第31話 地方巡業を続ける。とさ
さてと、ローレルの町を出た後は平和そのものであった。事件らしい事件も起きず、気が緩むほどにへいよだ。
確かに国の西側は安定しており、若干の貧困はあるものの、少々支援の枠を広げることで、領主及び自警団西支部長との会談も無事に終わった。
その後で祝賀行事に参加することになった。この旅で何度目だろうか。とはいえ民の行為を無下にはできない。慕っている国民からの熱い歓迎を受けているのだから。
ここでもローレル湖の魚が出された。今まで取れなかった魚が手に入るようになったのは、いいことだけど、どの町でもメインはローレル湖の魚である。ちょっと飽き掛けているけど口には出せない。
無事に行事も終わり、俺達は夜遅くに宿屋に戻ることになった。
運河沿いを四人で歩いて帰る途中だ。フリソスとリーファさんなんて、めちゃくちゃ飲んでてうらやましい。いつ魔の手が来るのかわからないため、俺とアルフロッテさんは少しだけいただく程度に収めておいた。フェリスは……まぁ彼女は護衛担当でないから、自由に貿易を楽しんでいるよ。この旅で相当儲かっているらしい。「この旅が終わったら、王宮の近くに豪邸を立てるわよ」って意気込んでいた。
「もう飲めませーん」
「フリソス。しっかりしてくれよ」
「あらフリソスったらもう飲めないの?」
「しょんなことないもんっ! まだまだいけるぞい!」
「それが飲みすぎっていうんだよ。めちゃくちゃ千鳥足じゃないか」
運河に掛かる橋に佇んでいる人影が一人いた。不思議と橋の手すりに立っている。
刹那。ナイフが俺達の床に突き刺ささる。
「二人と下がれ、何やつだ!」
俺は右手で剣を抜くと、酔っている二人を下げさせようと左手で後ろに押した。
──むにゅ
弾力のある四つの感触だけがするばかりで、二人は後ろに下がらない。というよりも動いていない? 動けないのだ!
「彼女たちは動けないよ。封じたからね」
「なに!?」
「魔王である私を封じたですって……あら、面白い。動かないよ。リーファも動かない?」
「私も動けないわ。あなた何者?」
運河の手すりに佇んでいる者は、黒いマントをなびかせると、月光による逆光で顔は拝めなかったが、背格好や声から男であるとわかった。
「これは申し遅れました。セバスチャンとお呼びください」
マントの男は、一礼をする。
「せばすちゃんですって、やっぱり面白い男ね」
「魔王様にそういっていただけるとは光栄ですね」
「あなた……魔族ね」
「ご名答です」
「なんですって!?」
「魔王様に魔族だと思ってもらえなかったら、どうしようかと思いましたが、その心配はなさそうですね」
「フリソス、魔族ってことはお前の配下の者じゃないのか?」
「そうなんだけど、こやつは違う。別の配下の者よ」
「今日はご挨拶に伺っただけなので、これぐらいにしておきましょうか」
──シュッ
地面に突き刺さっていた。ナイフをフリソスは取るとセバスチャンめがけて投げつけた。
セバスチャンはナイフを避けるために橋から落ちて行った。
「待ちなさい!」
「ごきげんよう親愛なる魔王様。それでは」
橋から落ちたかと思うと暗闇に消えて行った。恐らく空間を渡ったのだろう。
「何者なんだ。セバスチャンとは? というか動けていたのかよフリソス」
「あぁ、あれね。影をナイフで固定していただけなの。光をこっそりあてて術を解除しただけよ。あの手の魔法は手品みたいに、種があるのよ。それを消してあげれば解除は魔法が使えなくても誰でも可能よ」
「そういうものなのか」
「今日はセバスチャンの言う通り挨拶だけみたいだから、大丈夫よ。近くにセバスチャンの魔力を感じないし」
「気づいていたのかよ。だったら教えてくれよ」
「教えたら警備が厳しくなって、こうして彼のご挨拶にも来ないでしょ。だから待っていたの」
アルフロッテさんは術の解けたたリーファさんの肩を抱いて介抱していた。
「魔族がかかわっているとなると厄介ですね。リコスさん」
「下級デーモンのキメラといい。魔族のセバスチャンの登場といい。この地方巡業で明らかになってはいけないものがありそうだな」
「そのようね。だけど彼は、この旅を終わらせる気はなさそうね」
確かに挨拶だけといっていた。本来ならこの旅を終わらせるために、脅しに来ても不思議ではない。しかし、脅しに屈服する我々でもないけど、そのことを見越してるいるのであろうか。
「まぁ、考えても仕方ないわよリコス。それより眠いから帰りましょう」
「悠長だな、新たな刺客が現れたっていうのに」
「所詮は魔族。私の敵ではないわ」
ビシッと俺に指をさして宣言する。
まぁ、こいつは魔王だもんな。その配下である魔族が相手となれば勝ち目はある。我々を殺めたいのであれば、影て封じた隙にいくらでも攻撃できる。
それをしないのも何かの゜目的があるに違いない。セバスチャンに踊らされるのは好きではないが、しばらくはダンスの相手をするしかなさそうだ。そんなことがあった国の西側での出来事だ。
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