?」

「ストップ! それってリーファの推測だからね」

「ジェネラル達とも、魔王を辞める前に私はよく話したわ。全員納得させるのに四〇年かかったし」


トントンと書類の束を整理しながら、フリソスは話しかけてきた。


「とはいえ、私たちに好戦的な魔族は居ないとは言えないのも事実になったのだから、私としては昨日の事件はショックな出来事よ」


馬車はカラカラと音をさせながら先を進む。


「一応今でも、魔族のおさは私になっているのだもの。その中から離反者が出てきているとしたら困りものね」


そうつぶやくとため息をついた。


「あなたと一緒で、ジェネラルもがあるから、暴挙に出ることはないでしょうけど」


前々から気になっていたが、フリソスや魔族達の制約ってなんだ? 力を自由に使えないらしいがそれはどういうことなのだろうか。使ってしまうと何か起きるのだろうか。


「まもなく次の町に到着です」


御者は言った。


「さぁ、みんな仕事よ仕事。セバスチャンのことは頭の片隅に置いておいて、彼が必要とあればまた現れるでしょうし。それを待つしかないわね」

「それもそうね」


まぁ制約のことはいいか。いずれわかることだろうし、それよりも 今度の町では何が起きるのか楽しみでもある。事件よりも名物料理や景勝地のことがメインだったりするんだけどね。

勘違いしないでくれよ。祝賀行事の費用はこちら負担なんだからな。宿泊費と合わせて滞在費として多めに収めている。

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