第四章
第28話 地方巡業に出発する。とさ
街はどことなくお祭りムード一色だ。
これから国を治めている魔王であるフリソスが、国中を回るというから、街中は祝賀行事があちらこちらで行われている。
地方の復興があまりうまくいっていないことは、国中の問題となっていたのは、皆承知の事実であったからだ。そこに魔王自らが出向き手を差し伸べるとあれば、歓迎ムードになるのは必然の流れである。
今回のメイン護衛部隊は、俺にリーファさん、アルフロッテさん、フェリスさんの四名だ。
フィリスさんは意外と武術に長けているそうだ。商人旅団の団長を務めているだけある。
残りのココルやリリィ、ティミィ、ティナについては街で待機となった。
いざとなったときの防衛線を張るとともに、こちらも意外ではあるが仲良し四人組だったりもするので、攻撃の連携もバッチリだったりする。
フリソスは最悪の場合、四姉妹を召喚するからとは言っていたが、彼女たちも個々の仕事があるので、できる限り呼びたくないらしい。フリソスの優しさを感じるな。
保険としてテッラさんのみが王宮に呼ばれた。なんでも小説家は紙とペンさえあれば、どこでも仕事ができるからだそうだ。帰ったらどんな小説を書いているのか聞かなきゃな。
さてと出発だ。馬車には数週間分の荷物を詰め込んで、三台の馬車で出ることになった。
一台目には、フェリスさん率いる商人で部隊が商売道具と共に乗り込んだ。二台目は俺達が乗る馬車だ。三台目は、配給物資を積んでいる。
後追いで、フェリスさんの商人部隊も付いてくるようになっている。商売ができるとあれば、地の果てまで行くのが商人魂だそうだ。
馬車の一行は住人の意向もあって街を一周してから出来ることになった。
「魔王様がんばってください!」
「国中が魔王様を待っています!」
すごい熱狂ぶりだ。それをにこやかな笑顔で手を振って返すフリソス。
街を離れるとフリソスはげっそれと疲れ切っていた。
「ファンサービスのし過ぎね」
「だってさ、ああも応援されるとなると答えてやりたいじゃんか」
「あんたってホント昔からお人よしよね」
「二人とも出会いってどんな感じだったんですか?」
「「最悪よね」」
二人の声が重なった。どんなけ最悪な出会いだったんだろうか。
「リーファったらさ、無実の人を焼き殺そうとしていたんだよ」
「違います。盗賊だかチンピラだか悪い人でした。親子が襲われているのを助けただけです」
「えー、そうだったかしら、親子が盗賊じゃなかったっけ?」
「変なところで争わないでください。二人とも」
「でもさそこは大事なところだよ。はっきりさせないとさ」
「そうです。物事は順序だててきちんとしなくては」
「「リコスはどっちが正しい!?」」
「はいっ? 俺ですか……」
迫る二人にたじろぐ俺。だって二人が出会ったのって七〇年前のことでしょ。俺が知るわけない。
ここは何かに気をそらさないと。ふと、外に助けを求めると湖が見えてきた。
「二人ともそんなことよりも、ほら外を見てくださいよ。湖ですよ。国でも最大の湖であるローレル湖ですよ」
「おっきな水たまりなだけじゃないの」
「リーファそういいつつワクワクしているでしょ」
「そんなことありませんわ。空から飛んでいるときは、大きな水たまり程度にしかすぎませんから」
「ドラゴンって夢もロマンもないのね」
「なんですって、魔王なんて美しいものでも、壊していったではありませんか!」
「なによ形あるもの壊れるっていうじゃないの? 簡単に壊れる方が悪いのよ」
正直、仲がいいのか悪いのか正直わからなくなってきた。
「まぁまぁ二人とも、そろそろ最初の町に到着するころだ」
「一時休戦するか」
「そうですわね。それでよろしくてよ」
馬車一行は、最初のローレル湖畔の町である『ローレル』に到着した。
町長から盛大なお出迎えを受けた我々一行ではあるがなんだか貧しい町だ。
公式ガイドブックによると、ローレル湖で取れる魚が名物とのことだがどうしたものか。
「よくぞおいでくださいました。私が町長です」
孫弱な町長が現れた。身なりはきちんとしているのだが、痩せ細っておりまともな食事にありつけていない様子だ。
「あの町長さん、なにかお困りではありませんか?」
俺は単刀直入に話を切り出した。
「それが、この町はローレル湖で取れる魚がメインな産業でしたが、漁に出たくても出られないのです」
「なにかあったのですか」
「はい。それが以前の国王が放ったキメラが原因でして……」
「キメラ!?」
「巨大魚と魔物を掛け合わせたキメラをこのローレル湖に放ったのです。それからというもの、漁に出るとそのキメラによって、網は破れるわ、船を難破させるわと、大暴れでして……自警団のメンバーにも頼んではいるのですが、なかなかうまくいかず、今では漁に出ることすらままなりません」
涙ながらに語る町長は、悔しくてその場で膝を折ってしまった。
とりあえず我々は、食べ物に飢えている町民のために、フェリスさん率いる商人部隊によって炊き出しを開始した。
その横でフリソスとリーファさんの三人で話し合い。
「さてと、応急処置として食べ物は何とかなったが、ローレル湖に居るキメラを何とかしなくてはな」
「キメラなんて、どうせ合成生物でしょ」
「とはいっても巨大魚とのキメラらしいぞ」
「まぁ、私たちの敵ではないわね」
「ちょい待った。ドラゴンブレスで焼き払うのはダメだぞ」
「あらどうして? サクッとやっつけちゃえばいいじゃないの」
「やっぱりな、それじゃキメラどころか、湖の魚ごと処分することになるだろ」
「うーん? 仕方なくない」
首をかしげて可愛いポーズを取るが、何の解決にもなってないんですよ。リーファさん。
「リコスの言う通り、広範攻撃はダメね。ピンポイントで仕留めなくちゃ、でしょ?」
「あぁ、フリソスの言うとおりだ。我々の狙いはキメラ一点。そのほかの魚に被害を出したくないんだ」
「そんなことで悩んでいるの? だったらあれしかないでしょ。あれよあれ」
とんでもないことを言うリーファさんだから、どうなるのかと思ったが、一応まともな意見だった。
今日は日がどっぷりと落ちてきたので、明日から作戦を開始することにした。
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