第30話 キメラを捕まえる。とさ二

魚影はまっすぐこちらに向かってくる。一匹ではない。数十匹といったところだろうか。

フリソスとリーファさんは呪文の詠唱に入り、魔法陣を展開する。

やつらは飛んでくる習性があるから、俺は背中の剣を構え待った。


「来るぞ! 準備はいいか!?」

「いつでも」

「こっちも準備できてるわ」


数十匹のキメラが一斉に飛び上がると、黒い魔法陣を展開しだした。

フリソスは待ち構えていたかのように、さっきよりもはるかに多い光の弓矢を出現させると、キメラめがけて解き放った。

キメラに突き刺さると次々に倒れ甲板に落下してくる。

水面からキメラは出現する数は減らない。


「──イグノランス」


リーファさんの力ある言葉と共に光の槍が生み出されると、キメラたちを串刺し手にしていく。

だがそれだけでは追いつかない。

俺は飛び上がるとキメラをぶった切った。

すると水面から新手も現れた。ぴょんぴょん飛び跳ねるタイプのキメラだ。巨大カエルと下級デーモンの掛け合わせだ。


「ひやぁ、嫌なんだけどカエル」


青ざめた顔のリーファさんは一旦後ろに逃げ出した。


「ここは俺に任せてください。リーファさん飛んでくるやつらを」

「分かったわ。任せた」


俺は素早く死骸の山を越えるとカエルキメラへ飛び掛かった。

カエルキメラは、口を開くとブラックブレスを吐き出した。

このトゥ・ハンド・ソードを試す時が来た。ティナの話では魔剣とのことだ。それならばブラックブレスも切れるのではないか。そう思い剣をふるう。するとブラックブレスとその魔術を吐き出したカエルキメラの口を裂いた。

なんて威力なんだこの剣。魔法も物理的に切れるらしい。カエルキメラ討伐に精を出すことにする。

二人とも飛んでくるキメラを確実に仕留めていく。フリソスは飛び上がると、四方八方に弓矢を飛ばして、一掃しにかかった。

刹那。飛んでいたフリソスはとっさに避けた。


──ズギューン


ブラックブレスが空中に居たキメラを粉砕した。一体だれがブラックブレスを。


「なんだよ、ずいぶんやってくれるじゃねぇか」


水面を見るといかにもデカいキメラが喋っていた。人語を話せるのか。

いやそうではない。話をしているのは魚の口ではなく、右目の部分にはめ込まれた人間の頭である。

頭部は巨大魚、手足はカエル、体は下級デーモンと、見た目もグロテスクな感じに仕上がっている。


「人と喋るなんて久しぶりで、言葉を忘れるところだったぜ」

そう目玉にはめ込まれた頭が喋る。

「お前は何者なのだ」

「俺かい、ただの改造された人間よ。国王の魚を守るためにキメラされちまったまでさ」

「なんてことを……」


あの肉塊は人体実験まで行っていた様だ。奴のことだから彼だけではないんだろうな。

キメラはそ期続き喋る。


「俺を倒しに来た自衛団に聞いたんだが、国王は死んだのか?」

「いや、生きている。この国の実権はもうないがな」

「ひゃはははははは。ざまぁねーぜ! 俺をこんなろくでもない体にしやがって」

「君は国王の犠牲者なんだね」

「なぁ、一つ頼みを聞いてくれないか……」

「内容によるが聞いてやろう」

「俺を殺してくれ。もうすぐ俺の頭の中までデーモンに支配される。人間であるうちに……死にたい」

「分かった。それは俺が相手になろう」


俺は剣を構え前に出た。なんとなくだが視界がぼやけて見える。


「そう来なくっちゃ、もうほとんどデーモン……ぐぁーーーー!」

「リコス。こやつはそう長くない。泣いている暇はないぞ」


俺は泣いていたのに気づかなかった。一筋の涙を流していた。

センチメンタルな気分にしたっている暇はない。彼の思いを無駄にしないように一撃で決める。

魚の口が開くと同時に、黒い魔法陣が展開され始めた。ブラックブレスが放たれようとしている。


「……おまえ逃げろ、こいつのは他のキメラとは……違うぞ」


俺は逃げなかった。この魔剣ならば切れると踏んだ。


──ズギューン


強力なブラックブレスが魚の口から放たれた。

俺は魔剣で受け止めた。受け止めるというよりも魔法を切り裂いているが近い。これならいける。


「てゃーーーー!!」


ブラックブレスを放っている魚の口から、体を真っ二つに切り裂いた。


「……ついにこの日が来た、やっと解き放たれる……」

「一つ聞いてもいいか。お前と同じ境遇のやつは他にも居るのか?」

「いるぜ。気をつけな、俺はまだ弱い方だ」

「そうか。ありがとう」

「さらばだ……」


人魚キメラは静かに目を閉じた。

大漁のキメラを船に乗せて港に戻ると、大歓声で迎えられた。

俺達は苦々しい思いからか、素直に喜べずにいた。町人の手伝いを願い出てキメラたちを墓を掘り埋めることにした。


「ありがとうございます。これで昔の様に漁をして暮らせます。魔王様のおかげです」

「苦しゅうないぞ。皆の衆。困ったことがあったらいつでも相談してくれ、それから今回の活躍は」


フリソスは後ろにいた俺の手を引っ張り前に出した。


「このリコスの活躍のおかげだ」

「おぉ、魔王様バンザイ! リコス様バンザイ!!」


町では祝いの魚祭りが開催されるという。


「俺が前にでなくてもいいだろうが、なんか恥ずかしいよフリソス」

「そういうなって、最後の一撃は君のおかげだからね」


町人総出の祝いの儀式を断るわけにもいかず、参加して明日、ローレルの町を後にすることにした。

いきなり直面した問題、キメラの存在だ。あの肉塊のことだから、この一件とは限らないだろう。彼もそう語っていた。

他にも犠牲者が居るとしたら、早く対処しないと大変なことになる。

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