第29話 キメラを捕まえる。とさ
「ふぁーあ、眠いわね」
早朝より俺達は漁船をチャーターし、釣りをしている。それももちろんキメラを捕獲するためなのだが、一向に釣れる気配がない。時々あたりが来るものの普通の魚が取れるばかりだ。漁師は喜んで釣りを楽しんでいる。
そもそも釣りをする以前に第一、キメラの好物を誰も知らないのだからどうしようもない。
そぁこんなのでキメラを釣り上げることなんてできるのか。
普通の魚を釣り上げては釣り糸を下ろす作業の連続だ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、私達何しているの」
「漁のお手伝いじゃないの」
「違うわ、キメラを捕まえて、安定した漁村に戻すのが私たちの使命よ。忘れないで頂戴」
「でもさぁ、漁師さん大量で喜んでるよ。もういいんじゃないキメラとか」
「フリソス、しっかりしなさい!」
「また釣れましたよ。大量ですね」
「ちがぁぁぁぁぁぁう、リコスあんたも見失わないで、私たちの戦う相手はキメラよ。雑魚ではないわ」
「「おー」」
フリソスと共に俺はリーファさんに拍手を送る。
「にして、捕まえる方法は?」
「だからこうして魚釣りをしているじゃないの?」
「魚釣りなのに釣れるのは魚ばかり……普通なんだけど、作戦にミスがあると思いまーす」
「いきなり大当たりなんて来ないわよ。魚釣りは地道なものよ」
「でもでも、私達ここでずっと魚釣りしているわけにはいかないと思いまーす」
「うぐぅ……そうね」
額に汗をかき、まずそうにしているリーファであるが、本当にそうである。限られた日数で各地を回るのだ。ここで魚釣りに没頭しているわけにもいかないが、キメラを放置するわけにもいかない。
そこで漁師さんから提案があった。
「そんじゃよ、曳き網漁に変えるか?」
リコスからよい子のみんなにもわかるように、超ざっくりと説明しよう。今まで行っていたのは一本釣りと呼ばれる釣り竿を持って一魚ずつ丁寧に取る漁法だ。漁師さんの提案しているのは曳き網漁と言って、大きな網ですくい上げる漁法だ。曳き網漁には底引き網漁や定置網漁などがあるがざっくりなので、船から網を投げてすくい上げると思っていただこう。解説終わり。
「とりゃー」
漁師は網を海面いっぱいに広がるように投げた。俺達もやらせてもらったが、ただ網を投げただけで、きれいに広がらないのである。職人芸だと思う。
漁師さんは網を引っ張ると中にはたくさんの魚が詰まっていた。そりゃもう大喜びだ。
「うひょー今回も大漁だ!」
場所を変えつつ五回目の大漁を引き上げた。
その時であった。海面が静かになったのである。風が止み、白波は収まり。静けさだけがあたり一帯を包み込んでいるかのようだ。
「おいでなすったようだぜ後は頼んだ」
漁師さんは甲板を彼たちが歩きやすいように整理してくれた。
「来たって、キメラのことよね」
「ほかに何があるんですか。来てもらわないと困るのは我々ですよ」
「そうは言ったけど、いざ来るとなるとねぇ」
突如海面からデカい魚影が見えたと思った瞬間、キメラは大きく飛び跳ねた。
「ぐぎゃーーーー」
怪物にも似た雄たけびつを発すると大きな波を立てて湖面を叩きつける。
船はキメラよりも大きいものの、波によって大きく揺れた。
「くそ。あんなデカい奴とどう戦えばいいんだ」
キメラは船の周りをぐるぐると回りながら、船体に体当たりをして、船を揺らしてくる。
フリソスは金色の魔法陣を展開。リーファさんは紫の魔法陣を展開した。
先に動いたのはキメラだ。キメラは大きく飛び上がると黒い魔法陣を展開している。
だがそれよりも早くフリソスの攻撃が出る。光の弓矢がキメラに突き刺さり、悲鳴を上げる。
「びぎゃーーーー」
キメラの詠唱途中だった黒い魔法陣が消えた。
そこに第二破リーファさんの攻撃。
「ポイズンアロー」
紫色をした無数の弓矢がキメラに突き刺ささり悲鳴がこだまする。
「びぎゃーーーー」
甲板に落ちると猛毒を浴びたキメラはピクピクとしている。
「意外とあっけなかったですね」
「人間が作るキメラなんてこんなものでしょ。巨大魚と下級デーモンとの掛け合わせだね」
「なんでこんなものを作ったのかよ」
「あの国王はなにをしたかったんだ」
「なにかいけないことを企んでしたんでしょうね」
俺達はキメラを囲み話し合っていると漁師さんがそっと近づいてきた。
「もう大丈夫か? でもこいつらは一匹じゃねーだ」
「なんですって、まだいるのか」
「あぁ、だから自警団も手出しできなかっただ」
俺達はあたりをきょろきょろ見回した。
すると白波を立ててこっちに迫って来る魚影を発見した。それも複数だ。
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